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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第5章 エルヴバルム編
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アルカディアの手札

今回はいつもより長めです

いよいよフィリアたちアルカディアの未来が決まるかもしれない交渉の話が始まる。


「ディアナ、例のものを」


しかし、その前にフィリアは事前に用意していたあるものをディアナに出すように指示する。


「あれじゃな。今用意する」


ディアナはあるものを用意するために何もない空中に手を伸ばす。すると、不思議なことに何もない空間から亀裂のようなものが生まれる。


「……っ!?」


その光景にソルドレッドたちが、言葉も出ないほど驚いている中、ディアナは躊躇いもなくその亀裂に腕を入れる。


「き、きみ……それは……いったい」


みんなを代表するかのようにソルドレッドがその異様な光景についての質問を投げかけてきた。


「ああ、これですか。これはディアナが開発したオリジナルの魔法だそうですよ」


「魔法の開発……だと」


フィリアが口にした答えにソルドレッドを始め、メルティナを除く王族全員が唖然としていた。


魔法の開発というのはそう簡単にできるものではない。

相応の知識と経験、さらに魔法の開発に最適な環境などが揃っていないと新しい魔法を作り上げることができないというのがこの世界の常識。


人間だけでなくエルフ族でさえ、その条件に見合う人材や環境が揃わず、ここ百年で新しい魔法が実用された例は数えられるほどしかない。


「彼女は森妖精族であり、熟練の魔導師でもあります。この魔法は確か……魔力で空間をこじ開け、そこに自分だけの空間を形成し、その中に様々なものを収納することができる便利な魔法とか言っていたわね」


探し物を探し中のディアナに代わってフィリアが新魔法の説明をするも眉をしかめながら納得していない様子だった。


「ち、父上、今の話を聞いていると力技で完成させた魔法となりますが、そのようなことが可能なんでしょうか?」


「馬鹿な。力技でそんな芸当ができるわけないだろうが。たとえ力技でできたとしても空間を形成し、その空間を留めておくことなどできるはずがない。そもそもそういったことができる次元や空間系の魔法というのは高度な技術が必要なはず。それこそ賢者クラスでなければ無理な話だ」


「ですが父上、現に……」


「分かっている。森妖精族と言ったな……。フリード、クリス、あの者を敵に回すなよ。まだ実力は分からないが魔法戦となればおそらく束になっても勝てる見込みがないと思え」


ソルドレッドたちが小声でそのような会話をしていることなど知るよしもないフィリアは、話を交渉の方へと戻す。


「話は逸れましたが、今からお見せするのはエルヴバルムが私たちと手を組むことで得られる利益の一つです。先ほども申しましたが、私たちは両国の間で貿易を行いたいと考えています」


そこでいったん話すのを止め、ちらりとディアナの方に視線を向けた後、一呼吸置き、再び続きを話し始める。


「アルカディアが国土としている場所は元々、魔境の森と呼ばれる多くの魔物たちが生息している森でした。この森には他の土地にはない潤沢なマナが溢れているためそこに生息する魔物たちは通常の個体と比べ姿形が変異しています。……それはもちろん、その魔物から採取できる素材や魔石にも同じことが言えます」


