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魔王はメイドと深夜のお茶会をする1


 魔王は夕食の後、自室に籠りなにやら一人でコツコツと顕微鏡を使い細かな作業をしていた。机には水晶の欠片と金の鎖、金具歯車が散らばっている。細く綺麗な指先で器用に金具や歯車を組み合わせていく。

 ティーワゴンをひいて、部屋の外からナーガが様子を伺っていた。


「ナーガ、廊下は寒いから中にお入り」


 そっとドアが開く。ナーガの手が冷たい。

 魔王はクローゼットから黒いガウンを取り出すと、ナーガの肩にかける。


「月の満ち欠けが分かるペンダントが完成したんだ」


「それをどうしますの?」


 魔王は欠けた紅い月にペンダントの水晶をかざすと、月は数字の3の所に重なった。


「今日は満月から三日目だよ。月が約29.5日の周期を繰り返すとすると、次の満月まであと26日だ」


「?」


「ああ、そうだね。こちらの世界では時間なんて気にしないものね。まだ、正確な時間を測るには不十分だけれど、元の世界の知識を使えば少しずつ時間の感覚が取り戻せそうだ」


 この世界は時間にとらわれない。ないと言うのも、辺りが暗くなったら眠る。明るくなったら起きるという生活を習慣にしていたる彼女らには必用ないからだ。


「木の枝にある花がつぼみになり、花が咲き、木の葉が枯れると季節は夏から秋になり雪が降ります。気温は肌で感じますし、季節は花が教えてくれますわ」


「そうだね」


「僕は紅い満月の日にこの世界に来た。そして次の紅い満月の日にまた元の世界に戻らなくてはいけないんだ」


「戻ってしまうのですか?」


「無事に願い事が叶えばの話だけれども」


「願い事……?」


 魔王はペンダントを自分の首から下げると、ナーガが持ってきたティーワゴンに置いてあるポットからカップにお湯を注ぎ、ゆっくりと口にする。


「僕はやり残したことを叶えるために、この世界に戻ってきたんだ」


「べつの世界から?」


「目的は言えないけど……そうだナーガ、僕がいた世界のこと聞いてくれるかい?」


 ナーガのカップに紅茶とお湯を注ぐ。

 ポットにあるお湯がなくなるまで、少しの合間の、二人だけのお茶会のはじまりだった。


「魔王様、もちろんですわ」



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