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方向音痴の半竜娘は旅がしたい  作者: 揚げパン大陸
序章 こんにちは半竜娘さん。こんにちは異世界
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第1話 危険!?半竜娘現る! その1

 寝起きが悪いので、朝起きても食欲は湧かないし、テレビを見ようとも思わない。…そもそも、その時間はつまらないニュースしかやってないから興味が湧かない。

 けれど、だいたい両親がニュースを見るのでテレビ自体はついている。だから、アナウンサーが話している内容も、勉強するときに聴く音楽と同じで単なるBGMでしかない。

 別に社会情勢に関心が無いわけではない。単に朝は見る気が無いってだけだ。これはニュースに限らずとも、例えば夜にやる自分の好きな番組だって見る気にならないだろう。


 今日も全くの無関心状態で朝ご飯を軽く食べていたのだが、向かいに座っていた父親が発した言葉を発端にテレビに意識が向いてしまった。


「ほぉー、怪獣のコスプレをした女の子が目撃されたって、そんなことがニュースになるんか。平和だねぇ」


 マスコミに対する皮肉なのかよくわからない発言はともかく、内容がちっともピンと来なかったので、思わず普段は見ない朝のニュースに目を向けてしまったのだ。

 画面にはどこかの住宅街にいる記者の姿と、“怪獣のコスプレ女子目撃!”と書かれたテロップが映っていた。どうやら画面に映っている、どこかわからぬ住宅街にコスプレ女子が現れたらしい。


【私は今、怪獣コスプレ女子が現れたという深岡市ふかおかし花滝はなたきに来ております】


 記者がそう発言した。


「すぐ近所じゃん」


 思わず口から出てしまった。深岡市というのは自分達が住んでいる地方自治体で、花滝というのは歩いて5分くらいのところにある地区だし、高校への通学中にも通るようなところだ。

 自分たちの住んでいるところがテレビに出るなんて滅多にないので、そういう意味では驚きだが、肝心の内容はなんだかよくわからない。


「ネッシーなら観光地化できたかもしれんが、怪獣のコスプレはちょっと弱いな」


 父親はなんだったら見物客を呼び込もうと思っていたようだが、怪獣のコスプレ女子ではそれも厳しいだろう。…まぁ、確かに住宅街を歩いてていきなり怪獣のコスプレした人が現れたらびっくりするけど、それでわざわざテレビ局が取材に来るのはなんだかなぁと思う。いたずらで日本中に怪獣のコスプレした奴が同時多発的に現れたら、このテレビ局は一体どうするのだろうか。

 ニュースの内容よりもマスコミの対応の方が気になってしまった。…学校に行こう。



 結局、よくわからない地元のニュースを1つ見ただけで家を出た。間違いなく学校で話題になるだろうが、それもメインはマスコミがわざわざ来たことの方だろう。小学生や中学生の時なら、“俺達も怪獣コスプレ女子を捜すぞー”とかお祭り騒ぎになりそうだが、好奇心の萎れた高校生はそんなこと思わない。

 …気付くと、いつの間にか例の花滝地区に来ていた。この地区はすぐ近くまで山が迫っていて、春夏と様々な花が咲くことで知られている。山の中腹には池もあるので、ネッシーが出るならそこになるわけだが、怪獣コスプレ女子は何を思って住宅街を徘徊していたのだろうか。


 ビチャッ…!


「おわっ!」


 その時、すぐ目前で襲撃が起きた。

 なんと、頭上の電線に止まっていたクソカラスがフンを落としやがったのだ。あと0.5秒前に進んでいたらストライクだっただろう。石でも投げてやろうかとカラスを睨み付けていると、カァーと生意気な鳴き声を発して、傍にあるみすぼらしい小さな神社の中へと飛んでいった。

 その神社は誰も管理しておらず、ぼろっちい祠があるだけなのだ……が。


「ん…?」


 ふと、祠に目を向けると、ちょうど戸が開いて、中から2本の茶色い角の生えた薄緑髪の女の子が顔を出してきた。


「はっ…!」


 その女の子は俺に気付き、すぐさま戸を閉めようとするが、片方の角が挟まってそれ以上閉まらなくなってしまう。角を引っ込めようにも、中が狭いのか難儀しているようだ。


『見つけてしまった…!』


 なんと運が良いのか悪いのか、例の怪獣コスプレ女子を発見してしまったようだ。

 このまま無視して離れても良かったのだが、見つけたら見つけたで気になってしまうのがさがというものだ。俺は恐る恐る足を祠の方へ進めていき、祠の前に立ってじっと見つめる。


