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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第3章 招かざる侵入者編
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冒険者は2年前の真実を知る

「それって……いったいどういうこと?」


混乱の中、ようやく口にした言葉がそれだった。


「言葉通りの意味よ。アイツらは二年前、奴隷として売りさばくために獣人族の集落を襲ったの。でもそこに突然ドラゴンが現れて、欲をかいたアイツらが無謀(むぼう)にもドラゴンを捕まえようとして返り討ちに遭ったのよ」


そう言いながらローゼリッテは二年前のことについて淡々と語った。


今の話を聞いたリディアは、思わず後ずさりをする。

酒場で彼らには異種族狩りという裏の顔があると知ったときから行方不明になった理由を少し予想していた。しかし実際に聞いてみると、あの蛇牢団がドラゴン相手に手も足も出ずに死んだと知り、恐怖を感じた。


しかし話を聞いたリディアは、その中で疑問に思ったことがあり、ローゼリッテに問いかけてみた。


「ね、ねえ。二年前に蛇牢団は死んだはずなのになんで同じメンバーのあなたは無事なのよ」


その問いにローゼリッテはきょとんとした顔をしていた。


リディアの疑問は当然のことだ。

同じ蛇牢団のメンバーでドラゴンに襲い掛かったというのに彼女だけ無事でいることは不自然であった。


「そうね、利害が一致したから」


「……は?」


リディアから投げかけられた質問に対してその一言だけが返ってきた。


「アタシの力を見た今のご主人様に引き抜かれたのよ。それでその条件としてアタシが欲しいものを向こうが用意してくれるってことで今もこうしてせっせと仕事をしているわけよ。……これで十分かしら?」


(まただ。いったい何者よ、そのご主人様っていうのは。テイマーのようだけど吸血鬼のこの()を従え、竜人族の仲間でもある『シオン』とかいうやつ)


まだ見ぬ「シオン」という人物にリディアは畏怖の念を抱いた。


「お話はもうこれでいいかしら? 動いたせいでさっきから食欲と睡眠欲が一斉に押し寄せてきたから早くこの戦いを終わらせたいんだけど……」


そう言いながらローゼリッテは、ぐぅという可愛らしい音がお腹から鳴り、眠たそうにあくびをしてみせている。


(どうやら時間稼ぎはもう無理のようね。……この娘を倒す算段は一応できたけどまさかここで奥の手を使うことになるとは夢にも思わなかったわ)


ここまで嫌というほど実力差を見せつけられてきていたが、今のリディアにはローゼリッテに勝てるかもしれないある方法を思いついていた。


「ええ、そうね。私もそう思っていたところ……よっ!」


リディアはローブの中に片腕を入れると、その中から巻物(スクロール)を取り出す。


「《クリムゾン・インフェルノ》ッ!」


杖を持ったもう片方の腕をローゼリッテに向け、魔法を発動させた。

杖の先から現れた魔法陣より巨大な紅蓮の炎が顕現(けんげん)する。その炎は螺旋を描きながら周囲のものを燃やし尽くし、ローゼリッテに向かって突進している。


そして、すかさずリディアはローブの中から取り出した巻物の封を解き、巻物の中身が開かれた。

巻物からは紫色の眩い光が放たれ、周囲を埋め尽くす。それと同時にリディアとローゼリッテの足元に巨大な一つの魔法陣が出現した。


「……ただの不意打ち――!? なっ!? なに、この魔法陣!」


などと混乱した様子を見せている間もリディアによって発動させた魔法が接近してくる。


(いいえ、そんなことよりあれは、上級クラスのそれも広域殲滅型の魔法ね。それにあの火力は厄介だわ。アタシの能力で血の壁を作ったとしてもすぐに蒸発される可能性があるから防ぎきれない恐れがある。……こうなったら)


頭の中で状況を分析したローゼリッテは、この状況を打破するべく行動に移す。両手を前に突き出し、魔力を高めながら叫んだ。


「《イージス》ッ!」


ローゼリッテの扱える防御系の魔法の中でも最高峰の魔法を発動させる。

この防御魔法は、いかなる物理攻撃も魔法攻撃すら防ぐことができるといわれている無敵の盾。過去にこの魔法を発動させ、フィリアの攻撃も防いだ実績がある。絶対的信頼のある魔法を行使し、ローゼリッテはこの状況を凌ぐつもりでいた。


しかし…………。


(イージスが発動しない!?)


