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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第5章 エルヴバルム編
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事件の真相

「あなた方はこの国とそして近隣にあるとされるエルフの国エルヴバルムが大昔に交流があったことはご存じでしょうか?」


クルトは開口一番にそのような情報を提示してきた。しかし、その情報はすでにメルティナの口から聞かされていたため紫音たちは、さも当然のようにクルトの問いかけに頷きながら答える。


「ああ、知っているが……それがどうしたんだ?」


「そうでしたか。このことは国の上層部以外知られていない情報だったのですが、まあいいです」


若干、落ち込んだ顔を見せるクルトだったが、気を取り直して話を続ける。


「今回の件は王族側と貴族側の人間が絡んでいます。そもそもの発端は、国議の中で王族側の人間が奴隷商売の新規開拓を議題に出したことから始まります」


そこでいったん話をやめ、話すことを整理しているのか、少し時間を置きながらクルトの口が開く。


「王族側の人間たちは、奴隷商売の新規開拓に一部を除き、(みな)賛成の意を示していました。まあ、奴隷商売はモノによっては簡単に大金が手に入ることもありますからかなりの儲け話になります。しかし、貴族側の人間たちはその案に猛反対していました。それもそのはずです。この国では昔から奴隷商売に手を出すことは人間として恥ずべき商売だとされ、前王の時代以前から様々な商売をしている国でしたが、奴隷商売にだけは手を出していませんでした」


「欲深い連中ね。わざわざ新しく奴隷に手を出さなくても他の商売で儲かっているはずなのに」


「その王族の連中も金欲しさに始めようとしたんだろうだな」


「その通りだと思います。さて、話を戻しますが、王族の中にも反対の者がいました。それは前王とその側近の者たちでした。その時の会議は否決ということで話は終わりましたが、ここである事件が起きます」


もったいぶるようなセリフを吐きながら話を続ける。


「長らく病を患っていた前王が不幸にも亡くなってしまいました。そして、その後に国王に即位したのが、前王の息子のグスタフです。しかもこのグスタフは、奴隷商売を議題に出した張本人でもあります」


「おいおい、それって……」


悪い予感がした紫音はクルトの方を見ると、クルトは頷きながら答える。


「案の定、グスタフが国王に即位してすぐにエーデルバルムでは奴隷商売が始まりました。貴族側の反対を押し切ったグスタフは、奴隷商売を始めるにあたり、他国との差別化を図るためにある提案を持ちかけました。……それは、エルフ族を奴隷として売り出すというものでした」


奴隷商売というのは表立って行われていないが、他国では密かに行われている。それを今になって始めるとなれば当然他国よりも目玉となるような商品が必要となる。


その点、市場に出回ることがめったにないエルフ族なら確かに目玉となる商品になり、その上エルフ族は高値で売れるため国としては高い利益が望める。


「貴族側の人間はこれにも当然反対しました。エルフとは大昔には交流があり、不可侵条約を結んだ間柄です。しかしグスタフは、エルフとの関係など単なる昔話のことで自分には関係ないと言っておりました。さらに不可侵条約が書かれた契約書には当時の王の名前が記されているだけで自分が破ったとしても痛くも痒くもないそうです」


確かにグスタフの言う通り、契約書に記されている者以外が契約内容に違反したとしても魔法は発動しない。

向こうに契約の穴を知られているようだ。


「その後も会議は平行線のまま一時はエルフが商品として出されずに奴隷業は始まりましたが、ここでまた事件が起きました。何人もの貴族の人間が何者かに殺害されるという事件が起きました。国王の命令により至急調査した結果、現場に残された剣と遺体に残された刃物による傷口で凶器は現場にあった剣と断定。そして、その剣をさらに調査した結果、大戦時にエルフ族が使用していた武器と判明しました」


現場に残された凶器にそれがエルフ族のものと分かれば犯人像も芋づる式のように断定できる。

となれば、次にエーデルバルム側がとる行動は。


「国王は当然、エルフ族の者の犯行と断定。そして国王は、これをエルフ族からの宣戦布告だと決めつけ、報復のためエルヴバルムへの侵攻を企てました。そういった経緯があり、ギルドに募集の依頼を出したわけです」


冒険者を募集するに至るまでのいきさつは今のクルトが提示してくれた情報から理解できた。

紫音は、今の情報を聞き、頭が痛くなる思いをした。


「これは完全に仕組まれているな……」


「確かにそうね。殺害した犯人を捜すこともせずにいるし、足がつく凶器を現場に残すなんてよほど切迫した状況じゃないと絶対にしないわね。どうせ凶器から殺害まで王族側の人間がしたことぐらい私でも分かるわ」


「今の話、冒険者たちは知っているのか?」


「…………」


紫音の問いかけにクルトは黙秘していた。

この反応に紫音は「ああ」と、思い出したように銀貨を1枚、クルトの前に差し出す。

、エルフ族が犯罪者だと思われる内容になるように操作されています」


「オマケに報酬も高額だったからな……依頼内容に疑問を思うようなやつもいないわけだ。……それにしてもよく調べたな」


「ええ。直接王宮に潜入して情報を得たり、情報を売ってくれた提供者からいただいていたりしていましたから。」


(どうやら俺の予想通りエーデルバルムの犯行とみてまず間違いないな。貴族を殺したのは奴隷商売に反対していたから王族側の人間にとっては邪魔な存在になっていた……そしてその貴族を殺すことでエルヴバ

