第4話 意外!エリルは行動派!
俺とエリルさんは花滝山にある池に向かうことにした。…これは少なくとも午前中は休みだな。
これから山を登るわけだが、山といっても標高は300mほどなので、登山というよりハイキングである。…とはいえ、制服姿でハイキングをしたことが無いのでやや不安ではある。
「早いところ山に入りましょう」
エリルさんは今はなんとか角と尻尾を隠せているが、いつ何時飛び出るかわからない。そこを運悪く人に見られたら面倒だ。もうニュースになってるくらいだし、多くの人に知られているだろう。
だから人気のない山に入れば安心できる。平日の朝だし、ハイキング客とかも居ないだろう。
「わかりました!こっちです!」
エリルさんは先頭切ってズンズンと歩き出した。…山の入口とは逆方向に。
「おーいエリルさん!そっちじゃない!」
「あ…、すみません」
俺は慌てて呼び止め、間違いに気づいたエリルさんは立ち止まって申し訳なさそうな顔で振り返る。
張り切って歩き出した割には、最初から方向を間違えるとは…ドジなのか?まぁ、見ず知らずの街だし仕方ないか。
逆に俺は、小さい頃から何回も山を登っているので、地図を見なくてもすんなり行くことができる。交通量の多い通りは避けて、細い小道を選んで山に近付いていく。
「あの…、手助けしていただいてありがとうございます」
歩きながらエリルさんがぺこりと頭を下げて礼を言う。
「困ってる人を見過ごすわけにはいかないですし」
なんて綺麗ごとを言ってみる。初めは通学途中の高校生を騙して遅刻させようとする陰湿な人と思ってたけど。
「えっと…、まだお名前を聞いてなかったです」
「あぁ、草津裕樹って言います。ファミリーネームが草津で、ファーストーネームが裕樹です」
「ファミリーネームが先に来るんですね。おいくつなんですか?」
「16です」
「あ!私もです!同い年だったんですね!」
エリルさんも16歳だったのか。彼女の世界には学校とかないのかな。そうだとしたら相当羨ましい。仮に学校が無かったとしても好きなことなら勉強できるし、受験勉強をしなくていいのが何より良い。受かるための勉強は正直嫌いなのだ。
「ユウキって呼んでいいですか?」
エリルさんから呼び方を提案された。女の子に名前で呼ばれるなんてちょっとドキッとする。…でも、そういや俺もエリルさんって呼んでるな。たぶん名前だろうし。
「いいよ。じゃあ俺もエリルさんじゃなくてエリルで」
早速敬語を取りやめる。堅苦しいし。
その後、何人かとすれ違ったが、エリルが頑張って角と尻尾を隠し通したおかげで、気付かれることなく登山道の入口に辿り着くことができた。
「あっ!ここ憶えてます!確かに通りました!あとは任せてください!」
エリルはそう言って、またもや張り切りだして登山道を歩き始めた。エリルは敬語をやめようとしない。その方が自然らしい。俺も彼女の後を追いかけるように山を登っていく。
大人しそうに見えて意外と行動派のようだ。それに、早く元の場所に戻る手がかりを知りたいのだろう。気持ちはわかる。わかるけども……。
「エリル!そっちじゃない!こっち!」
分岐点でまたもや違う方に進んでいこうとしたので、慌てて呼び止める。確率2分の1を見事に外すエリル。しかも迷う素振りを全く見せないから逆にすごい。
「ごめんなさい…。また間違えてしまいました…」
エリルは戻ってきて3度目のしょんぼりを見せる。
「次こそは…!」
そして、すぐにやる気モードに切り替え。…おいおい、ちょっと待て。
「もしかして…方向音痴?」
俺が窺うように尋ねると、エリルはギクッとして体をのけ反らせた。だが次の瞬間、逆に顔を俺に近付けて反論の態勢に入った。
「そんなことありません!私はこう見えて旅好きの行動派なんです!」
エリルが自分をアピールする。確かに行動派だというのは認めよう。旅好きなのも良いとは思う。
「今のはたまたま勘が外れただけです!もう外しません!」
それだよ。それを改めるんだよ。勘が良いならまだしも、彼女の勘ってやつは結構鈍い気が…。
「さぁ!付いてきてください!」
エリルの突っ走りモードはまだまだ継続。学校……午後も無理だな。