ローゼリッテになんの落ち度もないというのに魔法を発動しなかった。いつもならローゼリッテの前には光の盾のようなものが顕現するはずなのに一向に出てくる様子がない。


(……くっ!)


原因は分からないが、いくら待ってもイージスは発動しないと判断したローゼリッテは次の手に出る。苦肉の策ではあるが、周囲にある血やストックしていた血を操り、この血を使い、あの魔法に対抗しようとする。


「《創成(クリエイト)》――(ウォール)! 五重層!」


するとローゼリッテの前に一列に並ぶように5つの血で作られた壁が瞬時に現れる。


ドオオオオオンッ!

爆発音とともに耳鳴りがするほどの凄まじい轟音が鳴り響く。螺旋の炎が通った道には草も木々もすべて灰燼(かいじん)と化し、大地が晒されていた。

魔法の影響で炎が草木に燃え移り、ゆらゆらと炎をまき散らしている。


「はあ……はあ……」


荒い息を上げながらリディアはその光景を見ていた。今の魔法でほぼすべての魔力を使い果たし、立っているのもやっとの状態だった。


リディアは腰に下げていたバックから二つの回復薬を取り出す。一つは体力回復用、もう一つは魔力回復用だった。これら二つともリリィのお手製のものであり、効果は市販されているものより絶大な効果を秘めていた。

しかしローゼリッテとの戦闘では、これらを飲む暇さえなかったためようやく回復することができる。


念のため、ローゼリッテがいる方向を警戒しながら瓶の蓋を開け、ごくごくと一気に二つとも飲み干す。

すると、さきほどまでしていた息切れも収まり、体もすうっと軽くなった。魔力の方も全快までとはいかないが、まだまだ戦えるほどの魔力くらいには回復していた。

手で口を吹きつつ爆発により発生した煙が晴れるのを待つ。


「できればこれで終わってほしいわね。こんな不意打ちみたいなこともう二度と通じないわ」


淡い期待を込めながらしばらく待っていると、煙がようやく晴れ、状況を確認することができる。


「うぅ……」


煙の中から肩を手で押さえたローゼリッテの姿が見えた。

肩の先から焼失した右腕。そこから血がどばどばと流れ出ている。汚れのなかった闇色のドレスには、焼け焦げたような跡が何か所かあり、ボロボロになっていた。


「はあ……よくも……やってくれたわね……」


言いながらローゼリッテは足をふらつかせながら一歩一歩前へと足を進める。


「アタシの魔法が発動しなかったのは、あの巻物のせいかしら? まさかそんなものを持っているとは思わなかったわ」


巻物(スクロール)とは、魔導士によって作られた魔法の巻物。魔法に携わる者になら誰にでも作れるわけではなく、知識と実力を兼ね備えた魔導士によって作られる。

この巻物は封を解くことで魔力も詠唱もせずにその巻物に書かれた魔法を発動することができる貴重な代物である。


「ええそうよ。あれは魔法無効化領域を作り出す巻物よ」


杖を前に出し、いつでも打てるような態勢を取る。


「魔法の無効化……ね。それだったらアナタの魔法も無効化されると思うんだけど」


リディアから巻物の正体を聞き、さらに疑問を投げかける。


「それは、あの巻物が解かれた後に発動された魔法を無効にするからよ。だからその前に発動させた魔法に対しては無効化されないのよ」


「……そういうことね。まんまとやられたわね。血もさっきの攻撃を防ぐのに()()()()使い果たしてしまったわ。……でもまあ、無くなった右腕は少ししたら再生するのがせめてもの救いね」


(まだダメのようね。かくなる上は再生される前に一気に畳みかけるしかない)


