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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第5章 エルヴバルム編
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誤解からの和解

「ん……うぅ……こ、ここは……?」


どれくらい眠っていたのだろうか。紫音との戦いで意識を失っていたアイザックがようやく目を覚ました。

まだ覚醒しきっていない頭を働かせ、現在の状況を確認する。


まず周辺に目をやると、そこにはバインドで拘束されている自分の部下の姿が。かくいうアイザック自身も部下と同じようにバインドによって動けない状況に陥っている。


ここにきて自分が意識を失う前のことを思い出す。


(そうか……私は負けたのか)


格下だと思っていた人間相手に敗北してしまい、自分の力のなさに肩を落としていた。


「気が付いたようだが、大丈夫かお前?」


アイザックが顔を上げるとそこには自分を見下ろしている紫音の姿が見えた。


「殺せ……。捕虜になるぐらいならここで死んだ方がましだ」


「……はあ。あのな、何度も言っているが俺たちはお前らに危害を加えるつもりはないって何度も言っているだろ。お前の隣にいるお仲間たちは俺らの話を聞いてくれるみたいだがお前はどうする?」


紫音の口から敵ではないと伝えられるも相手が人間ということで不審がるアイザック。

そんなとき、「あの……」と、申し訳なさそうな声色を出す部下の声が聞こえてくる。


「隊長、どうやらこの人たち本当に危害を加えるつもりはないようですよ。私も拘束されていますが、傷一つありませんし」


リースとレインと戦っていた魔物使いの女性が紫音たちのことを無害だと主張する。

そして、もう一人。


「そのとおりっスね。あたしもケガとかはしていませんし……」


「……お前……どうでもいいがなんか匂うぞ」


なぜか部下のほうから嗅いだことのないあ悪臭が漂っていた。


「それもこれも全部、隊長が後先考えず突っ走ったせいっスよ! おかげで仕事着はこんなにクサくなって、オマケにものすんごい怖い目に遭ったんスよ! おとなしくこの人たちの話を聞きましょうよ」


