第54話 赤面!?ストロベリートルテより甘い時間
馬車に乗って7時間、そろそろどの姿勢にも飽きてきたころ、久しぶりの都会フローベルに到着した。クベスと比べても人手の数が桁違いに多く、この地方の中心都市なのだなと思った。
またストロベリートルテとかおいしいもの食べて回りたいなー。…っていかんいかん、また欲張るとこの街にずっと滞在したくなるので考えるのはやめておこう。
時刻は17時。空は綺麗な夕焼け……ではなく、重苦しい雲のせいでだいぶ暗かった。
「まだ本を返すの間に合うかも」
ミストがそんなことを言いだした。そうだそうだ。本を返さなきゃいけないんだ。図書館が閉まるのは17時半なのでまぁぎりぎり間に合うか…。でも、明日でも良いんじゃない?
「明日は朝8時の馬車でメルリーに行くから」
クレアがそう告げてきた。メルリーというのは町の名前で、ここから西に80キロほどのところにある、フローベルと港町パルマを結ぶ街道沿いの町だ。パルマはそこからさらに80キロくらいあるようだ。1キロの重みがあっちの世界とえらく違うので、1日で100キロ以上を移動するのは無謀というかほぼできないのだ。
それはさておき、朝8時出発なので、是が非でも今日中に本を返す必要がある。
「じゃあ先に本を返しに行ってくる」
「はいこれ、今晩の宿の地図」
クレアはそう告げて、紙切れを俺に渡してきた。え…?俺も付添?いやいいけど。ナチュラルに渡してきたので、若干戸惑ったが、それにしても手書きの地図とは用意周到というか…、クレアってああ見えて結構しっかりしてるんだな。しかも手書きなのに結構細かいし。見る目変わる。
――ということで、俺はミストと小走りで図書館へ向かうことに。日本の図書館だと返却ボックスとかあるけど、さすがにそのシステムはここにはない。ちゃんと受付の人に対面で返す必要がある。閉館間際に来られたら舌打ちとかされるのかな…。あっちの世界でもあからさまに不機嫌そうになる人いたりするし…。いや、こっちの人はみんないい人だろう!
図書館の入口に辿り着いたのが残り5分前。意外と遠かった…。あぁ…この広い庭園が今日だけ憎い。
「はぁ…ちょっと疲れちゃった…」
ミストが手を膝について息を整えている。ここで休んでいると間に合わなくなるな…。
「俺が返しに行ってくるよ」
ミストを休ませて、代わりに行こうかと提案したが…
「だめ、本人じゃないと。サインもしないといけないし」
サインまで?クレカかよ。意外と徹底してた。…こうなったら。
俺はミストの手を掴んで走り出した。あぁ恥ずかしい!手が熱いよもう!
庭園を抜けて建物に入り、受付の前に来たのが2分前。…はぁ疲れた。受付の人は嫌そうな顔をせずに笑顔で対応していた。やっぱりいい人だった。
「間に合った。ありがとう」
返却を終えて、ミストが俺に礼を言って来た。俺は彼女の顔をあまり見ずにコクリと小さく頷く。
「庭園のベンチでちょっと休まない?」
「え?もう閉まるんじゃ」
「大丈夫。庭園はまだ閉まらないから」
ミストにそう言われ、外のベンチで一息つくことに。広い庭園には人っ子一人おらず、ちょっと寂しい雰囲気がある。ベンチに腰かけると、ミストが間を開けずに超至近距離で座ってきた。俺の左肩から下が、ミストの右肩から下と密着している…。
「ミストさん…、ちょっと近すぎ」
「なんでさん付け?」
「いやそこはどうでもよくて…スペースあるんだからもうちょっと…」
次の瞬間、俺の左頬に柔らかい感触が…。
「のえぇぇぇ!?」
「なんて声出してるの」
よくわからない声を出して驚く俺。いやだっていきなり過ぎる!!
「ミスト…結構積極的なんだ」
「…うん、そうかも。でもユウキだって私の手を引っ張るなんて積極的じゃない?」
「いや…あれは致し方なく…」
「えー?嫌だったの?」
「全然っ!でもすんごい恥ずかしかった」
ミストは天使のように柔らかい笑みでクスクスと笑う。もう魔女なのか天使なのかわからない。
「嬉しかったし、頼もしいなって思った」
「ミストだって頼もしいじゃん」
「それは私が魔女だからでしょ?」
「いやいや!賢さゆえだろ。賢いから魔法だって自在に操れるんだし、賢いのはミストの努力の成果だと思う」
魔女は特別な力が使える。それ自体が頼もしいわけじゃない。それを扱う本人の考えとか意志とかが大事なわけで、ミストはそこが立派だなって思った。
…なんてかっこつけたこと言ったかなと思っていると
「ユウキ、こっち向いて」
そう言われたので、半ば反射的にミストに顔を向けた。
――次の瞬間、俺は唇を完全に奪われた。時が止まったかのような感覚に襲われ……しばらくして彼女の口が離れた。
「いただいちゃった」
「い、いただかれちゃった…」
「あー!もう!恥ずかしいよーー!」
ミストは恥ずかしさゲージを突き破ったのか、突然吹っ切れたような声を上げて俺に抱き着いてきた。いやいやいや!ハグも恥ずかしいわ!っていうか、また…!ミストの胸が…!
「ミスト!今も恥ずかしい!当たってる!」
「こっちの方が落ち着くの!」
ミストはまったく離れないようとしない。その間にも俺の方の恥ずかしさゲージがみるみる上がっていく。
「いや…!その…!胸が…!」
「なにー?意外と大きいって思った?へんたーい」
「うんすごい思った。あと男はみんな…じゃなくて!俺は落ち着かない!」
俺がなんとか離れようと体をのけ反らせていると、ミストは名残惜しそうに俺から離れた。
「次はいつ私の胸に触れるかわかんないよ?」
ミストは一転してニヤニヤしながらいじわるそうに誘惑して来る。くっ!かっこつけずにもう少しそのままでいればよかったか…。
なんて、ミストの胸の感触を思い出しながら悔しがるのであった…。




