紫音の適正
異世界に迷い込んでから一日が経過した。
昨夜のフィリアの宣言通り、魔法について指導してくれるとのことで紫音は今か今かとそわそわしていた。
しかし、そんな紫音のことは放置してフィリアはある部屋へと向かっていた。
そこは、各部屋の中でも一際頑丈そうに作られている扉。そこは紫音が昨日、探索した際に見かけた部屋だったが、この部屋だけカギがかかっていたため結局中を見ることができなかった部屋だった。
この部屋は一体何の部屋なんだろうと、疑問に思っている紫音に対してフィリアはニヤリと嬉しそうに頬を緩ませながら服の中からカギを取り出す。
扉にカギを差し込み、ガチャリという音を立てて施錠された扉が開く。
「こ、これは……」
紫音は驚きのあまり口を大きく開け、目を丸くしていた。
それもそのはず、扉の先にあったのは数えきれない武器や防具、魔法具といった様々な装備品の数々がまるで店先にある商品のように陳列してあったからである。
紫音が見慣れない装備品の数々にきょろきょろと目を泳がせている中、フィリアは両手を腰に当て自慢するかのように話し始めた。
「どう、すごいでしょう。この部屋はいわば私の宝物庫よ。これまで魔境の森に侵入してきた冒険者や異種族狩りの連中から奪った戦利品の数々よ。この中には貴重な代物だってあるんだから」
「た、確かにすごいけど……なんでこの部屋に来たんだよ。今日は魔法について教えてくれるはずだっただろ」
「その魔法を教えるために必要なものを取りに来たのよ」
そう言いながらフィリアは紫音を置いて、部屋の奥まで進んでいき、やがて姿が見えなくなってしまった。その間、近くに陳列してあったものを眺めながら時間を潰していると、いくつかの装備品を両手に抱えたフィリアが戻ってきた。
「はい、まずはこれよ」
「……なんだ、これ?」
フィリアに渡されるがままに受け取った代物は剣であった。
手に取った瞬間、ズシリとした重さが紫音の腕に襲いかかる。その剣は銀色に輝き、左右対称で真っ直ぐな両刃の刀身を持った西洋剣であった。
魔法について教えてもらうはずがなぜ剣を、と紫音は疑問に思ったが、その疑問に対してフィリアはすぐに対応してくれた。
「なにって、剣よ。この森には魔物がそこら中に出現するって言ったでしょう。私に勝つほどの紫音なら心配ないと思うけど、念のために護身用として持っていなさい」
「心づかいはありがたいけど、俺、剣なんか使ったことがないぞ」
「心配ないわよ。あとで剣の指導をしてくれる人を紹介してあげるわ。それにその剣、そこそこ価値のある剣らしいから初心者でも当たれば、それなりに通用するはずよ」
フィリアの言った剣の指導をしてくれる人について疑問に感じたが、他に話すことがあるようだと悟った紫音は後で聞くことに決めた。
「それと、これが本題よ」
「……水晶?」
それは藍色に光る丸い水晶であった。紫音の目には何の変哲もないただの水晶に見えたが、これも魔法具の一種なのだろうか。
「これは、対象者の能力を視ることができる鑑定用の水晶よ。これを使えば、あなたの魔法適性や魔力容量、職業も知ることができるわ」
「……その職業っていうのは?」
「職業っていうのはその人に合った戦い方みたいなものよ。剣士だったり、魔法使いだったり、プリーストなどと様々な職業があるわ」
「その水晶に記された職業にしかなれないのか?」
「そんなことないわ。これはあくまでその人の適性を映し出してくれるだけのもの。適性に反した職業になっても別にいいのよ」
ひとまず強制でないのなら紫音は少し安心していた。
さすがにおかしな職業に適性があった場合にはどうしようかとフィリアの話を聞いてからずっと心配していたほどだった。
「職業についてもだけど今回は紫音がどういった魔法が扱えるのか、それを知る必要があるから持ってきたのよ」
この部屋に来た目的についてフィリアの口から告げられ、紫音もようやく納得できた。
「それで、どうやったら知ることができるんだ?」
「そう慌てないの。この水晶に手をかざしてみなさい。それだけで教えてくれるわ」
紫音は、フィリアの指示通り水晶に手をかざしてみる。
最初、なんの変化もなかった水晶だが、しばらくするとまばゆい光を放った。目を覆いたくなるほどの光に紫音は思わず目を瞑ってしまった。
やがてその光が消え、目を開けるとそこにはたくさんの見たことのない文字の羅列が並んでいた。
これはこの世界の文字だろうか。紫音が不思議そうにその文字を見つめている中、フィリアは左から右へと目を動かし、その文字を読んでいた。
フィリアが読み進めている間、紫音が暇を持て余し、再び周囲の装備品の数々を眺めていると、突然フィリアの口から「えっ!?」という声が上がった。
「どうした?」
「な、なによ……これ。こんなことが……あるわけ……」
「……?」
曖昧な言葉を口にしながら一向に鑑定の結果を紫音に告げようとせずにいる。
しばらく様子を見ていると、やがてフィリアは信じられないものでも見たかのような目で紫音に目を向けながら話す。
「実は鑑定の結果を読み終えたんだけど、あなた、私を倒すほどの力があるのに身体能力は平均より少し上程度で魔力にいたっては平均以下だそうよ。こんな結果信じられないわ」
「なっ!? 本当かよ!?」
昨日のフィリアとの戦闘を思い出し、紫音はフィリアより絶対に上だと予想していた。そのためフィリアに言われた言葉に驚きを隠しきれずにいた。
「それに文字がぼやけていて読めない部分があるのよ。いったいなんなのよこれ? ……それにこの職業もおかしいわ」
そうとう水晶の結果がいようだったのかフィリアは首を左右に振り、現実から目を背けるように水晶を視ることを拒否する。
「……さて、これで用も済んだことだし、さっそく魔法を教えてあげるから付いてきなさい」
「待てよ。まだ教えていないことがあるだろ」
魔法や職業の適性などまだ肝心なことをフィリアから聞いていなかったので、抗議する紫音であったが、フィリアはそれを無視するかのように足早に外へと出ていった。
紫音はとりあえず今だけはぐっと我慢することにして、黙ってフィリアに付いていくことにした。
その後、フィリアの後を追うように歩いていくと、家から少し離れたところにある川にたどり着いた。
「それじゃあ、魔法についてさっそく教えるわね」
「その前にまだ魔法や職業の適性について教えてくれていないだろ」
「……ああ、そうだったわね。最初に言っておくわ紫音……あなたとても珍しい職業に適性があるそうよ」
前置きを置きながら水晶に映し出された結果を紫音に伝える。
「紫音、あなたには《テイマー》の素質があるわよ」
「テイマー……?」
このテイマーという職業により、この先紫音は強大な力を手に入れることになるのだが、この時の紫音には知る由もない。