今の発言に吸血鬼の驚異的な再生能力を思い知ったリディアはそうなる前に倒そうと試みる。


「ああ、そうそう。失った右腕……それにお気に入りのドレスをこんなにしてくれたお礼はきちんとしないとね」


睨み付けるような目でリディアを見るローゼリッテ。どうやら今の攻撃でローゼリッテを怒らせてしまったようだ。

まさか人間相手にこれほど損傷するとは思ってもみなかったためローゼリッテはどうしようもない屈辱を感じている。


おまけに紫音に無理言って買ってこさせたドレスをこんな有様にしてくれたという私怨も含めつつ動き出す。

バサッとローゼリッテは背中に生えた羽を開き、空を駆ける。


「は、速い!?」


相手に狙いを定めさせないように縦横無尽に動きながらリディアとの距離を詰める。


「……いったん距離を置くしかないわね」


そう決断したリディアは、ローゼリッテから離れるように後ろにある森の中に逃げることにする。

多くの木々が立ち並ぶ場所でなら自由に飛ぶこともままならない。


「逃がさないわよ」


リディアが森の中へ逃走することを読んだローゼリッテは手を前へかざし、さらに飛行速度を上げた。


(大丈夫、逃げ切れるわ。用意してあった血液もなくなったから大掛かりな血流操作はもう使えないはず。魔法を使い手もあるけどまだあの娘は魔法無効化領域の中にいる。そして私は領域外にいるから圧倒的にこちらの方が有利だわ)


そう考えたリディアは森の中へ行くためにくるりと後ろに旋回して走り出そうとした。


「……えっ!?」


後ろに体を動かそうとするが、何かに捕まり、まったく動くことができない。

リディアは、状況を把握するために視線を下に移す。


「こ、これは……」


そこには赤黒い鎖がリディアの手足を拘束していた。その鎖は、まるで木の根っこのように地面に根付いており、力を入れても抜け出すことが叶わないでいた。


(まさかこの鎖……あの娘の能力で作られたもの!? でもいったいどこから?)


その正体が、ローゼリッテの血流操作によって作り出された鎖だということはすぐに理解した。しかしその元となる血がいったいどこから来たのかは見当がつかなかった。


「もう忘れたのかしら? さっきも言ったわよね、『用意した血はほとんど使い果たしてしまった』と。頭のいいアナタならそれくらい分かるわよね?」


失った方とは逆の左手を握りしめ、その拳を放つために後ろへと拳を下げた。


「忘れている……ほとんど……まさか!? ……くっ! 《シールド・ウォール》!」


リディアが感じていた謎はローゼリッテの一言でようやく答えが見つかり、ローゼリッテからの攻撃を防ぐために魔法を詠唱した。

前方に分厚い壁が現れ、リディアを敵の攻撃からは守ろうとしている。


「ムダよ……」


「ガハッ!?」


しかしその盾は、ローゼリッテのたった一振りの拳によって無残にも破壊され、そのままその拳はリディアのみぞおちへと放たれた。


吸血鬼の腕力は人間の何十倍もあると言われている。その凄まじい威力が腹部を襲い、一瞬呼吸ができなくなった。本来ならこのまま後方へと飛ばされるのだが、拘束されているせいでその場所から動くことができなかった。


「どうかしら? これはアナタのせいでボロボロになったドレスの分よ」


ローゼリッテは指を使い、リディアの顎をくいっと持ち上げながら得意げに言った。


「こ、この鎖は最初に放った2つの球体の内、使わなかった方ね。一応警戒していたつもりだけどすっかり忘れていたわ」


リディアの答えを聞いたローゼリッテは「正解」と口では言わず、代わりににこっと笑って見せる。


「次はこの右腕の分よ……」


冷めたような声で宣言するローゼリッテは、リディアの右腕を掴む。


「な、なにを……」


右腕を地面と水平になるように伸ばし、そこに狙いを定めるように力を込めた蹴りが飛んでくる。


「アアアアアァァァッ!」


悲痛に満ちたリディアの叫び声がこだまする。ゾウにでも踏まれたかのような激しい痛みに見舞われた。襲蹴られた右腕はだらりと力を失い、右腕に持っていた杖はぽとりと地面に落ちていった。