「おっ、ようやく見つけたわい」


例のものを探し当てたディアナは思わず口に出していた。その言葉にフィリアは少し安心した様子を見せていた。


「ディアナ、それをみなさんに見せてあげなさい」


「了解した。……まずはこれを見てくれ」


そう言うと、ディアナは拳大ほどの魔石をテーブルの上に置いた。その魔石に一同は首を傾げる。


「これは……魔石のようですが、随分と小さな魔石だな」


ソルドレッドは小馬鹿にした言い方をしながら鼻を鳴らす。


「この魔石はフレンジ・ボアのものです。他の土地に生息している個体から採取しました」


フレンジ・ボアとは単体であれば最低ランクの冒険者でも倒せる魔物。なぜそのようなものをこの場で見せたのか、その意図を読み取ることができないでいた。


「それで……これを私たちに見せた理由はいったいなんでしょうか?」


クローディアははっきりとしないフィリアに対してトゲがあるような言い方で質問する。


「これは単純に比較対象として出したまでです。次に見せるのが本題です。……そしてこれがアルカディアに生息するフレンジ・ボアの魔石になります」


宣言した後、ディアナがその魔石をテーブルの上に置いた。

次の瞬間、ドンという大きな音を立てながら魔石の姿が現れる。その魔石は、先ほど見せたものより三倍以上の大きさがあり、上質なマナが魔石内に含まれている。


「これは……本当に同じ個体の魔石……なのか?」


「はい。生息地が違うだけでどちらもフレンジ・ボアのものとなります」


その言葉に再び驚かされたソルドレッドたち。

しばらく二つの魔石を見比べた後、またもや小声で会話をし始める。


「これが本当に同一個体のものと思うか?」


「そうですね……すぐにバレるような嘘をつく理由が彼らにはありません。それにティナに聞けばすぐにわかることです」


メルティナの方へと視線を移し、訴えかけるようにメルティナを見つめる。


「か、彼女たちが言っていることはすべて本当のことです。潤沢なマナの影響を受けているせいですべての魔物たちが変異しているんです」


「ひとまずティナの言っていることが本当だとしよう。もしあのような上質な魔石が手に入るのだとしたらなんとしても手に入れたいものだな。魔石でこれなら他の素材もおそらく通常のものとは比べ物にならないほどのはずだ」


「確かに……フリード兄様の言う通りですね。あれほどの魔石なら結界の維持に必要な魔力の代用品だけでなく、様々な用途に使用できますものね」


「結界の維持には大量の魔石を消費しています。今はまだ心配ありませんが将来のことを考えると我々に断る理由はありませんねアナタ」


クローディアに指摘され、唸り声を上げる。

その後、どうしたものかと難しい顔をしながら考える素振りをしていた。


「いかがでしょうか? もちろんこの魔石でなく、様々な素材や食料品、日用品など様々な商品を輸入しようと考えています」


「……確かに魅力的な提案だが、すべてを決めるのは君たちの話を聞き終えたときにしようじゃないか。他にもあるんだろう?」


「……ええ、そうですね。少し先走ってしまったようですね。では、次にまいりましょうか」


先ほどの言葉でまだ折れることはないと判断したフィリアは頭を切り替えて次の提案へと話を移す。


「二つ目は、あなたたちにとって有力な情報の提供です」


「情報……ですか?」


「はい。先ほど王宮の間で言っていましたが、連れ去られたエルフ族の中で戻ってきたのはメルティナ王女殿下だけのようですね。つまり、他のエルフ族の情報を掴んでいないとお見受けします」


その言葉はまさしくエルヴバルムとしては図星のようで誰一人として反論の言葉を口にはしなかった。


「それではあなた方なら情報が掴めるとでも言うのですか?」


「その通りです。私どもは奴隷商と強いつながりを持っているため奴隷として売られているなら簡単に情報を入手できます」


「奴隷商とつながり……だと」


なにか勘違いしているのか、「奴隷商」という言葉だけで顔をしかめ、フィリアを睨み付けていた。


「一応言っておきますが、亜人奴隷を解放するため私たちは奴隷商を利用しています。私利私欲のために利用しているのではないということだけは理解してください」


「ええ、もちろんです。理解していますとも」


言いながらクローディアは、さっそく勘違いしているソルドレッドを一睨みしてから話を続ける。


「……それで、具体的にどういった情報を提供してくださるのでしょうか?」


「そうですね……。例えば売り出されている場所や人数。すでに買われた場合は購入者まで突き詰めることが可能です。あなたたちエルフ族が人間の街を動き回るには無理があると思いますが、私たちにはそれができます。……あ、でもタダでとはいきませんがね」


最後の方ではにかむような笑みを見せながらフィリアは相手の反応を待っていた。


(くっ、この提案も我々にとってはメリットしかない。この緊迫した状況の中、これ以上遠征部隊に人員を割くわけにはいかない。それに今の遠征部隊で得られる情報にも限度がある。……となると、自ずとアルカディアと手を組んだ方が……くそ! 反論の余地がない)


一つ目の提案と同様に反論の材料が見つからず悔しそうに奥歯を噛み締める。ここでアルカディアとの友好を結ぶというのも一つの手だが、それでもやはり長い歴史を誇るエルヴバルムとしては新参者と手を組むなどとプライドが邪魔して頷くことができずにいた。


