会合
「なんだここは?死後の世界ってヤツか?」
一面真っ白な世界。上、下、左右の区切りも分からない不思議な空間。そんな場所で一人の男が呟く。そして訳が分からないままでいると後ろから声がした。
「そのまま地獄へ行ってくれない?」
声の主の方へ振り返ると先ほど自分の体を乗っ取ろうとした女がいた。
「お前は、さっきのヤバい女!」
突然の事に驚きながらも身構える。
「誰がよ!あんたの方がよっぽどヤバいわよ!自分が何したかわかってんの!!」
女は凄い剣幕で男に迫る。その迫力にグランは思わず引いてしまった。
「えぇと、そのなんだ、お前が俺の肉体を貰うとか言うから。それにミリアになにかするかと思って。」
「あんたが良いて言ったんじゃないの!」
「あの状況でそれはないんじゃない?こっちは死んだと思って感傷に浸ってたんだぞ。」
二人の言い合いはさらにヒートアップして行く。そんな最中に二人に声を掛ける人物がいた。
「まぁまぁ二人とも落ち着けって。」
「そうだぞ、今は今後どうするか話すのが先だと思うが、な。」
声がしたと思ったら横に二人の男が立っていた。その男たちは先ほど女と一緒にいた奴らだった。
「お前達は、この女と一緒にいた奴等だな。仲間か?」
「違うわよ。」
女が一蹴する。
「俺たちは・・・というか実は俺にも今の状況がよくわからんのや。」
「うむ、俺もよくわからないうちにこうなってしまった。」
「はぁ!?そんな状況であんな抜群の連携プレーかましてんじゃないわよ!」
「アレはなんかビビッと来た言うか直観やな!今しかないって感じやったから。」
「左様、俺にもこいつのやりたい事が何故理解してしまったのだ。」
「ちょっと待て!訳がわからねぇよ!今、どうなってるんだ!」
「せやった、それは今からこのねーちゃんに説明して貰うとして先ずは自己紹介でもしようや。このまま名前も分からんのは不便やろ?」
「異論はない。」
「そうだな。」
「まずは俺から言うで。俺は『泉川 史晶』歳は29歳や。よろしくな。」
「俺は『重久 昌路』歳は26で浪人をしている。」
「オッサン26なん!?嘘やろ!年上や思たで。」
「見た目で判断するものではないぞ。それで次は誰だ?」
「あぁ、俺だ。俺は『グラン・ネード』歳は今年で23だ。それでさっきの包帯だらけの当本人だよ。さぁ、最後はあんただ。」
「フン!まぁいいわ。最後だし教えてあげる。私は『アマン』人からは大魔法使いと呼ばれる魔法使いよ。敬いなさい。クソガキども。」
「「魔法使い?」」
「クソガキ?」
三人は疑問を浮かべ小声で話し合う。
「どう見てもあいつの方がクソガキだろう。」
「このねーちゃん、もしかして痛い人ちゃうか?」
「痛いの意味がよくわからんが、変人なのは理解した。それで魔法使いとは何だ?先ほどの様子を見るに妖術使いかと思っていたのだが。」
「それはそれでいいんちゃうか?シゲさんには後で説明したるわ。ここって俺らのおった世界とは違うみたいやけど魔法ってホンマにあるん?」
「あるにはあるんだが、あいつはなんか変だぞ?」
「ちょっと!何話してるのよ!」
「あぁ、気にしないでくれ。それで本題の俺の身体の事だが、どうなっている?」
「結果だけ言えばあなたの肉体は完治するわ。それもとびきり上等にね。」
「じゃあ俺は助かるのか!!」
「よく聞きなさい。私は肉体はと言ったでしょ。そしてこの身体は貰うとも言ったわ。」
「簡単に言うたらどうゆう事やねんな?」
「グランの肉体はこの世界の医術では助からなかったのよ。それで彼も昇天しそうだった。そうなると魂の無い身体が出来るでしょ?そこで私の器にしようと思った訳。そしたら魂の定着途中で貴方たちが邪魔をしたせいで魂が融合、簡単に言うと混ざっちゃたのよ。運が悪ければ全員の自我が崩壊していたわ。」
サラッととんでもない事を言うアマンに三人が固まる。
「それってマズいんちゃうん?」
「あなた達はマズいわね。」
「何で俺達がマズいんだ?」
「魂ってのはね。強さの基準が肉体や能力と違うの。精神力の強さなのよ。」
「だからどうしたのだ。」
「わかりやすく言うと色よ。」
「「「色?」」」
「そう色よ。例えば赤と青を混ぜればどうなるかしら?」
