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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第3章 招かざる侵入者編
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冒険者の末路

「か、勝った……」


起き上がる様子のないクライドの姿を見下ろしながら紫音は勝利宣言を口にした。

いつの間にか竜人化した姿が解け、体はもう満身創痍の状態。


もう戦う気力すら残っていない。後少し長く戦いが続いていたら紫音の方が負けていたかもしれない。


「まったく、紫音が腕試しをしたいだなんて言わなければこんな人間すぐに片づけたのに……」


いつの間にか紫音の近くまで来ていたフィリアがそう文句を言っていた。


「こ、これで……いいんだよ。これで俺の力はAランク冒険者にも通用することが証明されたんだから」


「それもそうね。……それじゃあそろそろトドメと行きましょうか」


「……ああ」


腰に下げた剣を取り出し、横たわるクライドの心臓の真上に剣の切っ先を立てる。

今、紫音の手にはクライドの命を握られている。


「バ、バカなマネはよせ……」


剣を振り下ろそうとしたが、それはクライドの(かす)れた声によって一時的に止まった。


「……喋る元気はあるようだな?」


「オ、オレを殺そうとするならやめとけ。オレはAランク冒険者だぞ。どこのギルドからも重宝される存在だ。そんなオレを殺せばどうなるか分かってんのか!」


突然なにを言うかと思えば、いろいろと取り繕っているがただの命乞い。自分が殺されないように必死になって紫音を説得しようとしている。

先ほどまでの威勢のよさはもう微塵も感じられない。


紫音はこの変わりように思わず憐みを抱いた目でクライドを見ていた。


「それで……お前を殺せばいったいどうなるのか教えてくれるか?」


「……聞いていなかったのか? Aランク冒険者は戦力として十分に活躍する存在だ。そんなオレが死んでしまったら国が……ギルドが黙っていないぞ! きっと報復をしに来るはずだ」


「そんなことか……」


クライドの言った言葉にも動じず平然としている。

予想外の反応にクライドはただ茫然と紫音を見ていた。


「お、お前、ハッタリだと思ってんのか……。後悔しても知らねえぞ!」


「後悔なんてしねえよ。国もギルドも動きやしないよ。……2年前もそうだったからな」


「2、2年前……?」


何の脈絡もなく出てきたその言葉に思わず聞き返してしまった。


「2年前、この森の近くに現れた蛇牢団っていう異種族狩りをしていた奴らがいてな。そいつらはここにいるドラゴンの手によって葬り去られたんだよ」


紫音は近くにいたフィリアを指差しながらそう言った。


(蛇牢団が!? やはりあのウワサは本当だったのか)


二年前から密かに出ていた蛇牢団の噂の真意が紫音の言葉によって明らかになった。


「少し経った頃に情報を集めに町に入ったことがあるんだけどな……驚いたよ。そいつらのことが噂になっていたんだからな。……でもそれだけだ。噂になっていただけで特になにもなかったぞ。……あいつらけっこう有名なパーティだったのにな」


「……っ!?」


紫音は情報の収集や食料品等の調達、ギルドに立ち寄るなど様々な目的で度々、近くの町に出入りを繰り返していた。


その中で蛇牢団が行方不明になったと耳にした。さらにAランクの有名なパーティだと知り、危機感を覚えた紫音は町中を回って調べ上げた。

その結果、ただの噂止まりでその原因を追究することなく、取り越し苦労となった。


「Aランク冒険者が消えたところで一時的に騒ぎになるだけ。Aランクなんて数年経てばお前らのような奴らが昇格し、すぐに後釜なんて埋まっていく。所詮、冒険者が突然いなくなったところで誰も動こうとはしないんだよ」