よほどフィリアとの戦闘がトラウマになったのか諜報員の少女はブルブルと体を震わせていた。


なにはともあれ部下二人の話を聞き、アイザックの中の紫音たちの評価も少しは変わっていった。

諦めたような顔を浮かべながら改めて紫音の方へと視線を移す。


「分かった。お前たちの話を聞こう……」


ようやく話を聞く気になったアイザックにひとまず安心した紫音はほっと安堵のため息をつく。


「それじゃあ話す前に……」


そう言いながら紫音はアイザックたちに向けて手をかざすと、彼らを拘束していたバインドを消え、自由の身となる。


「……いいのか? 私たちが裏切ってお前たちに危害を加えるとは考えないのか?」


「別にいいよ。そのときはこっちも本気で行くから」


戦ってみて分かったことだが、はっきり言ってこっちが本気を出せばアイザックたちに勝つ見込みはあった。

紫音たちの方も傷付けないように配慮して戦っていたため実力の半分も出せていなかった。

実際、フィリアの竜化やディアナの参戦などまだまだこちらには余力が残っている。


「まあ、それはさておき……まずはお互いに自己紹介でもしようか。お前たちにお願いしたいこともあるし、そのためにはお互いのことを知って信頼関係を築いていけないとね」


屈託のない笑顔を浮かべながらアイザックたちに微笑みかけている。

アイザックたちは警戒しながらもここは紫音の話に乗ることにする。


元・メルティナの護衛騎士――アイザックは先日の襲撃の後、護衛騎士の任を解かれ、現在は新設部隊・遠征部隊の隊長に就任した。


この部隊は、メルティナおよび襲撃の際に誘拐されたエルフたちの捜索、そして奪還するために作られた部隊。

アイザックの他には、元々エルヴバルムの諜報部隊に所属していたシーア。そして遊撃部隊に所属していた魔物使いのエリザ。

他の隊員は遠征の途中で今、国に残っているのはこの三人だけとのこと。


「今回、国には報告のために戻ったのだが、その際結界が破られたとのことで私たちが偵察に行ったところお前たちを見つけたわけだ」


「あー、やっぱりあのせいだったか」


「なによ。結局こうなったのも紫音のせいじゃないの」


紫音たちの居場所が知られた経緯をアイザックの口から聞き、頭を抑えながらフィリアは紫音に非難の言葉を浴びせる。


「いや、あの場合はしょうがないだろ。こっちだって急いでいたんだし……」


自分の言い分を主張してみるもののフィリアは呆れたような表情を浮かべながらなにか言いたげな顔をしていたが、そのまま言葉を飲み込み、黙ってしまった。


少し気になりつつも今は無視してアイザックたちに自分たちの話をすることにした。

メルティナと出会った経緯から今に至るまでのことや自分たちの国のことについてなど大まかに説明する。


話を聞いていたアイザックたちは始めのうちは真面目に聞いていたのだが、だんだんと紫音たちが見たことあるような顔へと変わっていった。

それは、信じられないようなものでも見たかのような顔だった。


「他種族が共存している国だと……そのような国、聞いたことがないが」


「さっきも言ったが、まだできて二年しか経っていないんだ。まだ知名度もないから知らなくて当然だよ」


「……念のために聞いておくが、姫さまに対してなにか失礼なことをしてはいないだろうな」


(どうしよう。心当たりがありすぎてなにも言い返せないや)


危険な目にさらしたり、一国の王女に仕事をさせたりなど少なくとも丁重な扱いをしていないことだけは確かだ。

そのせいでアイザックの問いかけにはっきりと答えることができずにいた。


「あ、あのっ!」


これまで傍観していたメルティナが突然声を上げながら二人の間に割り込んできた。


「わ、私……シオンさんたちにはお世話になりっぱなしなのであまりシオンさんたちを悪く言わないでください!」


「ひ、姫さま……?」


「シオンさんに出会うまでの生活はひどいものでしたが、シオンさんが私を買ってくれたおかげでいまこうしてアイザックと再会することができました。だから……その……シオンさんのことを少しは信用してください!」


