第13話 観念!並々ならぬくどい2人
俺とエリルは水の魔女を追うのを一旦諦めて、町の中へと向かうことにした。
町に入ると、メインストリートと思われる広々とした石畳の道の両脇に家々が建ち並んでいる。明らかに日本の町とは違く、ヨーロッパの片田舎の町みたいな雰囲気だ。
これまで海外旅行はしたことが無かったので、町の雰囲気は新鮮そのもの。俺は思わずキョロキョロと観察するように視線を移しかえる。
「ユウキにとっては初めての町ですもんね。のんびりした雰囲気でいいですねー」
そう。この世界に来て初めての町。RPGだと町という存在にありがたみを感じてしまうが、今の俺もまさにそんな状態。町から外に出たらまたおっかない魔物が出てきそうだし。
…にしても、のんびりというか人の気配がない…。さすがに空家でもないだろうから人は住んでいるんだろうが、さっきから人影がない。
その疑問もすぐに解決した。しばらく進むと広場のようなところに出て、そこにたくさんの人影が。何やら賑やかそうに作業をしている。
「こんにちはー。何の作業をしてるんですか?」
俺は近くにいたおばさんに声をかけて尋ねてみる。
「井戸を整備してるんだよ」
「井戸?」
エリルは首を傾げる。
「旅行かい?町の西側に水の無い川があったでしょう?この町はあの川から水をひいていたんだけど、数日前から川の水が無くなってしまってねぇ。代わりの水を確保するために、ミストちゃんが魔法で地下水を湧かしてくれたんだよ。それで井戸を整備してるってわけ」
ミストちゃん…?まさかさっきの水の魔女か。彼女が河原にいたのも、水が流れなくなった原因を探っていたからかもしれない。そんな時に旅に出られるわけがない。…なんか悪いことをしたな。
「エリル、俺達も水が流れなくなった原因を突き止めよう」
俺はそう告げて早々に踵を返す。
「あ!ユウキ!」
エリルも慌てて俺の後に続く。どのみち水の魔女は仲間にする必要があるし、俺としても水が流れなくなった原因が気になるのだ。
というわけで、俺とエリルは町を出て川の上流へと足を進めることにした。町はずれになると川の両側は鬱蒼とした森になり、河原を歩く以外に手立てがなさそうなので、エリルに注意しつつ河原を歩いていく。
「うう…、歩きづらくて仕方ないです…。私も空を飛べたら…」
エリルは残念そうに呟く。彼女は半竜だが翼が無いので空を飛ぶことはできない。
「やっぱり空を飛ぶことに憧れとかあるのか?」
「ありますよ!空を飛んだら気持ち良さそうじゃないですか~」
確かに夏の暑い時期なら気持ち良さそうだ。けど、風が強い日とか、冬とかだと凍えて死にそう…。
異世界に来てまで現実的な思考をして何やってんだ俺は。両手を広げて楽しそうなエリルにはもちろん言わないでおこう。
河原を歩くこと1時間、前方に人影が見えた。淡い水色の髪……水の魔女、ミストだ。
「あっ!ミストさーん!」
エリルはミストを見つけるや、大声で声をかける。…と、ミストが振り向いた。
俺達を視認するや、明らかに嫌そうな顔をするミスト。…そこまで嫌そうにしなくても。
とりあえず協力する旨を伝えるべく彼女の方へと近付いていく―――そのとき、異変が起きた。
「グワァァァーー!!」
突如、脇の森からおぞましい鳴き声と共に紫色の体毛をした熊のような魔物が飛び出してきたのだ。
「げっ!また出た!」
俺はびびってまたもや足がすくんでしまう。
「危ない!!」
すると、エリルが前に出て尻尾をぶん回した。見事魔物にクリーンヒットして、魔物は後方に吹っ飛んだ。…さすがエリル。
「ありがとうエリ…」
「グワアァァァーー!!」
俺がエリルにお礼を言っている最中、吹っ飛んだ魔物が早くも起き上がって唸り声をあげる。
「くっ…!」
エリルは悔しそうに歯を食いしばる。ブレスを吐けば魔物を倒せるが広範囲を破壊しかねない。なんとかブレス以外の方法で倒すしかないのだが、方法が思い付かない。
「グワアァァァーー!!」
魔物は再び唸り声をあげると、俺達に向かって襲い掛かってきた。ビビったままの俺、ブレスを吐けないエリル。絶体絶命―――!
ブシャアァァ!!
その時、魔物の足元の地面から水が噴きだしたのだ。魔物はそのまま上空へ突き上げられ、10メートルくらいの高さまで吹っ飛ぶと、その高さから落下して地面に激突。さすがの魔物も気絶してしまった。
「今のは…」
俺は呆気に取られた状態でミストに目を向ける。どうやら彼女が魔法で助けてくれたようだ。
「ありがとうございますミストさん!おかげで助かりました!」
エリルは満面の笑みでミストにお礼を言う。一方、ミストの表情は相変わらず機嫌よくならない。
「なんで私の名前を知ってる?」
「町の人から聞きました。ミストさん、町のために川の水が流れなくなった原因を探ってるんですよね?俺達も手伝いますよ」
「余計なお世話」
俺達の協力を一蹴するミスト。だが、ここで引き下がっては前に進まない。
「じゃあ勝手についていきます」
少々強引かも知れない。案の定ミストは嫌そうに眉を寄せる。が、俺達のくどさに観念したのか、ハァーとため息をつき
「もう勝手にして」
諦め声でそう告げると、上流へ向かってトボトボと歩き出した。