「あの…もしもし…怪獣のコスプレしている人ですか?なんかニュースになってますよ…」


 そっとささやくように話しかけてみる。とりあえずは反応を窺おう。…というか、まだ角が片方出たままだ。

 様子を窺っていると、まさかの返事が。


「これはコスプレじゃありません…!」


 コスプレじゃない!?いやいや、どういうこと!?単なる悪ふざけなのか頭のおかしい人なのか…どっちかわからないが困ったもんだ。


「こちらからも…質問良いですか…?」


 遠慮がちな声で逆質問してきた。この状況で何を訊きたいのだろう。“警察に通報するんですか?それだけは勘弁してください”とかかな。


「ここはどこですか…?」


「……」


 一瞬だんまりになってしまった。ここはどこ…?ほんとに頭のおかしい人なのかな…?

 一度か二度、電車に乗ってる時に“今ここってどこですか?”っておばあさんから訊かれたことは確かあったけど、この俺と同じくらいの年代と思われる女の子から、このシチュエーションでここどこですか?って訊かれたことはないし、訊かれるとも思ってなかった。

 …こういう時はなんて答えたらいいのだろうか。素直に深岡市の花滝ってところですって言えばいいのか。…いや、そもそもそれを言ったところでピンと来ないかも知れない。ここは思い切って、怒られる覚悟で言ってみよう。


「日本です」


 そんなことは知ってますって罵られそうだ。さすがに失礼だったか…?


「…ニホン?聞いたことが無いです…。それは…街の名前ですか?それとも、国の名前ですか?」


「いや、あの…国名です。正式には日本国です。国際的にはジャパンって呼ばれてます…」


 予想の斜め上を行く返事だったので取り乱してしまった。え…?びっくりなんだけど。


「じゃパン…?おいしそうな名前ですね…」


 これはなんて反応してあげればいいのだろうか?だんまりはかわいそうだし、“はいそうですね”が無難か。……いや、やっぱりだんまりで。

 ……違うなこれは。この女の子に弄ばれてるんだ。通学途中の人間を捕まえて遅刻させてやろうって算段か。なんて陰湿な。さっきのクソカラスと同じくらい陰湿だ。

 そう思うとだんだん腹立たしくなってきた。こんなことで時間を潰されて遅刻するのは勘弁だ。


「じゃあ俺はこれで」


 さっさと離れることにした。


「あ…!待ってくださ……あわっ!」


 ガタッ…


 女の子が呼び止めようとした拍子に祠の戸が外れてしまい、そのまま中の女の子も投げ出されるように姿を現した。


「いたた…」


 俺はここで初めて女の子をまじまじと見つめた。薄緑色の髪からは茶色い角が2本飛び出ている。そして、ベージュのフワッとしたスカートからは茶色く立派な尻尾が飛び出ている…。顔は童顔寄りで結構かわいい。

 この姿をパッと見たら、確かに怪獣のコスプレをした女子と認識するだろう。……だが、まじまじと見ると、コスプレにしては精巧過ぎる気がしてきた。…試しに尻尾を触ってみるか…。

 いつのまにか謎の好奇心に駆られている自分がいた。そっと手を伸ばして尻尾に触れる―――と、表現し難いが、強いて言うなら魚の皮をすごく硬くしたような感触だった。コスプレってこんなところまで精巧にやり込むものなのか?

 そんなことを思っていると、次の瞬間悲劇が起きた。


「ひゃ…!触らないでください!!」


 ドカッ!!


 女の子がそう叫ぶと、尻尾が突然振りあがり、勢いよく俺の体をブッ飛ばしたのだ。

 びっくりするくらい吹っ飛んでコンクリート壁に激突した。あまりに驚愕して思考が追い付いていない。なんか…筋肉マッチョに投げ飛ばされたような感じだ。されたことないけど。

 こんな見た目華奢そうな女の子が、小柄じゃない高校生男子をこんなにブッ飛ばせるだろうか。しかも尻尾で。

 何かもう謎すぎる…。この女の子は一体何なのだろうか?……とりあえず、冷静になるべきだ。ここはまず…


「あの…謝ってください」


 女の子に謝罪を要求した。


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