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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第2章 亜人国建国編
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喧嘩の終着点

降参する様子が見られないジンガにどうしたものかと紫音は困惑していた。

このまま続けたとしても一方的になってしまい、これから一緒に暮らす者としてはあまりジンガのことを傷つけたくないという気持ちが紫音にはあった。


「もう諦めなさいジンガ!」


「なっ!? お、お嬢……」


どうやって降参させるか、紫音が考えていると先ほどまで2人の喧嘩を観戦していたフィリアが声を上げた。


「実力は紫音のほうが上、それはあなた自身が一番理解しているでしょう! このまま続けても意味がないわ」


紫音の思っていたことを容赦なく、ジンガに浴びせるフィリア。はっきりと物言うやつだと紫音は思わず感心してしまった。


「しかし! このままではお嬢に顔向けできません!」


「別にこれで負けたからと言ってあなたに失望なんかしないわよ」


「しかしそれでは……」


「もうよかろうジンガよ」


「ディ、ディアナ……」


フィリアの横に立っていたディアナもジンガに降参するように促す。


「お主も男ならここはぐだぐだと言わず、潔く負けを認めるのも男ではないのかの」


「くっ! …………ま、参った」


ようやくジンガの口からこの喧嘩を終わらす言葉が発せられた。


「そこまで! この喧嘩は紫音の勝利っ!」


フィリアから喧嘩を終了させる宣言の言葉により、ようやく解放される。

うずくまっていたジンガはお腹を抑えながら一歩一歩おぼつかない足取りで紫音のもとまで歩み寄り、手を差し出す。


「んっ?」


この行動の意味を汲み取れず、首を傾げている紫音にジンガは気恥ずかしさを紛らわせるように声を荒げながら言う。


「こ、今回は俺の負けだ……だが、この一戦だけで貴様を認めるわけではないからな!」


「俺が勝ったのに?」


「確かに喧嘩に勝利したのは貴様だ。約束通りこの森に住むことだけは認めてやる。その証として……握手をしようじゃないか」


裏がありそうな言い方に少々警戒しながら手を伸ばす。


魔境の森に住むことだけはということはそれ以外、例えば紫音という人間を快く迎え入れはしないという意味にも聞こえる。

しかし紫音にはそれだけで充分であった。住むところさえ確保できれば、後はなんとかなる。同じ森に住むためこれから否が応でもジンガと接する機会は増えていく。

その中で認めてもらえればいいかと紫音は楽観的な考え方をしていた。


これから一緒に暮らす仲間として紫音はジンガの申し入れに応じ、握手を交わした。


「ふんっ!」


握手をした瞬間、ジンガは目一杯手に力を入れる。しかし、最後の悪あがきのような行動にも紫音は涼しい顔をしており、まるで効いていなかった。


「ジンガ……まさか、紫音にちょっかいなんかかけていないわよね……」


「っ!? も、申し訳ありません、お嬢っ!」


ジンガの行動をフィリアにあっさりと見透かされ、怒鳴られてしまったジンガは情けない声を上げた。


ひとまずこれで終わりかと、紫音が完全に油断しきった刹那、

突然横から大きな玉のような物体が飛来してきたと思いきや紫音の側頭部に直撃した。

ドオォンッ! という小さな爆発音が紫音の耳元で聞こえた。


「な、なんだっ!?」


唐突な出来事に紫音は混乱を見せるが、別段異常は見られなかった。


「ほう、まったくの無傷とはな。少々、本気で撃ったんじゃが魔法の攻撃にも耐性がある……いやこれは体制というより防御したのか? はたまた直撃する前に威力が失われたのか……」