「当然、ギルドに出された依頼書には今の話は記載されていません。依頼書には虚偽に内容も含まれておりルムに攻め入る口実も作れて、王族たちにとってはまさに一石二鳥になったわけだ)


しかし話を聞いていると、王族たちがとった行動はずいぶんと稚拙な犯行に見える。いくらエルフ族を入手したかったからといってこの仕組まれた事件は実に穴だらけだ。

もっとうまい具合に捏造できなかったのかと紫音は口から思わずため息がこぼれる。


「もう十分だ。ありがとう」


その後、数々のエーデルバルムやエルヴバルムに関する情報を購入した紫音はクルトに礼を言った。

クルトから求めていた情報も聞き出せ、目的も果たせたため紫音とフィリアは退出しようと席を立ち上がる。


「そうですか。ご満足いただけたなら幸いです」


「ああそうだ。……これも取っておいてくれ」


吐き捨てるような言い方をしながらクルトの前に銀貨を5枚ほど置いた。

不可解な紫音の行動に当然クルトは訝しげな表情を浮かべる。


「……これは?」


「口止め料だよ。あんたの存在について他言無用と言っていたが、俺たちについての説明は何もなかった。どうせ俺たちのことについて誰かに聞かれたら簡単に話すんだろ。だからその口止め料だよ」


「なかなか勘のいい人ですね。普通なら目先の情報に目がくらんで後のことなど気にもしていない人ばかりですが、どうやらあなたは違うようです。おっしゃる通り、あなたが情報料とは別に口止め料を差し出さなかったら、購入者も情報として誰かに売っていました」


不敵な笑みを浮かべつつクルトは目の前にある口止め料を懐にしまった。

紫音はこれで無用な揉め事に絡まれる心配がなくなったとほっと胸を撫で下ろす。


「……ああ、そうです。1ついいことを教えてあげます。この国に来たばかりならギルドに顔を出してみてください。きっとあなたたちのためになりますから」


去り際にクルトから予言じみた発言が飛び出してきた。


「……分かった。行ってみるよ」


「そうそう。……いつかあなた方の国にお邪魔してみたいですね。実に興味があります」


「それは……楽しみにしているよ。亜人は大歓迎だからね」


社交辞令の言葉を述べながら紫音とフィリアは、部屋を後にした。


(俺たちの正体はバレていたようだな。まあ、亜人にだけ情報が出回るように操作していたからある程度は予想していたが……バラさないよなあいつ。口止め料、上乗せしておくんだったな)


情報屋に紫音とフィリアの正体について知られてしまい、一抹の不安を抱えながらもギルドへと向かうことにした。


「そういえば検問のときに衛兵の人間から似たようなことを言っていたわね」


「ああ。俺らが冒険者だと知ったらすぐに勧めていたな。ギルドに行けば儲け話があるって」


衛兵と情報屋から似たようなことを言われた紫音は、なにやら胸騒ぎを感じていた。

それはよくないことが起こる虫の知らせのようなものだった。2年前のフィリアのときにも同じような胸騒ぎだった。


それから露店を見て回りつつ歩いていると、目的のギルドに到着した紫音とフィリア。

胸騒ぎを感じながらも扉を開くとそこには、冒険者たちの姿がちらほらと見えていた。


ノーザンレードと同じように酒場も併設しているギルド内では日中から酒を飲んでいる冒険者もおり、どこも同じだなと横目で見ながら紫音は胸中でそう思っていた。


「……あら? なにかしらあれ?」


フィリアが何かに気付いたように声を上げる。

紫音は、フィリアが見ている方向に視線を移すと、冒険者たちが一ヵ所に密集しているのが見えた。


遠目でよく見えないが人ごみの中から紙のようなものが貼り出されているのが見えることからあの場所はおそらく依頼書を貼る掲示板だろうと推測した。


少し気になった紫音とフィリアは、人ごみへと向かい彼らが見ているものを探ろうとしたが人が多すぎて確認できずにいた。


「紫音、なにか見える?」


「いいや、『王宮からの依頼書』しかみえないな」


「ずいぶんと文字が読めるようになったようね。最初は全然読めなかったのに」


「まあ、ディアナにみっちり叩き込まれたからな」


この世界に来て紫音は言葉の壁にぶつかった。

当初の紫音の予想通り文字の読み書きがまったくできなかった。しかし、ディアナによるスパルタ指導のおかげで短期間で読み書きができるようになった。


しかし、紫音の視界から読み取れるのは先ほどの一文だけ。早々に諦めた紫音は、近くにいた冒険者に訊くことにした。


「なあアンタ、ちょっといいか?」


「んん? なんだ?」


「これ、いったいなんの集まりなんだ?」


「なんだ知らないのかお前?」


「ああ。今日この国に着いたばかりでな……」


「それならお前さん運がいいな。数日前に貼りだされた依頼なんだが、参加するだけで大金が入るって依頼だ」


どこかで聞いたような内容に紫音の表情が次第に曇りだす。


「二回目のエルヴバルムへの侵攻部隊の募集だってよ。またぼろい依頼が舞い込んできたって一回目に参加していた奴らが騒いでいてな。それでみんなして集まっていたんだよ」


(嫌な予感、的中かよ……)


メルティナたちエルフ族にとって悪夢の再来とも言うべき内容を聞いた紫音の顔から冷や汗が一雫流れ落ちた。


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