「……まだご満足いただけないようですね。それでしたら三つ目に移りましょう。これに関してはきっとあなたがたも喜ぶはずです」


「……?」


「三つ目に提案するのは戦力の提供です。先日の襲撃によっておそらく国を守る兵士までもが連れ去られたため国力が減少しているはずです。そこで、私たちはあなたたちに強力な戦力を貸し出しましょう」


この提案はこれまでの中でも最もエルヴバルムにとっては魅力的な提案になるはず。事前に紫音たちが入手した情報ではエルヴバルムの市民だけでなく多くの兵士たちが奴隷として売り出されていた。そのため、国力が低下していることは確かなはず。

そんな中、今のフィリアの提案は無視できないはずだと紫音は睨んでいた。


「戦力というと、いったいどういうのを貸し出してくれるのかしら? もしかしてそこの森妖精の方とかでしょうか?」


「残念ながら彼女は貴重な人材です。もちろん、他の亜人種の国民のかたたちもそれぞれ国の発展のために必要な人材のためお貸しできません」


「ほう、それではいったい誰が私たちの戦力の一つとして貸してくれるかな?」


「我々としては命令に従う百体の魔物を貸し出そうと考えています。それもアルカディアに棲む強力な魔物たちをね」


予想だにしていなかったのか、フィリアの言葉を聞いた瞬間、ソルドレッドたちは「百体だと……」、「ま、魔物!?」などと口にしながら信じられないといった顔を見せる。


「百体の魔物を用意できるのも、あなたたちの命令に従う従順な魔物を用意できるのもすべては彼の協力があってこそ実現可能なことです」


冷静になる暇を与えることなく続けてそのようなことを言うと、フィリアは紫音のほうに顔を向ける。


「彼のおかげというのはどういうことでしょうか?」


「ここにいる紫音はテイマーの職業に就いています。あなたたちで言うところの魔物使いです。彼はアルカディアに生息する屈強な魔物たちと主従契約を結んでいます。それはもう百体貸し出しても余るほどの数と契約しています」


そこでソルドレッドは、ようやくボロを出したな、とでも言いたげな顔をしながら立ち上がる。


「フン、馬鹿め。それほどの数と契約できるはずがなかろうが。我が国にも魔物使いは何人かいるが、どれも一体や二体、過去を遡っても五体までしか契約できないと聞く。貴様ら私たちを騙そうとしているのだろ」


ソルドレッドのその問いかけにフィリアとバトンタッチするように紫音が答える。


「いいえ、国王陛下。彼女の言っていることはすべて真実です。契約できる数に限度がないだけでなく、多種多様な種族と契約することも可能です。さらに付け加えれば、私と契約したものは能力が底上げされ、強力な戦力になります。きっとあなた方の力になることでしょう」


「……っ!?」


自信満々に言ってのける紫音の態度に思わず言葉が詰まってしまう。


真偽はともかく口に出した以上、それだけの力があることは先ほどの言葉の中で理解できる。

しかし今は情報量が多すぎてソルドレッド一人では確かな判断ができずにいた。困り果てたソルドレッドは助けを求めるように隣にいるクローディアに視線を送る。


「……あなたの好きにしていいですよ。(わたくし)としてはティナが彼たちに心を開いているので少しは譲歩してもいいと考えていますが、やはりここは国を束ねる長としてあなたが決断してください」


ソルドレッドに対して微笑みかけながらクローディアは彼にすべてを(ゆだ)ねる。クローディアの言葉を受けたソルドレッド王は顎の手を当てながら思案していた。


「どうでしょうか? すぐに信じてもらえるとは思っていませんが、私たちと友好を結ぶことはあなたたちにとって利益しか生まないはず。まだまだ発展途上の国ですが将来を見据えて投資をすると思って考えてはくれないでしょうか? ……もしまだ足りないようでしたら次の――」


「よし、分かった!」


紫音が最後の手札を切り出そうとした瞬間、ソルドレッドが話の途中で声を上げながら中断させた。


「君たちの熱意は充分に感じた」


「……で、では?」


「しかし、私たちは君たちのことをなにも知らない。……そこでだ」


突然、ソルドレッドは紫音たちに向けて指を突きつけながら高らかに宣言する。


「君たちの実力を確かめるために……君たちに試練を与えよう!」




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