「ディ、ディアナ……?」


さっきの突然の出来事をディアナは冷静に分析していた。

今の発言により、さきほどの攻撃をしてきた張本人はディアナであることが判明した。


「なっ!? ディアナっ! あなた紫音になんてことするのよ!」


衝撃的な光景に驚きを隠せなかったフィリアは声を上げながら理由を問いただす。

しかし、そんなフィリアとは対象的に落ち着いた様子を見せるディアナはまったく悪びれることなく、平然とフィリアの問いに答える。


「先ほどジンガの攻撃をもろともしていなかったのは紫音の持つ未知の能力のせいなんじゃろ。儂はその正体が知りたくて試しに魔力弾を撃ったまでじゃよ」


「まったくもう……それでもいきなりはやめなさいよ。さすがの私もびっくりしたわよ」


「それは、悪かった。紫音もすまんのう」


「べ、別に平気だったんで大丈夫だけど……」


「おい、ディアナ! 貴様、後少しでも軌道がずれていたらこっちに直撃していたではないか!」


「この私がそのようなヘマをするものか。この臆病者め!」


「な、なにおう……」


ディアナの安い挑発に乗ったジンガは、仕返しするためディアナを捕まえようと追いかけ、それをディアナは捕まるまいと避け続けながらにげるという追いかけっ子が唐突に始まってしまった。


この子どもの遊びのような光景に呆然と立ち尽くしていると、ゆっくりと紫音のそばまでフィリアが歩み寄り、声を掛ける。


「ごめんなさいね。ディアナは研究熱心なところがあるからたまに暴走することがあるのよ。実際私も竜人族ということでいろいろとされた経験者よ。でもディアナには悪気がないのよ」


「そのことは気にしていないから別にいいけど……ディアナって昨日話していた森妖精だよな? 俺の予想していたイメージとはだいぶ違うんだが」


妖精と付いているため体は小さく、羽が生えているのを紫音は想像していたためディアナと直接会ってイメージとのギャップに驚く。


「森妖精は大体あんな感じよ。ディアナの場合は永遠に近い永い時を森とともに生きているせいか、退屈を紛らわすために様々な知識を欲しているそうよ」


「ああ、なるほど。だからあんなに俺の能力について興味津々だったのか」


「ええ、そうよ。彼女の場合は特に魔法や魔道具についての知識が豊富で森妖精である前に私が知る中でも最上級の魔法使いでもあるわ」


自信を持ってそう断言するフィリアを見て、もしかしてと、あることに気づいた。


「もしかして、俺に魔法について教えてくれる人って……」


「そう、ディアナのことよ。実戦経験や知識が豊富だからきっと紫音を一人前に鍛え上げてくれるわよ」


紫音の言葉にフィリアは続けるように答えてくれた。

フィリアのお墨付きとあらば、必ず紫音は今以上に強くなれる。そう紫音は確信した。

しかし期待する一方で紫音は疑問に思っていたことがある。


「そういえばフィリア。この二人以外に魔境の森に住んでいるやつはいるのか?」


まだこの森がどれくらいの広さを有しているのかわからないが、少なくともフィリアを合わせて三人だけというのはあまりにも少なすぎると紫音は感じた。


「ええ。この森には私とジンガにディアナの三人……紫音も含めればこれで四人よ」


「ずいぶんと少ないんだな……」


「……でもいずれは、もっと仲間を増やしていくつもりよ」


フィリアは意味深な発言を発した。その発言の意味を今の紫音には理解できずにいたが、フィリアの真剣な顔つきに軽々しい発言ではないということだけは理解した。


「ほら、あなたたちっ! いい加減くだらない遊びをやめなさい!」


「お、お嬢! しかしこいつは……」


「言い訳無用! もう終わりにしなさい。あと、ディアナもジンガを挑発しないの」


「むっ、フィリアがそういうならこの遊びも終わりにするか」


フィリアの制止の言葉で、これまで追いかけっ子を続けていた二人はあっさりやめた。

これだけでフィリアはこの森のボスなんだと改めて実感した。


「遊びも終わったことだからこれから始めるわよ」


「始めるってなにをだ?」


「もちろん、紫音の歓迎会よ!」


フィリアは満面の笑みを浮かべながら紫音にそう告げた。

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