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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第1章 異世界転移編
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目覚めた能力

な、なんだったんだ今のは。


紫音は今起きた光景に脳の処理を追いつかないでいた。

それもそのはず、もとより単なる苦し紛れで放った一撃がまさかこのような結果になるだと誰が思っただろうか。


ドラゴンは現在、地面に横たわりピクピクと体を震わせながら苦しそうに唸り声を上げていた。


「き、貴様……自分から喰えと言ったのにこの仕打ちはあまりにも理不尽ではないか――って、いやそうじゃない。……貴様は……いったい私になにをしたっ!」


やがてドラゴンは不安定ながらも巨体を起こし、ふらつく脚を支えつつ紫音に向かって言う。その声は明らかに動揺を隠せないような声色を放っていた。


「なにをしたと言っても、殴った本人が知りたいくらいだぞ」


「このっ! さきほどの世迷い言といい、私を吹っ飛ばした訳の分からぬ力といい、脆弱(ぜいじゃく)な人間がよくも私に傷をつけてくれたわね。……もう、いいわ。 一口で終わらせようと思ったが、気が変わった……今から方針を変ることにするわ。少しずつ苦しみながらあの世へ送ってあげるわ」


ドラゴンの表情は突如、変貌(へんぼう)し、ギリィと歯ぎしりが鳴るほど歯を食いしばり、血走ったような(まなこ)で紫音を威嚇する。


これはヤバイ。今さらになってドラゴンを殴ったことを紫音は激しく後悔した。このままでは一口で食べられたほうがよかったと思うほどの苦痛を味わって死んでいくことになる。

いくら死にたがっていたといってもさすがの紫音もこれはお望みではない。


「ま、待て! 殴ったのは悪かったと思うよ」


ここは少しでもドラゴンを落ち着かせよう。そういった意味も込めてまず謝罪から入って話し合いを試みる。


「まさか俺なんかのパンチがそこまで効くとは思わなくてさ」


「ハアッ!?」


紫音の言葉が気に食わなかったのか鋭い目つきを向けてくる。


「で、でもお前だって悪いんだぞ!」


「……なにがよ?」


どうやら聞く耳をまだ持っているようだ。うまくすれば怒りも鎮めてくれるはず。

紫音は確かな希望を持って次の言葉を発した。


「お前の口の中が臭かったから思わず殴っちまったんだぞ! こっちの身になってみろ! お前の口の中に入ったらまず痛みより先にその悪臭で死んじまうだろう。だからまずはその口の中をきれいにして出直してこいよ!」


人差し指をドラゴンに突き立て、意気揚々と言ってやった。紫音は満足げな顔をしながらドラゴンの反応を待つ。


「……ほぉ、そうか」


返事をしてくれた。これはいい兆候なのだろうか……と思ったのも束の間、様子がおかしい。

ワナワナと体を震わせ、凶暴な唸り声を上げている。

これはまさか……、


「よくも……この私に向かって臭いだと言ってくれたわね。最上位の種族にいるこの竜人族の私に……女である私に向かって……よくも言ってくれたなぁ! この下等生物がよぉっ!!!」


どうやら話し合いは失敗に終わったようだ。まあ臭いの事実だから後悔していないが、まさか女だったとは……。ここにきてまさかの展開。


しかしこれは、先ほどよりもひどい状況に変わってしまった。ドラゴンの怒りは最大級にまでに達し、紫音を殺すために右の前足を振り上げ、そのまま紫音を踏みつけようと勢いよく振り下ろした。


紫音にとってこれは不本意な状況だ。こっちは食べられるために待っていたのであって殺されるのはなにかが違う。

この状況を打破するにはやはり戦って落ち着かせるのが得策だろう。紫音の攻撃はどうやらドラゴンに通じるのだからそれが今の最善の一手である。

……それに紫音にはまだ確かめたいことがある。


紫音は振り下ろされた足の対処をするためまず襲い掛かる攻撃に対して両手を上げ、ドラゴンの足を受け止める姿勢を取る。


本来ならばそのまま押し潰されて圧死するのが当然の結果だが、最初にドラゴンに食らわせたパンチのことを考えると、もしかしたらという考えが紫音の頭の中をよぎる。

そしてそのまま、ドラゴンの足がぶつかるその時、


「………って、あれ?」


またもや不思議なことが起こった。

確かに踏みつけられたと思ったのだが、驚いたことに紫音はドラゴンの足を両手で受け止めていた。

紫音が立っている地面を中心にクレーターのように大きな窪みができていたのに関らず、まったく両手に重みを感じない。

いや、正確には重さはあるが、予想していたよりも重く感じず、思っていたより軽い。踏ん張らずとも耐えられるためドラゴンのほうが手加減しているのではないかと疑うほどである。


「なあ、お前。これ本気でやっているのか?」


「なにを馬鹿なことを……本気に決まっているだろうがっ! 貴様……本当に人間か?」


「いや、どっからどう見ても人間だろ。……なんだ? ドラゴンってのはこんなにも弱いのか?」


「よ、弱いだと……。私はこれまで何千、何万という冒険者や異種族狩りの人間どもを(ほふ)ってきた竜人族なのよ。……それを……それを貴様はっ! これならどうよっ!」


紫音の煽りが効いたのか、今度は両足を上げ、連続で足を振り下ろしてきた。一撃で仕留めるわけでなく、手数を増やす攻撃に変更してくる。

それでも紫音にダメージを与えることができないでいる。それもそのはず、ドラゴンの連撃は紫音にはまったく効いていないのである。

攻撃が自分に当たっているという感覚はあるが、痛みは感じず、体にも異常は見られない。たとえドラゴンがこのまま何十分、何時間続けてもおそらく紫音には痛くも痒くもないだろう。


しかしこの力はすごいものだと、紫音は感心した。

奴の力は、本当は強いものなのだろう。先ほどの話もまったくの嘘を言っているわけはないだろうし、紫音自身、物語の中でのドラゴンの強さはよく知っているから疑ってはいない。


そうなると、紫音自身が強くなったと考えるのが自然だろう。これが異世界に迷い込んだ特典なのか。だったら、このまま奴の攻撃を受け続け、体力切れを狙うのではなく、こちらから仕掛けてみるのはいいかもしれない。


しかし不思議なものだ。自分の人生など当の昔に捨て投げ出そうとしているのに、突然見知らぬ土地に飛ばさたと思ったら自分でも信じられないような強さを手に入れている。

今の紫音はもう、死にたいという気持ちは薄れ、逆にもっとこの力を試してみたいという感情で溢れている。

なんとも身勝手な変化だが、人間、常人離れした強さを手に入れると、こうも変わるのかと身をもって体感した。


さしあたって、この力の全貌を解き明かすためにも目の前にいるドラゴンに解明の手伝いをしてもらおう。

 

……さあ、反撃開始だ。

紫音はとても楽しそうな笑みを浮かべる。


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