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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第3章 招かざる侵入者編
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冒険者は未知の武器に襲われる

「……あ、そうじゃった。忘れておったわ。……ピューイちょっと待つんじゃ」


やる気になっていたピューイに水を差すかのように服の裾を引っ張りながら呼び止める。


「なーに、もう!」


頬を膨らませながらディアナへと目を向ける。

空中に魔法陣が浮かび上がり、そこからディアナは袋を取り出すと、その中に入っていた筒状のものをピューイに手渡す。


「これなーに?」


ディアナから渡されたものはただの筒ではなく、その先端には導火線のようなものがついていた。


「紫音に頼まれていたものじゃよ。こいつの性能テストもついでにしてほしいんじゃとよ。ちょうど目の前に動く実験体がおるから好都合じゃろう」


「……これどう使うの?」


足の鉤爪で器用に筒状のものを持ちながら訊いてくる。


「火をつけると爆発するらしいぞ。紫音は確か異世界式爆弾と呼んでおったのう。簡単に爆発系の魔法を発動することができる武器だと」


「……なーにそれ?」


「ああ、説明しても多分分からぬから気にするな。お前は何も考えず、ただそいつをあの娘目掛けてぶつけることだけ考えろ」


軽くあしらわれるもしぶしぶ自分の役目を果たそうと行動に出る。ディアナから導火線に火をつけた爆弾をピューイに渡す。

ピューイはリリィに狙いを定め、足で投げつけた。


「……え?」


先ほどの会話を聞いていなかったため今自分の方へ向かっているその物体がなんなのかリリィには見当もついていなかった。

その物体の正体や突然のピューイの行動に一瞬、頭の中が真っ白になり、不覚にも呆然と立ち尽くしていた。


意識が覚醒ししたリリィは、すぐさまその物体の対処にあたろうとするも時すでに遅かった。すぐ目の前に迫ってきているのがその物体を見た最後だった。


「きゃああああああっ!?」


突然、物体は小さな爆発を起こし、リリィを襲った。リリィはその爆風と驚きにより、尻餅を打つ。


しかし、すぐ近くで爆発したというのに思ったよりも威力は小さく、幸いにも顔に少しだけやけどを負っただけで済んだ。顔を手で押さえたリリィは自分自身に治癒魔法をかけ、そのやけどもきれいさっぱり消えていった。


「な、なに……今の?」


つい数秒前に自分の身に起きたことにまだ頭の整理が追い付いていないでいた。そしてそれは向こう側でも起きていた。


「すっごーいっ! なにあれ! バンって鳴ったよ。オモシローイ!」


ピューイは、今の光景に驚いているのか、それとも楽しんでいるのか定かではないが、まるで子どものように無邪気に空を飛び回っている。


「ふむ。一割程度では、威力は小さすぎたか……次はもっと量を多めにしたものにするかの。……しかし、儂も初めて見たが紫音の奴、なかなか面白いものを作ったではないか」


紙に先ほどの実験経過を記載しながらディアナはここにはいない紫音のことを思い出し、くすっと嬉しそうに笑っていた。


紫音が作成した爆弾は、この魔境の森にあるもの原料にして作られた。


この森は元々、広大面積を誇り、ナワバリにしているフィリアにさえ、その全貌を把握していない。つまり、フィリアでも行ったことのない未開の場所が存在しているということだ。


紫音は二年間の中でアルカディアの国土としている魔境の森について知るために調査を行っていた。

その結果、この森には驚異的な進化を遂げた植物や魔物などが存在していた。おそらく魔境の森から溢れているマナの影響を受けたものが突然変異した結果、生まれたものではないかと推測される。


その中でも紫音は興味深い植物を発見した。それは木の実のようにいくつも()っており、紫音はこの実を魔境の森以外で見たことがある。

ポムルの実といって紫音がよく行き来している街の近くの森にも自生している。


しかし、調べたところこの実は紫音が知っているポムルの実とは大きく違っているところがあった。

本来は外から衝撃を加えると、破裂するだけの変わった植物なのだが、魔境の森で見つかったポムルの実には異なる性質を持っていた。


火で燃やしたり、強い衝撃を加えたりすると爆発するものであった。ただし、水を加えるとしぼんでしまい、爆発しないという欠点がある。


これは武器になるのではないかと考えた紫音がその実を調べたところ中に小さな粒がぎっしりと敷き詰められており、ディアナの調査により、爆発の原因はこの粒だと判明した。

おそらく凶悪な魔物が生息している環境下の中で生き残るために進化したものだと思われる。


そして人間相手の武器にするために紫音が試行錯誤で完成したのがこの異世界式爆弾である。名前は性能が似ているために本物とはまるで違うが紫音によって名付けられた。


しかし、完成したといってもまだ試作段階のためこうして侵入者相手に性能実験を行っている。


「さて、次に行くぞ。……ほれ」


再び爆弾に火をつけ、ピューイに投げ渡す。鉤爪で受け取り、標的であるリリィに視線を移す。


(ま、まずい……)


