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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第5章 エルヴバルム編
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不可視の敵

リースとレインが魔物使いの女性の身柄を確保していたころ、紫音は未だアイザックの身柄を抑えられずにいた。


2(ツー)4(フォー)――放出!』


「無駄だ!」


アイザック目掛けて放出されたライムのストーン・エッジは直撃する前に剣で弾かれてしまった。


少し前から紫音はライムも戦闘に参加させ、テイマーとしての戦いをしていた。しかし、それでもアイザックを戦闘不能にすることは難しく苦戦を強いられている。


(くそっ! こいつ視野が広いのか、背後をとってもまるで攻撃が当たらない)


攻撃がまったく通用せず、どう攻略すればいいか苦悩していた。


(リースとレインはどうやら確保に成功したようだが、フィリアは大丈夫だろうな……)


紫音は、この状況にも関わらずフィリアのことを心配していた。というのもフィリアが確保のことを忘れて大暴れしないか、そのことについて気がかりでいた。


確保に行かせる前、釘を刺しておいたが正直言って紫音は、フィリアを一人で行かせることが不安でしょうがなかった。

竜人族という種族のせいか、それとも魔境の森で人間たちを狩っていたせいか、理由は分からないがフィリアは戦闘好きなところがある。

そのくせ、熱くなりすぎ頭に血が上りやすい。


メルティナの言っていたことに間違いがないのならリースとレインが魔物使いの女性を相手にしていたということはつまりフィリアの相手は潜伏系の魔法を使う相手となる。


言い訳のように聞こえるが紫音は、そんな相手にどれだけフィリアが冷静でいられるか、それを考えたら目の前の戦闘に集中できずにいた。


(やっぱり心配だ……。少し見てみるか…………あ、あいつ……)


やはり心配になった紫音がフィリアと視覚共有を行ったところそこには、薙ぎ倒されていった木々の光景が視界に入った。


「不安的中か……」


紫音は、頭を抱えながら小さくそう呟いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



一方、紫音が頭を抱えているなど知らずにいたフィリアは怒りのあまり八つ当たりのように近くの()に拳を振るう。

みしみしという音を立てながらフィリアの拳を食らった樹は大きな音を上げながら倒れた。


「いったいどこにいるのよ! 隠れてないで出てきなさい!」


確保するべきエルフが見つからず、フィリアは声を上げながら叫んでいた。

リースたちと二手に分かれた後、紫音が放った魔法による衝撃でここら辺にエルフがいると踏んだフィリアだったがその姿は確認できずにいた。


それからもせめて遠くに逃げられないように周囲に気を配りながら探索していたが、一向に見つからない。

しかし、まだ遠くには逃げてはいないとフィリアの勘がそう告げていた。


「まだ遠くに行っていないはずよ。音とか出してくれれば絶対に居場所がわかるのに……」


強気な発言を出してみるがそれでも姿が見えず、フィリアは地団駄を踏む。

そんなフィリアを監視している者がいた。


「なんスかあの化け物は……パンチ一つで木を倒すなんてありえないっしょ」


太い枝を足場としてそこからフィリアのことをじっと観察していた。

結論から言ってフィリアの勘は間違ってはいなかった。


森林の中に溶け込むような濃い緑色の外套に身を包んだエルフの少女。

彼女はアイザックと同行していた仲間の一人であり、エルヴバルムの諜報員の一人でもある。


今回彼女は侵入者の情報を掴み、それを王宮に通達させるためにアイザックとともに行動していた。

もとより彼女は潜入や情報収集が仕事のため戦闘においてはまったくの戦力外だった。

しかしこのような状況に陥ってしまい、逃げるタイミングを完全に失っていた。


「マズいっスね。どうやってここまで侵入できたのか、背後にだれがいるのか、アイザック様が吐かせてその情報を持って王宮に知らせる予定だったんスけどね……まさかこんなことになるとは……」


すっかり予定が狂ってしまったこの状況に諜報員の少女は小さくため息をついていた。


「いますぐここから逃げ出したいっスけど少しでも大きな音を立てたら発見されそうで怖いっスね。あの様子じゃ、あたしの能力がなかったらすぐにで見つかったかもしれないかもな……」