「そりゃ紫やろ?」
「そうね、別の色になる。さっき言った自我の崩壊って所よ。もしかしたら新しい人格が誕生してたかもね。」
「なら黒と青なら?」
「そりゃ、黒が強いから・・・まさか!」
「その通り。この場合私が黒、あんたたちは青って所ね。」
「なぜ言い切れる?」
「だって大魔法使いのあたしとあんた達じゃ比べる事が出来ないじゃない?所詮貴方達はただの一般人って所ね。だから修行を積んだ私とは桁が違うと思うわ。」
「そんな事わからないだろ!」
「わかるわよ。私は自分の魂をプロテクトしてるけど、あなた達には出来ないでしょ?私がプロテクトを外せばすぐに私の魂があなた達を侵食して取り込むわ。そうなったらあなた達は自我も残らない。」
「「「・・・」」」
三人は黙ったまま口を開かない、いや開けない。
「だから大人しく昇天しなさいって言ったのに。そうすれば転生できたかもしれないのにね。馬鹿ね。」
「誰が馬鹿や!人が大人しくしてればこのクソガキが!なにをいちびってんねん!」
「誰がクソガキよ!あんた達なんて私の4分の1くらいしか生きてないくせに私にかなう訳ないでしょうが!」
「4分の1?」
グランがアマンの言葉の疑問を口に出した。
「(しまった!)」
「泉川だっけか?」
「そうや、フミでええわ。」
「ならフミ、お前29だったよな?なら四倍すると・・・」
「「「クソババアじゃねぇか!!」」」
奇しくも三人の言葉が綺麗にそろった。ブチンと聞こえた気がした。いや本当にしたのかもしれない。アマンは下を向いたまま固まっている。
「『リリース』」
彼女がそう呟いた瞬間に急に強風が吹いてきた。
「なんやこれ!」
「あの女が何かしたのだろう。」
「・・・あんた達が悪いのよ。その禁句を聞いたのは何十年ぶりかしら。」
「ホンマの事やないか!」
「うるさい!もう消えなさい!」
「クソッ!何とかならないのか!」
怒りに身を任せたアマンは己の魂を開放する。三人を無慈悲に取り込む為に。
★ ★ ★ ★
「・・・・」
「なぁ、俺らもう取り込まれたん?」
「さ、さぁ?どうだろうな。」
「風も消えたようだな。」
先ほどの強風は嘘のように消え何事もなかったかのように静まりかえっていた。
「えーと、どうしたらいいんだ?」
グラン達は先ほどのやり取りからおそらくは絶対絶命の危機が訪れる事を確信し身構えていた。だが、実際に何も起こらずグランが困惑しているとアマンが信じられない様な物を見るようにこちらへ瞳を見開いていた。
「・・・何でまだ存在出来てるの?」
今度はアマンが困惑していた。
「ありえないわ!ただの人間がこんな事!それも全員!?」
「あー、その説明してくれん?」
泉川がアマンへ説明を求める。
「出来ないわよ!あなた達がこの私と精神、もとい魂の強さが同レベルだって言うの!?」
「この結末が全てではないか?」
重久が一刀両断でアマンの疑問を切り伏せる。
「あんた達一体何者よ!!」
ついに意味が分からなくなったアマンが逆にグラン達へ説明を求める。
「なんだよ、コイツは。さっきからキレたり喚いたり。まぁいい、俺は建築組合に努めている。」
グランがやれやれと言った感じで説明を始める。それに次いで泉川、重久と説明しだした。
「俺は現場監督やっとったんや。当たり前やけど一般人やで。」
「俺は浪人をしている。故郷では小さな道場をしながら士官先を探していた。」
それぞれが自分の身の上を話すとアマンが叫んだ。
「普通じゃないの!もういいわ!『コネクト』」
「今度はなんや!」
アマンの行動に泉川が戸惑う。
「あんた達とは話してて疲れるから勝手に見させてもらうわよ。」
アマンが言い終わるとアマン以外の三人から光る線の様な物がアマンに向かって伸びていく。するとみるみる内にアマンの顔から血の気が引いていく。そしてしばらくすると口元を抑えて蹲ってしまった。
「ど、どうした?」
明らかに具合が悪そうなアマンを見てグランが声を掛けた。
「・・・ごめんなさい。」
アマンが急に謝罪をし、三人はますます混乱した。
「急にどないしたんや?」
急に大人しくなった事に疑問を抱きながら彼女の説明を聞く事となった。