さすがにあの爆弾が危険だということを理解したリリィはピューイたちを背にして走り出す。


「あ、まてー!」


まるで鬼ごっこでもしているかのようにピューイは声を上げながらリリィを追う。

必至に逃げるもすぐにリリィに追いつくと、ピューイは一気に降下する。


「きゃっ!」


一瞬そのまま襲われるかと思いきや、リリィの頭上近くを勢いよく通り過ぎるだけでそのまま上昇していった。


いったいなんだったのか、リリィが不思議に思ったその刹那。


「……え!?」


リリィの視界には、なぜか爆弾が映っていた。


(な、なんでここに……? これはあの娘が持っていたんじゃ……)


一瞬、頭の中でそのようなことを考えたが、すぐに頭を切り替え防御へと行動を移す。手を前にかざし、魔法を唱える。


「《シールド》」


防御魔法を展開したすぐ後に再び爆発を巻き起こした。今度の爆発は、先ほどの倍以上あり、それだけ威力も跳ね上がった。


「……うぅ。……きゃああああっ!?」


その威力にシールドは少しの間だけしか、耐えきれず破壊される。リリィは爆発の衝撃に後方へと飛ばされてしまった。


「ほう。ピューイの奴、狙ってやったのかの。飛びながらあの娘のところに落とすとは……飛行中、どこに落とせばよいのか計算してやったのかの。……いや、おそらく野生の感という奴か」


ディアナの読み通りピューイは計算してではなく、自分の感覚だけで正確に落としている。狩りを日常のように行っているハーピー族は当然動く獲物を相手にしてきたためその経験が今活かされたようだ。


「やったあ! また命中っ!」


「はあ……はあ……」


また命中したことでピューイがはしゃいでいる隙にリリィは自分の体に鞭を打ち、そこから逃げるように走り去る。


「ピューイ、実験対象が逃げておるぞ」


「……え? ああっ! 待てえぇ!」


ディアナに言われ、ようやく気付いたピューイは慌ててリリィを追いかける。


「……ふむ」


そんな中、ディアナは静かに考え事をしていた。そしてしばらくした後、なにかを企むかのように小さく笑い、ピューイたちを追いかけていった。


リリィとの鬼ごっこは意外にも早く終わった。体力的に普通の女の子程度しかなかったため飛んでいる相手に撒くことなど無理な話だった。


「見つけたー。次は絶対に逃がさないからな!」


飛びながら怒った顔を見せるピューイ。見つかったにもかかわらず攻撃手段を持っていないリリィは怒っているピューイを無視して走り続けた。


「ディアナ! 一本ずつなんてもういいから一気にちょうだいよ!」


「やれやれ……。紫音からは威力を確認するために一ずつで検証するようにと言われておったが、まあよいか。ほれ、ピューイ。一本追加じゃ」


「えーこれだけ」


ピューイが駄々をこねるもたったの一本だけしか増えず、不満を顔に出していた。

しかしこれ以上はもらえないとディアナの顔色から感じ取ったピューイは不貞腐れなりながらも実験を再開した。


「ちぇー、まあいいか。早く終わらせてご主人様に認めてもらおう。……ん?」


もう一度、リリィに照準を合わせようと視線を移すと、リリィが不規則な動きをしながら走っていた。

先ほどのピューイの行動のせいか動きを予測されないように走り回っている。


その光景にピューイは静かにため息をつく。


「……そんなことをしてもピューイからは逃げられないのにな。……そーれっ!」


掛け声のような言葉を発しながらピューイは羽を大きく羽ばたかせる。


「きゃあっ!?」


すると、リリィに向かって強烈な風が吹き荒れる。たまらず頭を抑えながら立ち止まると、左右から空気を斬るような鋭い音が鳴った。


リリィの足元には地面に刃物が通ったような跡が残っており、その先にある木々が真っ二つに切り落とされた。


「今のって……」


風系統の魔法の中で似たようなものがある。しかし今のは魔力がまったくなく、おそらくピューイのあの羽ばたきによって起きた鎌鼬のようなものだろう。

リリィがそんな推測を立てていた矢先、頭上から2回の爆発音が鳴り響いた。


「きゃあああああああああああああっ!?」


防御も取れず、まともに喰らってしまったリリィは爆発により、何回も転げまわった。


「よーしっ! また命中! つぎつぎ!」


「今度は風の刃で動きを止めた後、すかさずそこに放り込むとはなかなかやるのう」


ダイナマイトの性能を見ながらもディアナはピューイの働きをしっかりと見ていた。頭の中や言動はまるっきり子どものようなところがあり心配であったが、今のところ戦闘に関しては芳しい結果を残している。


それからもピューイによる爆弾の投擲が続いた。何回も手段を変え、リリィに命中させ、ダメージを負わせているのだが、その度にリリィが治癒魔法や防御魔法、詠唱することで戦いは長期戦となっていた。