諜報員の少女はある能力を保持していた。それは『気配遮断』という能力。

これは、その名の通り自分の気配を封じるもの。この能力を使用している間、だれも彼女を視認も感知もされない。


まさに諜報員にうってつけの能力でもある。さらにこの能力のすごいところは捕縛系の魔法や結界系の魔法などで自分の行動を制限されても『気配遮断』の能力を使用することで無効化することができる。

これにより、たとえ結界がある場所に潜入するとしてもいともたやすく侵入することができる。


「でもこの能力、いまのあたしじゃあ長時間使用することはできないし、早くどっかに行ってくれないスかね」


能力の使用制限があるため諜報員の少女は切にそう願っていた。


エルフ側が切羽詰まっていることなど知らないフィリアは、姿が見えないエルフの探索を続けていた。


「ああもう! イライラするわね。いっそのことここら辺一帯を焼け野原にでもすれば絶対に見つけられるはずなのに……イヤ、やめておきましょう。絶対に紫音が怒るわね」


紫音に怒られることを懸念してすぐにその案を抹消したが、フィリアはどこか腑に落ちないでいた。


「……そもそも竜化も私が得意な炎系の技も使うなってのがおかしいのよ。私の持ち味をなんで紫音なんかに指図されなきゃいけないのよ!」 


今さらになって紫音に言われたことにふつふつと怒りが込み上げていた。それでもどうすれば紫音に怒られずに済みながらも自分の意志を貫ける方法を考えたところ。


「……そうだわ。確か紫音は私が完全に竜化すると、エルヴバルムに攻めてきたと勘違いされるからダメって言ったのよね。だったら、これなら問題ないでしょう」


ある秘策を思いついたフィリアは、腕を空に向けて上げると、華奢な少女の腕がみるみるうちに変化していく。


「えっ!? あ、あれなんスか!?」


遠くで監視していた諜報員の少女もフィリアの変貌に驚きを隠せずにいた。


少女の腕から真紅の鱗が生え、爪も獣のような鋭いものへと変わっていく。そして最後には腕が何倍にも肥大化していき、その腕はもうドラゴンの腕とでも言うべきものになっている。


(身体の一部だけを竜化させる限定竜化。これならドラゴンの姿になったわけじゃないから問題ないはずよ)


毎回完全に竜化していたためこの姿になる機会がなかったが、まさかこんな状況で使うときが来るとはフィリア自身、夢にも思っていなかった。

腕だけ竜化させたフィリアは、近くにあった樹を鷲掴みすると、驚くことに根っこから気を引き抜いた。


「……え?」


引っこ抜いた樹を軽々しく手に携え、ぶんぶんと振り回している。


「さて、行くか」


まるで棒切れでも扱うかのように樹を振り回しながら視界にある木々を薙ぎ払っていく。

大きな音を立て続けに鳴らしながら徐々に近づいていくその姿は鬼神のようにも見えた。


「マ、マズい……。当てずっぽうなのか知らないけどどんどんとこっちに近づいてきているじゃないっスか」


フィリアに危機感を覚え、今いる場所から離れようと、木々へ飛び移る。


……ギシッ。


「そこね!」


飛ぶ移った際に鳴った僅かな木の音がフィリアの耳に届く。

フィリアの勘がお目当てのエルフだとささやき、すぐさま音が鳴った方に走る。


(なんであんな小さな音が聞こえるんスか!?)


ここにいてはすぐに居場所がバレてしまう。そう感じた諜報員の少女は、また別の場所へとその場から離れる。


「……次はそっちね」


しかし、フィリアの耳がいいせいか、逃げる際にどうしても音が鳴ってしまうためすぐに居場所を察知されてしまう。


彼女の『気配遮断』の能力は音まで遮ることができなかった。しかし音といっても聞こえるか聞こえないかくらいの微々たる音のため普通ならだれも気付かないもの。

そのため諜報員の少女は、この音に対する対策を持っていないためフィリアからの追撃に防ぐことができずにいた。


(ヒイイイィッ! なんで非戦闘員のあたしがあんなのと相手しなくちゃいけないんスか!)


迫りくるフィリアという追っ手から諜報員の少女は、捕まらないように死にもの狂いで逃げる。

それはまるで見えない鬼を捕まえる鬼ごっこのようだと、走りながら彼女の目にはそう映っていた。


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