謝罪
「なぜ謝る?」
重久がアマンに尋ねる。
「・・・私は筋の通らない事は嫌いなの。だから・・・・」
重久の問いにアマンが重い口を開く。
「何を今更!人の身体を奪おうとしたり、魂を取り込もうとしたくせに!」
「それは初めに私が貰うって言ってあなたはいいと言ったじゃない。」
「めっちゃ強引な理屈やな。」
「強引でも事実は事実でしょ!」
堂々巡りの言い合いが再び始まる。進まない話に重久は口を挟む。
「いい加減にしろ!話が進まんではないか。して、謝る理由を聞かせてくれ。」
「それは・・しが・・・・だから・」
「ん?なんやて?」
小さく呟くアマンに泉川が聞き返す。
「私がこの現況を作った元凶なのよ!」
「・・・駄洒落かいな。」
「違うわよ!」
「フミ、お前もいちいち食いつくな。それがどうした?」
重久が話を促す。
「・・・あなた達は自分の死因は知ってる?」
「・・・・あぁ。」
「知っとるわ。あれはえげつない最後やった。」
「俺は見ての通りだ。」
皆が自分の死因を思い出して遠い目をしていた。
「まさか、お前が俺達が死んだ原因か!?」
「・・・そうよ。」
アマンが目を伏せながら答えた。
「詳しく話せ。場合によっては切る!」
ここまで冷静だった重久が怒りに震える。
「ま、まずは泉川だったかしら?あなたの状況を詳しく教えて。」
重久の殺気に当てられて冷や汗を流しながら泉川へ話を振る。
「フミでええ。俺の状況なぁ、俺はいつも通り仕事しとったんやけど、その日は資材の荷揚げがメインの日やったからクレーン使こて上の階に資材上げとたんや。勿論作業するために作業計画書作って承認貰ろたり、当日のKYもしっかりやったんやで?荷揚げに使うワイヤもサラのやつにして安全係数の計算もしてバッチリやったんや。・・・せやけど、鉄筋の束を二点吊りしてる最中にな?突然『ピシッ』と音がしたと思ったらワイヤの片方が切れたんや。そんで鉄筋が滑って落下。俺の上にシャワーみたいに降ってきたって訳や。そんで俺の記憶はここまでや。気ぃ付いたら自分の葬式を見てたんや。」
「なんか知らない言葉が多くていまいちピンとこないな。それと今更なんだが、何でお前らの言葉が解るんだ?最初はどこかの異国の言葉だったよな?」
「それは俺も思っていた。それにフミとは最初から言葉は通じたが、どこか馴染めない所があったからな。」
「それから先に説明しましょうか。」
困惑するグラン達にアマンが説明する。
「あなた達は住んでいた世界も時代もバラバラなのよ。それで言葉が通じなかったの。私には『万能通訳』があるから問題ないけどあなた達には無理だものね。それから、あなた達の言葉が通じてるのは魂が融合しているからよ。」
「それでか、意外と便利なモンやな♪それに別々の世界て?」
「正確には表層部分の融合ね。だから意思の疎通ぐらいなら共有出来るわ。お互いが合意すれば深い所までの共有が可能ね。ただし、何故か私たちの魂の強さは同レベルだから取り込んだり、一方的な干渉は出来ないの。」
「しかし、先ほどお前は俺たちの何かを見たのだろう?」
「それは魔法ってシゲさんとフミにはその概念がなかったわね。それも追々説明するわ。それよりもフミ、あなたの言葉にはわからない事が多いわ。だからその光景を皆に見せていい?あなたの途切れた記憶の部分まで見れるわよ。」
「そんなん出来るん?んじゃ頼むわ。」
「わかったわ。『リープウォッチ』」
アマンが唱えると目の前に巨大な鏡の様な物が出て来た。
「これはぎやまんか?何かが写っているぞ!」
重久がスクリーンほどある物に写り込んだ映像に驚く。
「シゲさんはテレビ知らんから無理ないわな。あ、グランもやな。」
「始まるわよ。」
巨大なスクリーンが泉川の事故当時を映し出す。最初は重久やグランも見た事無い物に興奮し質問をしていたが、いざ事故の場面に遭遇すると当事者を含めて絶句していた。
「・・・何というか災難だったな。」
グランがしゃがみ込み今にも吐きそうになっている泉川の肩に手を置き慰めていた。
「アカン、自分が死ぬ所って思ったよりキツイわ。しかもアレはないわ。そらオトンとオカン発狂して所長どつくはずやで。」
泉川が自分に起きた境遇をみてうなだれていた。それも仕方無いだろう。泉川の上に降り注いだ鉄筋は当人を串刺しにして地面に縫い付けていた。後頭部からヘルメットを突き破った鉄筋は眼球を突き破り、鎖骨付近から侵入したものはわき腹を貫通。その他にも身体の様々な所から鉄筋が突き破っていた。そして鉄筋を支えに立ったまま絶命していた。