「ああもうっ! しっつこいなニンゲン! さっさとやられてよ」


「はあ……はあ……」


激しく息切れを起こすリリィだったが、まだあきらめてはいなかった。怪我は魔法ですぐに治り、体力や魔力は持参していたポーションでまだまだ乗り切れる状況だった。


(まだ、こんなところで終われないわ。きっともう少しすれば外に出られるはず。……それまでは絶対にあきらめない)


森の外へ出られることに僅かな希望を抱いていたリリィはしぶとく生き残ろうとしている。

そんなリリィに苛立ちを覚えていたピューイは不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「ピューイ、もうよいぞ」


「えっ!? そ、そんなピューイもっとやれるよ! つ、次は絶対にしとめるからもうちょっとやらせて!」


紫音たちに見限られたと思ったピューイは慌てて反論すると、ディアナは首を振りながら言う。


「そうではない。あいつを殺す必要はなくなったから。爆弾の実験は終了という意味じゃよ」


「……へ? そうなの?」


「うむ。あの娘の治癒能力や耐久力は天性のものじゃろう。あれじゃったら儂の魔法実験の被検体に使いたいと思ってな、先ほど紫音たちの許可を取ったところじゃ」


「なあんだ。そうなんだ……」


自分の思い違いだということが分かり、ほっと一安心した。


「そういうことじゃから、あの者は生かしておきたいのじゃが……できるかの?」


まるでピューイを試すような言い方で訊いていた。その要望にピューイは迷うことなく。


「うん、できるよ!」


元気よく返事をした。

ディアナの期待に応えるべくピューイは天高くさらに上昇した。リリィたちがかろうじて見える位置まで飛ぶと、一気に降下する。


飛び蹴りのような構えを取り、どんどんと速度を上げ、凄まじい速度で降下している。


「《ホーリー・シールド》! 《セイクリッド・プロテクション》!」


向かってくるピューイの攻撃に対して自分の中での強力な防御魔法を2つ詠唱した。今のリリィは、強固な城塞で守られているといっても過言ではなかった。


そんな鉄壁の守りをしているリリィにピューイは自分の力をもってして迎え撃つ。


「ピューイキーーーーーーックッ!!」


声を上げながらリリィの鉄壁の守りに飛び蹴りを食らわせた。


「くうぅ…………」


飛び蹴りを中心に防御魔法に亀裂が生じ始める。意識を集中させ、防御に魔力を込めるも亀裂が収まることはなく、そして。


「……がはっ!?」


リリィの腹部にピューイの蹴りが入った。強烈な一撃に息ができないほどの痛みがリリィを襲った。

地面に横たわり、苦しんでいるさまを見たピューイは両腕を上げ、


「ピューイの勝利!」


見せつけるように勝利宣言をしていた。


「よくやったピューイ」


「えへへ、そうでしょう」


褒められたピューイは嬉しそうに笑っている。

自分の仕事をこなしたピューイを見ながら今度は自分の番と胸中でそう思いながら前へ出る。


「さて、残念じゃがお主はここで終わりじゃ」


「あ…………あぁ……」


呼吸が定まらずまだ喋ることが叶わないリリィは唸り声のような声を発していた。


「これからは儂の実験のために生きるんじゃな。なあに、お主のような貴重な被検体を失いたくはないからの丁重な扱いをするつもりじゃから安心せい」


言いながらディアナは、リリィの顔に手をかざし、そっと魔法を唱える。


「《スリーピングホール》」


すると、リリィの瞼が重りでも付けられたかのように重くなり始めた。意識は混濁し、もう目を開けていられなくなってきていた。


(この森は危険だわ。……クライドさんたちだけでも……なんとか……逃げて……ください……)


クライドたちに向けて胸中でそんなことを考えていたがそれを伝える術は今の彼女にはなにもなかった。


やがてリリィの意識は暗闇へと落ちていき、気絶するように眠っていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



金翼の旅団のメンバーがクライド以外、全滅したことを知らずにいるクライドは森の中を彷徨っていた。


「くそ……どこだよここは。全然出口が見えねえんだけど」


文句を言いながら歩き続けるも森ばっかりの光景にうんざりしていた。おまけに仲間の安否が分からない状況のためそのこともクライドの頭の中に入っていた。


そうしてしばらくの間、探索しながら歩き回っていると。


「結局ドラゴンもいねえし、こりゃあ帰ったらみんなにどやされるだろうな。……あれって?」


帰った後の心配をしていると、前方に人影が見えた。一瞬、見間違えかと思ったが近づくにすれ、それが幻ではないことが分かった。

しかも姿からして影の正体が人間だということが分かり、同じ冒険者かなとほっと一安心する。

しかしそれは次の一言によって状況が一変する。


「ようやく来たようだな侵入者。個人的な恨みはないけど国を守るため……そして俺の実戦経験を積むための礎になってもらうよ」


周囲の十個のファイア・ボールを展開させ、戦闘態勢に取り始めていた。十個もの炎の球体の出現に思わずクライドも腰に下げた剣に手を伸ばす。


今ここに金翼の旅団のリーダーのクライド……そして、亜人国家アルカディアの国民にして異世界人の紫音との戦いが始まろうとしていた。


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