骨折したのは直接見ずとも理解できる。涙と鼻水を垂れ流しているリディアは、あまりの痛みに気を失いそうになる。


「まだ終わりじゃないわよ。アナタに受けた屈辱は何万倍にして返してあげるわ」


ぺろりと頭から流していた血を舌で舐める。その行動にリディアは恐怖し、ローゼリッテは血を舐めた途端、恍惚に満ちた表情をする。


「アナタの血、最高に美味しいわ。シオンには負けるけどアタシが今まで味わってきた中で最高の味よ」


それはリディアにとってまったく嬉しくない称賛だった。

リディアの血の味をいたく気に入ったのかローゼリッテはリディアに予想外の提案を言ってきた。


「このまま痛めつけて殺そうと思わったけど気が変わったわ。アナタ、アタシの眷属になりなさい」


「……え?」


「本当なら侵入者はすべて殺すように言われていたけど、アタシにもそろそろ手足となるような手下も欲しかったし、シオンはたぶん反対すると思うけどアタシがラクするためにも説得して見せるわ」


まるでずっと欲しかったオモチャを手に入れたように無邪気な笑みを浮かべながら決意した。


「安心してアタシに身を預けなさい。一生アタシの餌として飼ってあげるわ」


このままでは生き地獄に遭ってしまう。そう感じたリディアは自分も巻き込む可能性もあるが背に腹は代えられないと思いながら攻撃魔法を発動させようとする。


「……おとなしくしなさい」


「むうう……うぅ」


鎖をさらに作成し、リディアの口周りを覆うように拘束する。このせいで魔法の詠唱を行うことができずリディアはただ唸ることしかできない。


「魔法使いの弱点は単純なものよ。接近戦に弱く、魔法の詠唱前に攻撃を与えるか、もしくは口自体を塞いでしまえばアナタなんかただの女の子よ」


魔法使いの弱点を心得ているローゼリッテには、リディアとの戦いなど簡単に勝つことのできる勝負だったようだ。


何もできずもがくリディアを見ながらそっと耳元で囁くように助言した。


「もし逃げたければ無詠唱魔法でも使えばいいじゃない。それなら口を塞がれていても発動できるわよ。最後の最後まで足掻いてみせなさいよ」


(あお)るような言い方だったが、リディアはそれに対して行動を示すことなく、ただ嗚咽しながら涙を流していた。

少しは抵抗をみせると予想していたローゼリッテも流石にこれは驚いた。


「もしかしてアナタ……あんなに詠唱破棄して魔法を発動させていたのに無詠唱で発動できる魔法が一つもないの?」


その問いかけにリディアは、弱々しく頷いた。

あれほどの魔法の使い手だというのに無詠唱魔法が一つもないと知り、ローゼリッテは呆れてしまった。


「シオンですらいろいろと無詠唱魔法を覚えているというのに残念だわ。……もういいわ。早く終わらせてあげる」


これ以上の抵抗はないと判断したローゼリッテは、リディアを眷属とするために吸血行為を行おうとする。


リディアは、目を見開きながら恐怖におびえていた。何度もうめき声を出し、体の拘束を解こうと暴れていた。


「そうね……必要なのはアナタの血と魔法だけだからそれ以外の人格や記憶を消してしまえばさすがの紫音も認めてくれるわよね。確か……ディアナが忘却魔法だか、消却魔法が使えたはずだから眷属にした後やってもらいましょう。そうしたらアナタも忠実なるアタシの眷属となるのよ。喜びなさい」


その後のリディアが辿る行方を言いながらどんどんと首筋に近寄ってくる。


「ううううぅー!」


涙を流しながら抵抗するもローゼリッテに首筋を噛まれてしまい、吸血されてしまった。

次第にリディアの抵抗する力は弱まっていき、目の焦点が合わなくなっている。そして目に宿る光すら失い、ただ茫然に虚空を見つめ……やがて気絶した。


するとリディアの拘束は解かれ、ローゼリッテは左手だけで器用にリディアの体を抱きかかえ、そっと地面に寝かせた。


「……ようやく終わったわ。…………さて、報告は一眠りしてからでいいか」


紫音への報告よりも今は寝ることを最優先事項と考えたローゼリッテはリディアの隣に並ぶように横たわり、すぐに眠りについた。


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