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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第4章 アルカディア始動編
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弓の名手

メルティナの弓の腕を確かめるために紫音は街のある中央区から離れた森に足を運んでいた。


「あれ……シオンじゃない。それに……げっ、エルフのお姫様まで……なんで一緒に……」


その途中、偶然にも仕事中のローゼリッテと出くわした。彼女はメルティナの顔を見るとあからさまに引きつった表情を見せ、なぜか嫌な汗を流していた。


「おいおい、どうしたんだローゼリッテ? ついこの間の件はもう水に流したというのになんでそんな顔をするのかな? なにかやましいことでもあるのか?」


実際、なぜローゼリッテがそんな顔を見せたのかその検討はすでについていた。しかし紫音はあえて問い詰めることはせずにカマをかけて見せる。


「な、なんのことかしら……言いがかりはよしてよね」


「言いがかりなんてひどいな。俺はただやましいことのあるなしを聞いただけなのに……」


「そ、そうね……。アタシが悪かったわね」


珍しく自分の過ちを素直に認め謝罪の言葉を述べた。


(え!? なによこれ? もしかしてシオンにバレたのかと思ったけどアタシの早とちりなの? アタシがメルティナとかいう保護しているエルフ姫が毎日働きもせずにいるのにムカついてつい働くように仕向けるために言ったあの件について怒っているんだと思ったけど……)


そこでローゼリッテはチラリと紫音の顔色を窺う。


(イヤ、絶対にバレているでしょ! わざわざあんなこと聞くってことは絶対にメルティナを通して知ったから聞いたのよ。こ、こうなったら……)


コホンと咳払いを1つしたローゼリッテはこの場を乗り切るために話を続ける。


「と、ところでシオンたちはどうしてここに来たのよ? なにか用事でもあるのかしら?」


(よし! 話逸らしてやったわ!)


無理やりではあるが、ひとまずローゼリッテにとってバツの悪い話を終わらせることに成功した。

ローゼリッテは心の中でガッツポーズを取って見せた。


「実はな……ティナが急に働きたいって言いだしたんだよ」


「…………ん?」


「どこかの誰かさんに言われてな。仕事を探していたんだよ。それでティナが弓の扱いに慣れているっていうからその腕を確かめるためにここまで来たんだよ。……ホント誰に言われたんだか」


「さ、さあ? どこのどいつかしら?」


遠回しではあるが完全にローゼリッテを狙い撃ちするかのように言われた言葉だったが、ローゼリッテはここぞとばかりに目を泳がせてしらばっくれる。

不自然な態度に紫音から疑いの眼差しを向けられ、いたたまれない状況に陥ったローゼリッテは胸中で助けを求めていた。


「お嬢様、向こう側に異常は見られませんでした。お嬢様のほうはどうでし――あれ? もしかしてそこにいるのはシオン様ですか?」


ローゼリッテの助け舟に応えるように森の中から現れたのは一人のメイド姿の女性だった。しかも紫音はこの女性に見覚えがある。


「……お前もしかしてリディアか?」


「はい。こうして直接お話しするのは初めてですね。改めまして初めまして。私はお嬢様の使用人を務めさせていただいていますリディアと申します。今後ともお嬢様共々よろしくお願いいたします」


言いながら首を垂れて紫音に深々と挨拶をした。リディアというこの女性は、先日魔境の森に侵入てきた冒険者パーティ『金翼の旅団』の元メンバー。


ローゼリッテとの戦いに負け、吸血行為によってローゼリッテの眷属となった彼女は不都合な記憶などをディアナの魔法によって消され、今はローゼリッテの使用人になっている。