あまりの剣幕にアイザックはたじろいでいた。メルティナはというと、話すことがあまり得意ではないのに一気に話したせいか、少し息切れを起こしていた。


これでアイザックも少しは考えを改めるだろうと、紫音がそう高を括っていると、


「き、きさま……姫さまを飼っているとはなにごとだ! やはり非情な扱いでもしてきたんだろう! 言え! なにをしてきた!」


なにを誤解しているのか、紫音の胸倉を掴み、怒鳴り散らしてきた。


「おい、誤解だ。お前勘違いしているぞ」


「勘違いだと……。先ほど姫さまが飼ってくれたと言っていただろうが!」


「違う違う。奴隷だったティナを俺が購入したんだよ。それにこいつの首元を見てみろよ。首輪とか付いていないだろ」


「……? ああ、確かにそうだな」


妙な誤解が解けたのも束の間、少ししてハッとなにかに気付いたアイザックは再び紫音に詰め寄ってくる。


「お前……先ほど姫さまのことをなれなれしく愛称で呼んでいたがいったいどういう関係なんだ。あれは家族の間でしか呼ばれたことのない呼び方だ」


「なんだよ、たかが呼び方ぐらいで……あれはティナから言ってきたんだよ。ティナの名前を聞いたときあいつのほうからそう呼んでくれって言われたから呼んでいるだけだよ」


「なっ!? 姫さまのほうから……」


「……あれ? そういえばお前らは『ティナ』って呼んでいないよな? なんでだ?」


なにやら放心状態でいるアイザックをよそに今の話をしてふと湧いてきた疑問をフィリアたちに投げかける。


「だって、初対面相手にそんなくだけた呼び方使うわけないでしょう。友人でもあるまいし」


「え?」


「まあ、そうじゃのう。いくら本人から言われたとしても普通は愛称なしで呼ぶもんじゃろう」


「リースとレインも……か?」


「まあ、そうですね。まだあのときは親しくもないわけですし……」


「ボクの場合は愛称のこととか知らなかったのでいつのまに兄貴、メルティナさんとそこまで親密な関係になっていたのかなって気にはなってしましたが……」


これまで知らず知らずのうちに口にしてきた呼び方がどれだけ失礼に当たるのか今頃になってようやく思い知ることとなった。

紫音は自責の念に打ちひしがれ、激しく後悔していた。


「あ、あれ? じゃあこれからティナのことはメルティナさんとでも呼び直せばいいのか?」


「あ、あの……そこまで落ち込まないでください。私は気にしていませんし、そもそも私のほうから言ってきたんですから変わらず『ティナ』って呼んでください」


「え? いいのか?」


「は、はい……もうすっかり私も慣れてしまったのでいまさら呼び方を変えられると……」


「よかった。実は俺もなんだよね……」


(ひ、姫さまがあんなにも人と話しているなんて……)


メルティナが他人に対して愛称で呼ばせているだけでなく、紫音たちと普通に話している光景に場違いながらもアイザックは感動していた。


国にいたころのメルティナは、人付き合いが苦手で顔を合わすことなんてもってのほか。会話すら数秒で音を上げるほどだった。

それなのに紫音たちと一緒にいるメルティナはとても居心地がよさそうに見える。それほど彼らが信頼における人たちだとメルティナの顔を見ればすぐに読み取れる。

アイザックは、寂しくはあるが紫音たちのことを信用してもいいと思い始めていた。


「おい、シオンとか言ったな」


「え、ああ、そうだが」


「改めて聞くがお前たちの目的はなんだ? ただ姫さま連れてきただけではないのだろ」


「まあ、本音を言えばそうだな。と、言ってもあくまでティナを故郷に送り届けることが第一目標だけどな」


「では、やはり他にも目的があるのだな。……言ってみろ。姫さまを無事ここまで送り届けてもらったんだ。少しは協力させてもらおう」


「隊長、いいんスか? そんなこと言って」


「そうですよ。無理難題でも押し付けられたらどうするんですか?」


「心配するな。無論、私ができる範囲で協力させてもらう」


思わぬところで協力者を獲得することができ、紫音から笑みがこぼれる。

せっかくなのでこの人たちに頼むとしよう。紫音は本来、メルティナに頼もうとしていたことをアイザックたちに依頼する。


「実は俺たち、この国の王様に会って話がしたいんだよ」


「こ、国王様だと……それはなんとも意図が読めん目的だな」


「なにも悪い話じゃない。それに……お前たちにとって重要な情報も俺たちは掴んでいるんだ。直接報告もしたいんだが……できそうか?」


エーデルバルムで入手した情報で釣ってみるが、なかなか苦しい表情をしていた。


「アイザックお願いします! お父様にシオンさんの話を聞いてほしいんです」


まるで助け舟でも出すかのようにメルティナもアイザックに頼み込んできた。

メルティナにせがまれ、困ったような顔をしながらもやがて観念したように「わかった」と首を縦に振る。


「シーア、今すぐ城に戻り、このことを伝えに行ってくれ」


「了解しました。……あ、でも」


「ん? どうした?」


「その前に着替えてからでもいいっスか? さすがにこのまま城に戻るのはちょっと……」


シーアは鼻を摘まみながら未だに匂いが残る服をアイザックに見せながら訊いてくる。

確かに服からは強烈な匂いを発している。このまま城に行かせるのは面倒ごとになる可能性がある。


「分かった。許可するが、なるべく早くするように」


「全速力で着替えてきます!」


そう言い残し、シーアは風のごとくあっという間に消えていった。

シーアが報告に向かったところでアイザックは再び紫音と向き直し、


「シーアが戻って来るまでの間、もう少し君たちのことを教えてもらおうではないか。まだ話していないことがあるのだろう」


「確かにそうですね。この際、あなたにもティナと同じ協力者になってもらいましょうか」


その後、紫音はアルカディアという国のことについての話をシーアが帰って来るまで語り続けていた。


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