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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第4章 アルカディア始動編
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燃え盛る祖国

その日は、いつもより外が騒がしい夜だった。


就寝中だった彼女は外の喧騒に安眠を妨害され、耐えきれなくなり目が覚める。まだ眠たい目をこすりながらベッドを下り、何事かと窓ガラス越しに外を覗いてみる。


「……な、なに……これ?」


彼女の目に映りこんできたのは、真っ赤に燃えている自分の国の光景だった。彼女の住むところは国を一望できる位置にあり、突然非日常へと変わっていた国の状況がよく読み取ることができた。


各地に点在するように赤く燃え盛っており、煙が上空へと伸びている。その光景を見ていた彼女はすっかり眠気も収まり、その代わりに恐怖を覚えていた。


今、国で何が起きているのか分からず、どうすればいいか分からない。呼吸が荒くなり、体が寒気を感じているのかぶるぶると体全体が震えていた。


「――っ!?」


突然、ドアの方からドンドンと強くドアを叩く音が鳴り響き、ビクッと体が強張った。

状況についていけない彼女はおそるおそる後方を振り返り、「……はい」と、おどおどした声でドアの向こうに返事をする。


「このような夜更けに申し訳ありません! アイザックです。緊急事態につき姫様には早急に王宮の間まで避難していただきたく参りました」


「ア、アイザックさん」


姫様と呼ばれた彼女はドアを叩いていた主が知り合いだと分かり、ほっと一安心した。アイザックは彼女の護衛騎士。いつも冷静沈着でこの国の中でも指折りの強さを持っている男。

その彼が、ドアの向こうからでも伝わるほど冷静さを欠いている様子だった。


「ご、ごめんなさい。外の光景を見てから体が震えて……あ、足が動かないんです……」


「……っ! 承知いたしました。すぐにそちらに向かいます」


アイザックは、一言前置きを入れてからドアを開ける。ドアの向こうからアイザックともう1人、彼女の世話係を任せられているメイドのユリファの姿もあった。

二人は彼女の元まで駆け寄り保護すると、王宮の間へと足を運ぶ。


「い、いったいなにがあったんですか?」


「外の警備の者からの報告では国外から賊が侵攻してきたそうです。それも数百人にも及ぶ数になります」


「す、数百!?」


あまりの数に彼女は驚きの声を上げる。


「はい。内部まで攻め入られないようにこちらも応戦していたのですが、どうやら何名かの侵入を許してしまったそうで国中から火の手が……。ひとまず姫様には急ぎ国王様のいらっしゃる王宮の間へ避難してください」