紫音は、一度ディアナの記憶消去の現場に立ち会っており、その時顔だけは覚えていたがこうして話すのは実は始めてだった。


ちなみに後から聞いた話だが、リディアは今まで魔法の研鑽のための旅に出たという設定になっており、こちらにとって不都合なことはきれいさっぱり消去したらしい。


「それにしても随分と変わったな。なんだその服は?」


紫音の意識は完全にローゼリッテからリディアへと移っていった。それもそのはず今のリディアの服装がどうしても気になってしまったからだった。


彼女が来ている服は白を基調としたロングスカートのメイド服。この場所ではあきらかに不釣り合いな格好だった。


「これはお嬢様からいただいたお召し物になります。お嬢様にお仕えしている間はこの服でいるように言われております」


「そんな服、よくあったな。どこで見つけたんだよ」


「この服なら負け犬ドラゴンの家の物置部屋にあったけど」


「あの部屋ってこんなものまであったのかよ」


ローゼリッテが言っていた物置部屋というのはこれまでこの森に侵入してきた冒険者などから奪ってきた戦利品の数々を収納するための部屋のことである。

あまりにもたくさんあるため紫音自身、そのすべてを把握しているわけではなかった。


「……というより今の呼び方、絶対にフィリアの前で言うなよ」


「言うわけないでしょう。器の小さいあの竜人のことだから突っかかってくるのが目に見えてくるわ」


「それならいいけど……お前らがケンカすると辺り一面破壊し尽くされそうだから心配なんだよ」


「はいはい、気を付けるわよ」


まったく気を付ける様子を見せないローゼリッテに頭が痛くなってきた。


「ところで紫音様たちはどうしてこちらに?」


「ああ、すっかり忘れてた。今からティナに弓の腕を見せてもらうためにここまで来たんだった。よかったらお前らも行くか?」


「よろしいのですか?」


「大丈夫だろ。数体魔獣を狩るだけだからそんなに時間はかからないはずだよ」


「へえ、おもしろそうね。アタシも行くわ」


「お嬢様がそうおっしゃるのであればお供させていただきます」


気まぐれに言った一言だったがあっさりと承諾され、追加で2人同行することとなった。


「ティナ、勝手に決めちゃったけど大丈夫か?」


「……は、はいいい、だ、大丈夫です」


紫音に心配されまいと必死に虚勢を張っていた。


「よ、よし! さっさと行くか!」


メルティナの気が変わらないうちに紫音は足早に先へと進んだ。


それから十分ほど歩き続けてようやく目的地の場所に到着した。

紫音が契約している魔物たちがいるエリアと野生の魔物たちがいるエリアのちょうど境目。ここなら結界があるため魔物に襲われる心配もなく、安心して弓を射ることができる。


「ティナさっそくだけど準備のほうは問題ないか?」


「は、はい。いつでもいけます」


そう言ったティナは背中に背負った矢筒から矢を取り出し、いつでも弓を引ける状態にしていた。


「まずは……あのホーン・ラビットにするか。いけるか?」


「だ、大丈夫……ですけど、あれって本当にホーン・ラビットですか? 私が知っているものと少し違うような気がしますが……」


「この森は特殊だって前に言ったろ。そのせいだから気にするな」


この森に生息している魔物たちは一般的なものと比べて姿形が変化しているものが多い。通所のホーン・ラビットの見た目は普通のウサギだが頭の部分に角を生やしており、その角で外敵から身を守っていると言われている。体は小さく動きが俊敏であるためなかなか捕獲や討伐が難しい魔物。

しかしその肉は多くの人が絶賛するほど旨いと評判で市場では高値で取引されている。


「あの……少しだけ観察していてもいいですか?」


「……? 別にいいけど」


不可解なお願いをされ特に断る理由もなくメルティナの提案を受け入れることにした。その後も数分ほどホーン・ラビットを観察したメルティナは満足したのか、弓矢を構える。


「もういいのか?」


「はい、大丈夫です。今仕留めます」


矢と弦を後方へと伸ばし、矢を放つ姿勢を取る。弓は地面に垂直になるように保ち、矢はホーン・ラビットに狙いを定めるように移動させる。


そして、ホーン・ラビットが動こうとした瞬間、ビュンという一瞬の音ともに矢が放たれた。


「ギュイッ!」


矢は一直線に進んでいき、左へと跳んだホーン・ラビットにまるでその動きを予知したかのように矢が射抜かれた。


「……おいなんだ今のは」


「偶然かしら? あの魔獣矢が飛んでいった方向に自分も跳んだように見えたけど……」


「それよりもあのホーン・ラビットが跳ぶ方向に矢を放ったようにも見えましてけど」


「そんなわけないでしょ。未来が見えるわけでもあるまいし……」


メルティナの奇妙な弓の腕前にみんな頭を悩ませていた。


「なあティナ。今のってまさか狙って放ったのか?」


「はい、そうですが?」


さも当然だとでも言うように答えるメルティナ。到底信じられないことだが今のが故意によるものならかなりの腕前だと紫音は思った。


「ちなみにどうやって動きを予測したんだ」


「あれは私の能力を使ってやりました」


「能力っていうと生物の魔力が視えるって奴か?」


「はい。先ほどあのホーン・ラビットを観察して分かったことですが、移動する方向に軸足を向けていました。それと動く直前、魔力のオーラがその方向に揺らいだのでその瞬間矢を放ちました」


「そのオーラっていうのは相手が移動する方向まで分かるのか?」


「はいそうです。この眼を試していくうちに分かったことですが、生き物って移動する方向に無意識に魔力のオーラが流れているみたいなのでその方向に矢を放てば今みたいに射抜くことができます」


(いやいや無理だろ。口では簡単に言ってるが実際にやるのは難しすぎだぞこれ。オーラが流れた瞬間に矢を放つ集中力や獲物に正確に狙い撃つ技術もなければできないことだぞ)


