事故
「そこの柱は抜くんじゃねぇぞ!そいつは要だ。」
「わかりました。コイツはいいですよね?」
「あぁ、構わん。」
ガマを叱り飛ばした後すぐにグランとマルスは作業に戻っていた。
「よし、グラン柱に縄掛けろ。」
「はい。」
グランはマルスの指示に従い柱にロープを掛けてゆく。
「それが終わったら引き倒して今日は終いだ。表の奴らを呼んで来る。」
「わかりました。」
マルスはそう言うと後の作業をグランに任せ解体材の積み込みをしている作業員を呼びに行った。
グランは柱にロープを括りながら視線の先に自分の荷物を見た。そこには革製のくたびれたダッフルバックがあり、口から今朝がたミリアからもらった弁当箱と水筒がチラッと見えていた。
「今日はこの後ミリアとマルットさんの所に寄ってスフレ奢らないとな。」
グランは最後の柱にロープを括りながら今朝の出来事を思い出していた。
「(そういやぁ、ガマはこの後マルスのおっさんの教育だったな。あいつ、今朝から最高だな。)」
グランは友人の一日を思い返し苦笑した。
「アイツにも何か奢ってやるか。」
そうグランがつぶやいたと同時にマルスが人を連れて戻ってきた。
「グラン、終わったか?」
「ええ、これで最後です。」
返事した先にはマルスを含め7人の作業員がいた。
「よし、てめぇら!綱持て!グラン!お前もこっちへ来い!」
「はい!」
グランは返事をすると建屋から外に出た。そして自分もロープを持とうと4本の柱から出るロープの内1本を手にした所で荷物を忘れた事に気づいた。
「!!ちょ、ちょっと待って!荷物を忘れてた!」
グランは急いで荷物を取りに建屋に戻った。
「(危ねぇ!俺の荷物はともかくミリアの弁当箱を壊したら何言われるかわかんねぇ!)」
グランは荷物を手に取り中身を確認した。弁当箱を確認するとマルスから急かされた。
「何してる!荷物取ったら早く来い!」
「はい!」
グランは足早に建屋から出ようとすると、『ピシッ』と頭上で乾いた音がした。グランが音のした方を見ると、マルスが抜くなと言った柱があり、何故かその柱の上部が三分の二ほど綺麗な円の形で欠けていた。
「(あれ?要の柱にこんなの無かったよな?)」
グランが疑問に思ったのも束の間、要の柱の欠けた部分がメキメキと音を立てて折れた。
「なっ!」
グランは一瞬あっけに取られたものの、すぐに我に返り外へ走りだした。しかし、崩れだした建屋の崩壊は早く一気に崩れていく。バキバキと凄まじい音がしたのでグランは反射的に振り返るとそこには巨大な丸太の大梁が頭上に迫っておりグランは咄嗟に体を捻った。しかし、大梁を躱しきれずにグランは大梁の下敷きとなりそこでグランは意識を失った。
「グランッ!!」
マルスはほんのわずかに建屋が沈んだ瞬間に叫んでいた。周りが何事かとマルスに注目する。するとメキメキと建屋の柱が折れ、次いで丸太の大梁が轟音を立てて中に落ちた。内側に倒れた柱に手に持つロープが引っ張られ何人かが前のめりに倒れた。
「嘘だろ・・・」
ガマはうつ伏せ倒れたまま目の前の惨劇に呟き、そして飛び上がり走りだした。
「クッソ!グラン!!」
グランの元へ走りだしたガマへ怒号が飛ぶ。
「動くな!」
「!!」
ガマはあまりの怒号に一瞬硬直し、怒号の主へと視線をやる。そこには凄まじい形相のマルスがいた。
「何言ってんだ!グランがあそこに居たんだぞ!」
崩れた家畜小屋へと指を差しガマが叫ぶ。そしてガマは再び小屋へと走る。その時数人がガマと同じように駆けつけようとしていたがマルスがガマの肩を後ろから掴んで地面に叩きつけた。背中から倒れたガマは一瞬呼吸が出来なくなり顔をしかめる。そこにはガマを叩きつけたマルスがいた。
「何しやがる!」
ガマはマルスに文句を言うとガマに胸倉を掴まれマルスが叫んだ。
「状況を見ろ!クソガキ!お前まで巻き込まれる気か!」
「グランをほっとく気か!」
「この現場の責任者は俺だ!黙っていう事聞け!」
「ッ!!」
見ると全員が動けずに固まっていた。
「聞け!お前ら!今からグランを助けに行く!シュム!」
「は、はい!」
「お前はすぐに医者を連れてこい!それから人を出すように組合へ連絡しろ!急げ!」
シュムは荷馬車から荷台を外し、馬に乗り駆けていった。
「他の奴等はグランを助けに行く!気を付けろ!何処が崩れるかわからん!」
マルスはそう言うと崩れた小屋へ向かった。当初の計画では綺麗に屋根ごと地面に落ちている予定だったが、今は至るところに柱が飛び出ていて安全が確保できない。
「いいか!危険だと思ったらすぐに逃げろ!行くぞ!」
マルスは作業員を連れてグランの救出に向かう。
「グラン!返事をしろ!」
「グラン!何処だよ!返事してくれ!」
マルスとガマはグランを呼ぶが返事は無い。
「おい、グラン嘘だろ!何処にいるんだよ!俺をからかってるんだろ?」
「・・・」
必死にグランを呼び続けるガマに対してマルスは口を真一文字に結んだまま黙々と作業を続けている。
「!!」
シュムが何かを見つけ叫んだ。
「誰か来てください!」
「どうした!」
「これって先輩の荷物じゃないですか!?」
そこには皆で昼食を食べた時にグランが手に持っていたものだ。グランにしてはかわいいらしい物だと思い皆でグランをからかっていたので印象に残っていた。
「間違いない!それはグランのだ!」
無残に潰れた弁当箱を確認したガマが悲痛な表情を浮かべた。
「まさか、この下か?」
ガマが見た先には大きな丸太の大梁が横たわっていた。