「フミよ、お前はあの音に聞いた弁慶より凄まじい最後だったのだな。」
「偉人に勝ってもたわ。ははは・・・」
力なく笑う泉川に憐みの目を向けるグラン達をわき目にアマン次の準備にとりかかっていた。
「次はシゲさんでいいかしら?」
「構わん。」
スクリーンに次の映像が写りだした。すると重久が語りだした。
「俺は決闘をしていてな。どちらの流派が優れているかを証明するために死合っていたのだ。」
「それで負けたのか。」
グランが容赦なく重久に結果聞く。
「むぐぅ、相違ないが俺も切った所で記憶が無くてな。最後に覚えているのは奴は唐竹割を、そして俺は袈裟切りを見舞った際に奴より先に俺の剣が届くと確信した。その矢先に何やら音がして地面が消えた感覚があったのだ。それで間合いが狂い奴の皮一枚を切った。そこから先は分からんがおそらく鉢を割られたのだろう。」
重久が苦虫をすり潰したような顔で答える。そして場面は進み件の決着の場面へと進んだ。重久が最後の打ち合いの寸前に若干姿勢が前のめりになっていた。そして刀の切っ先が相手の右胸から腰にかけて浅く切り込んだ後に頭を唐竹割にされた重久がそのまま地面に横たわりビクビクと痙攣していた。
「無念。」
重久がぼそりと呟いた。
「最後はグランね。」
「あぁ。」
そういうとグランの状況が写り始めたのだった。
しばらくの沈黙が続いた。それもそうだろう。皆が己の死に様を見せられては無理もない。すると重久がアマンに尋ねた。
「・・・それで、お前の責任は何処にあるのだ。」
「それを説明するには私がこうなった原因を話す必要があるわ。」
アマンは自分のここまでの経緯を全て話す事にした。そして全て話すと改めて皆に謝罪する事となった。
★ ★ ★ ★
「本当にすいませんでした。」
現在アマンは三人に囲まれた中央で正座している。
「ねーちゃん、謝って済んだら役人はいらんのんちゃうか?あぁ?」
正座するアマンの横でしゃがみ込み睨みを利かす。まるで古いヤクザの様なからみ方である。
「要約すると、アマンが若返る為に行った魔法が失敗して肉体が消滅。何とか自分の魂だけは逃がせたが、その時の魔法による時空の歪みで魂が無差別に転移した。しかもそのエネルギーが俺達の世界まで影響を及ぼして大なり小なりの物質を消滅させてる。」
グランがアマンの自供を纏める。
「その上に俺たちの死因の原因となった事もそのエネルギーが干渉しとるんやって?」
「その通りです。」
アマンはさらに縮こまって返事をした。
「俺の場合は要の柱の一部分を、フミの場合はワイヤとか言うロープ。シゲさんは足元の地面の一部。それが消滅したせいで俺たちのが死ぬ原因になったて事でいいんだな?」
「はい。」
「はいちゃうわ!このドアホが!シゲさんもええんか?切る言うてなかったか!!」
泉川の言葉にアマンがビクッとなる。
「俺は・・・いい。」
「何でや!理不尽やと思わへんのか?」
「理不尽だとは思う・・・が、己の鍛錬が足りないのも事実。戦いでは足元が悪いのはよくある事だ。それを負けたせいには出来まい。」
「グランはどない思う!?」
「俺は簡単には許せない。」
「せやろ!なら」
「でも俺はまだ生きている。」
「なっ!!」
グランの言葉に泉川が言葉に詰まる。
「まだ何とかなるんだろ?」
「・・・えぇ、大丈夫よ。」
グランの問いにアマンが答える。
「そんなん、俺らはどうなるねん!」
泉川の嘆きにグランが問う。
「お前はどうしたいんだ?」
「そんなモン決まってるやろ!この女にと落し前つけさすんや!」
「それで?」
「それでって。」
「それでフミが生き返るのか?」
「それは、どないやねん!」
「死んでる人は生き返らせられない。ただ、転生は出来る。私みたいに誰かの肉体があればだけど。」
「出来るんやないか!ほな適当に身体探して転生させろや!」
「それが、転生魔法は当人が行う必要があるのよ。」
「何やて?」
「あなたが転生魔法を習得しなければならないの。」
「・・・それってすぐに出来るようになるんか?」
「私は適正があったけど、それでも習得に60余年かかったわ。」
「60年やと・・・」
アマンの返答に泉川が衝撃を受ける。
「それに魂だけの存在ではもって2年かしらね。それ以上はよくて悪霊、最悪消滅するわ。」
「だってよ。どうするんだ?」
アマンの絶望的な宣告に泉川が呆然とする。
「一つ提案があるんだが。」
重たい空気の中でグランが提案する。
「・・・なんやねん。」
やさぐれた泉川に対してグランは提案した。
「一緒に住まないか?」
見ていただいてる方感謝しております。
どうか気長に見てください。