紫音は、今の今までメルティナの弓の腕を半信半疑でいた自分が無性に恥ずかしくなってきた。それと同時にアルカディアには遠距離攻撃ができる者が多くないためメルティナの予想以上の腕前に戦力の増強にもなるのではないかと胸中でそう考えていた。


「よ、よし。それじゃあ次もやって見せてくれ」


「は、はい……分かりました」


それから念のためという理由でもう何匹か試しにやって見せてもらったが、すべて外すことなく、しかもたったの一発の矢で仕留めていた。


これはもう疑う余地もないとメルティナの弓の腕を認めた紫音はふとあることを思い出した。


「そういえばどんなに離れた的でも中てることができるって言っていたけどそれも見せることってできるか?」


「はい、問題ありませんがどこまで離れた獲物にしますか?」


「……ちなみに最長でどの距離まで可能なんだ?」


「私の視界に入る範囲まででしたら可能です」


それはつまり人が見ている地平線の距離までがメルティナの射撃範囲となる。紫音自身、詳しい距離までは知らないが、おそらく数キロ以上の距離はある。

長距離からの支援攻撃ができるものはアルカディア内ではまずいない。そのためもしそれが可能なら本気でメルティナが欲しいと紫音は思っていた。


「とりあえず得物はメルティナに任せるよ」


「分かりました。……あ、それと、長距離の場合は魔法を使用しないとできないのですがいいでしょうか?」


「別にいいけど……って今まで魔法の補助なしでやっていたのかよ」


「そうですけど……もしかして魔法を使用した場合のも見せたほうがいいでしょうか?」


「……それはまた今度でいいや。今は長距離での腕を見せてくれ」


紫音の言葉に頷いたメルティナは、獲物を探すために木の上に登った。その身のこなしはさすが森の中に住むエルフ族とでもいうべきか一連の動作にまったく無駄がない。

お姫様でもこういったことはできるのだと少々驚いていた。


「ええと、あれがいいかな」


木の上から手頃な獲物を見つけたメルティナはこれまでと同じように弓を放つ姿勢を取る。そしてメルティナは、自分と矢に向けて付与魔法を唱え始める。


付与(エンチャント)――視覚拡張、視力強化、硬質化、貫通力強化、速度強化、風よ(エア)


複数の付与魔法を唱え終わると、狙いを定め獲物に向けて矢を放った。

放たれた瞬間、風を切るような大きな音が鳴らされた。


「ピギイイイッ!!」


そして矢が放たれてから数秒後、獣の悲鳴が遠くで聞こえてきた。その声を聞いたメルティナは、安心したかのように大きく息を吐き、紫音のもとへと戻っていった。


「終わりました」


「ああ、お疲れ様。……今から確認しに行くからティナはここで待っててくれ。ローゼリッテも一緒についてこい」


「ア、アタシも!?」


「お前だってさっきの悲鳴がティナの矢によるものなのか気になるだろ」


「た、たしかにそうね……。リディア、アナタはここで待機よ」


「承知しました。お嬢様」


メルティナとリディアをひとまず待機させ、紫音とローゼリッテは矢が放たれた射線上をたどっていく。

しばらくして大きな猪型の魔獣が地面に横たわっているのを発見した。

まさかと思い、その魔獣をよく調べていくと、


「ねえ、紫音。この矢って……」


「ああ、見覚えがある。間違いない」


魔獣の体に矢が突き刺さっていた。しかもその矢はつい先ほどガンドルの店で購入した矢であり、間違いなくメルティナが放った矢であった。


「ここまでって、けっこう距離あったわよね?」


「確かに……ティナが矢を放った木だけど他の木よりも高いからすぐに分かるんだが、あんなに小さいんだぞ」


紫音は先ほどまでメルティナがいた木を指差していた。その木は紫音の言う通り他の木に比べて背が高く、目立つためすぐに確認できる。

しかし、紫音がいた場所から見ると、かなり小さく見える。


「あの()、ホント何者よ。たしかあの娘って引きこもりなんでしょう? そんな娘がこんな芸当できるとは思えないんだけど……」


「ティナが言うには弓の腕は百発百中みたいだぞ」


「……今までのを見ると信じざるを得ないわね」


紫音とローゼリッテは目の前にいる息を引き取った魔獣を見ながら納得していた。


「ひとまずティナに狩りの仕事でも斡旋してみるか」


この現状でメルティナの狩りの腕に文句が出るわけもなく、メルティナに仕事を与えることに決めた。メルティナに朗報を報告するために紫音は来た道を戻ることにした。

……メルティナが仕留めた魔獣も連れて。


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