「わ、分かりました……」


アイザックに手を引かれながらここから避難するため部屋を出ようとする。


すると、ガシャーンというけたたましい音を上げながら窓ガラスが割れる。


「キャアアアアアアッ!?」


予期せぬ音に恐怖を感じた彼女は悲鳴を上げ、その場にうずくまる。


「ひ、姫様! ……くそ!」


アイザックは、腰に下げていた剣を抜き、割れた窓ガラスの方へと体を向ける。

割れた窓ガラスからは外の風が入り込んでいた。


「……ユリファ! 早く姫様を王宮の間まで連れていけ!」


「は、はい!」


「おっと、それは待ってほしいな……」


「――っ!?」


その声は外のほうから聞こえてきた。

そして数秒もしないうちに窓ガラスがあったところから三人組の賊が彼女の部屋に侵入してきた。


三人の賊はどれも黒いローブを羽織っており、目が隠れるほどの深いフードのせいで顔がよく見えない。


「ようやく城へと侵入できたようだな」


「あいつか? 身なりがよさそうだし、二人に守られている様子からして。……なかなかの上玉だな」


「なんでもいい。早く仕事を進めるぞ」


「貴様ら何者だ! 国に火をつけたのは貴様らか!」


不穏な会話が耳に入り、アイザックはたまらず声を荒げた。


「悪いが、その質問に答えるつもりはない。こちらも仕事なんでね」


「……仕事……だと?」


「それにしても今も暴れ回っている冒険者どもは憐れですね。自分たちが利用されているとも知らずに」


「無駄口を叩いている暇があったらとっとと捕獲しろ! 応援を呼ばれたらさすがに厄介だ」


「へいへい……」


こいつらはタダ者ではない。アイザックは彼らの雰囲気からそう悟った。

身のこなしだけでなく、敵地に侵入しているというのに肝が据わっている。相当場慣れしている様子だった。


しかしそれでもアイザックがするべきことはただ一つ。覚悟を決めたアイザックは後ろに控えている者たちに向かって叫んだ。


「ここは私一人で食い止める。姫様たちは早く王宮の間へ!」


「ア、アイザックさん……?」


「了解しました! さあ、姫様こちらです!」


状況を飲み込めないでいる彼女とは反対にユリファはアイザックの言葉を汲み取り、すぐさま行動に出た。

彼女の腕を掴み、半ば強引に引っ張りだすと、急いで廊下へと出る。


「ま、待って! まだアイザックさんが!」


「申し訳ありませんがそのお願いには応えられません! 今、アイザック様が身を挺して姫様が逃げる時間を稼いでくれています。それを無駄にはできません!」


「そ、それって……」


彼女のためにアイザックはこの身を犠牲にしようとしているのだと悟った。そう思うと彼女の心はひどく悲しい気持ちになっていた。


目に涙が出てくるも彼の犠牲を無にしないためにぐっと涙を堪えながら走った。


長い長い廊下を走る中、外からは小さな爆発のような音が聞こえる。こうしている間にも外では賊が民たちに襲い掛かっているのではないかと予想できる。


「姫様! ようやく見えてきました……」


そのまま走り続けると、前方に大きな両開きの扉がそびえたっているのが見える。あの扉こそ国王が控えている王宮の間。


彼女はこんな状況ではあるが、一安心していた。もう怖い思いをせずに済む、着いたらすぐにお父様たちの胸に飛び込んでいこう、そうしたらすぐにアイザックを助け出すようにお願いしてみよう、などという希望を持ちながら彼女は走り続けた。


「――うっ!?」


「…………えっ? キャアアッ!」


彼女の前を走っていたユリファが突然うめき声を上げながら倒れる。そしてユリファは彼女の手を引いていたため倒れたことによって彼女も一緒に廊下へと伏してしまった。


「ユ、ユリファ?」


すぐに体を起こし、ユリファに呼び掛ける。


「ひ、姫様…………逃げて……ください……」


ひどく弱弱しい声をしていた。

ユリファの体をよく見ると、後ろ肩に矢が刺さっていた。おそらく矢じり部分に毒か麻痺薬などが仕込まれていたのだろう。そのせいで体が動かず、口元しか動させないでいる様子だった。

彼女はこの状況に目を瞑り、本当に逃げてしまってもいいのかと迷っていた。


「まったく手こずらせやがって……」


彼女が葛藤していると、男の声が暗闇から聞こえた。


「う、うそ……」


月明かりで照らされたその男は先ほど彼女の部屋に侵入してきた賊の内の1人だった。男の手にはクロスボウが握られていた。


「ア、アイザックさんは……?」


答えが返ってくるわけもないのに気づけばそう口にしていた。


「あいつらなら後の二人に任せてある」


男は彼女の質問に素直に答える。男の言葉を聞き、彼女はひとまずアイザックが殺されたわけではないと知り、少し安心した。


「俺の狙いはお前だからな。悪いがおとなしく捕まってもらおうか」


そう言いながら男はクロスボウに矢を設置させ、彼女へと向ける。


「い、いや……」


凶器を向けられた彼女はひどく怯えていた。涙を流し、その場から動けないでいる。


「こちらも仕事なんでね……悪く思うなよ」


そして男はクロスボウの引き金を引いた。発射された矢は彼女の腕に突き刺さる。


「……あぁっ!?」


途端、まるで体に雷でも受けたかのように全身が痺れ出し、体の自由が利かなくなった。

ドサッという音を立て、彼女は床に横たわる。


「よっと……」


男は彼女を肩に抱えると、次にユリファのほうに目を向ける。

ユリファも一緒に連れて行こうと考えているのだろう、彼女にはすぐに理解できた。そうはさせないと、抵抗してみるが、やはり体の自由がまだ効かないでいた。


これまでか、そう彼女が諦めかけたとき。


「貴様、何者だ! そこでなにをしている!」


王宮の間から出てきた兵士が賊の存在に気付き、声を荒げていた。


「チッ! 潮時か……」


男はユリファを諦め、彼女を抱えたまま近くにあった窓を蹴破り、外へと飛びこんだ。


「《フライ》」


飛行魔法を唱えた男はそのまま空を飛びながら追っ手に追われることなく脱出しようとする。


肩に抱えられた彼女はというと、ひどくうつろな目をしていた。

体の痺れや恐怖などという身体的にも精神的にも追い詰められた彼女の体はもはや限界だった。


薄れゆく意識の中で最後に彼女が見た光景は今もなお燃えてゆく自分の故郷の景色だった。


今回は新章の導入部分になります

次話から主人公たちが登場します

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