「そ、そんなはずない! オレらは蛇牢団よりも有名になったんだ! 王都から直接依頼をされたことがあるオレらがそんな扱いをされるわけがねえんだよ!」


「現実はお前が思っているよりも残酷だよ。……前の世界と同じようにな」


「そ、そうだ! オレにはまだ仲間がいる。オレがここで死んでもあいつらさえ生き残ればお前らは終わるんだよ!」


最後の希望を仲間に託そうとするクライド。しかしその願いは届きそうにない。


「お前の仲間は全員、こちらで処理したよ。一人か二人は生きているがこちらの手の中。助けを呼ぶなんてできないわよ」


紫音に代わってフィリアが他の三人の行方について語った。


「……? なんで一人増えてんだよ。俺が把握している人数と会わないんだけど」


「後で聞いてみればいいわ。……それよりもいい加減トドメを刺せば?」


「……はあ、それもそうだな」


中断させられた時間が再び動き出す。

剣の柄を両手で握りしめ、改めてクライドの心臓に狙いを定める。


「ま、待て……死にたくない! オレはまだ死にたくない。……英雄になるんだ……オレはまだこんなところで終わるような男じゃないんだ」


こんなところで死にたくないクライドはうつ伏せになり、必死に地面を這いばらせながら紫音から逃げようとしている。


しかしその程度の速さでは紫音から逃れることはできない。すぐに追いつかれ、今度は逃げられないように背中を足で踏みつける。


「いいや、これで……終わりだよ」


グサッ。

紫音は静かに剣を振り下ろす。振り下ろされたその剣はクライドの心臓を貫く。


「あぁ……あ……」


小さなうめき声を上げながら事切れていった。

Aランク冒険者のクライドは、異世界人の紫音の手によってこの世から消えて行ってしまった。

そしてクライドが死んだ瞬間、同時に金翼の旅団というパーティも消滅していった。


死んだことを確認した紫音は、剣を抜き、血を振り払う。その剣を鞘に納めると胸の前で手を合わせる。


(もう殺すことに慣れたのかな……。最初の頃はあんなに吐いていたのに今じゃあ吐き気すらしなくなったな)


順応していった自分の体の変化を感じながら紫音は胸中でそう考えていた。


紫音が人を殺したのは今回が初めてではない。

アルカディアの建国日から二年の歳月の中で紫音はもう何人もの人を殺してきた。アルカディアという国の存在をまだ外の世界の者たちから隠すため、そして装備品等の強奪のために侵入者を殺した。


最初の頃はフィリアたちに任せていたのだが、自分だけ手を汚していないことに紫音は気にかかっていた。

共に国を創ろうとしているのに他人にばかり汚れ仕事をさせるのはどうにも気に入らなかった。

自分は安全な場所にいて他の者たちは死と隣り合わせの戦場に行かせるなんてこと紫音にはできなかった。


そのため紫音自身も殺しという汚れ仕事をするようになった。

最初の時期は、殺した後は決まって手ががくがくと震え、その場で吐いてしまったことが何度もあった。


しかし人というのは次第に環境に順応していく生き物。何回もしていくうちにそのような症状が出なくなっていった。


「よし……引き上げるぞ」


ひとしきり合掌をした後、クライドから離れながらフィリアにそう指示する。


「今回、私の出番はなしだったわね。どこかの誰かさんが出しゃばらなければ思いっきり暴れられたのにな……」


と恨めしそうに紫音を見ながら口にした。


「それよりも……疲れたから家まで背中に乗せてって」


「……毎回思うのだけど私のこと便利な乗り物みたいに思っているんじゃないんでしょうね!?」


「そんなわけないだろ。お前にはいつも助けられているのにそんな風に見るわけないだろ」


「そ、そうよね! 私がいなきゃ紫音なんてすぐに野垂れ死ぬんだから……まったくしょうがないわね!」


そう言いながらフィリアは、快く紫音を背中に乗せて空へと飛んだ。


「…………うわぁ、ちょろいな」


フィリアには絶対に聞こえないような小さな声で言った。

少し褒めただけで嬉しそうに笑うフィリアの姿を見てそう言いざるを得なかった。


こうして今回起きた侵入者撃退も一人残らず紫音たちの手に落ちていった。

そしてアルカディアという国が外に漏れる心配も消え失せた。


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