魔王は君臨する
「……ナーガ、目を閉じていてくれ。僕は君を守る」
魔王はナーガを強く抱き締めると、一斉に襲いかかってきたナイフを全身で受け止めた。
体を突き刺す鈍い音が広間に響く。
ナーガの白いエプロンに紅い血痕が飛び散った。
広間にいた魔獣たちは魔王の体に無数のナイフが突き刺さっているのを見て、驚きを隠せずにいた。
フードの男は魔獣から体を拘束される。
背中に刺さるナイフを一本一本……体から抜く。
抜いた場所からは血が溢れる。
血がナイフから滴り腕を通って、ポタポタと床に落ちる。
血で重くなったベストのボタンを外し、床に脱ぎ捨てると、黒いブラウスのナイフで裂けた隙間から、ドクドクと血が溢れていた。
周りにわざとと複数の自分の体の傷を見せる。
その傷は空気に触れると段々と固まり、裂けた部分が何もなかったかのように元の状態に戻った。
「これがこの世界での僕の力らしい……これで満足か?」
しかし、魔獣に押さえつけられている男は、腹の底から高笑いをあげる。全身を覆っていたフードを脱ぎとると、黒い煙のような姿が見えた。
「私は姿を持たない」
男は煙のように姿を隠し、風のように野獣たちの立っている隙間をすり抜け、魔王に近づく。
魔王は先程自分の体から抜き取ったナイフを指と指の間に差し込み、一気に影に向け放った……!
ナイフは影の体を通り抜け、椅子の背もたれに突き刺さる。
「魔王様……! 後ろ……!」
影は魔王の背後に周ると、姿を現した手で首を狙う。
魔王は素早い動きで、忍び寄る手をつかんだ。
影を鋭い眼孔で睨み付ける魔王。
「……そんなに殺されたいか?」
影はニヤリと笑うと、またもや煙の姿に変化し、魔王の口の中から心臓を握るように体内に侵入する。体内でうごめく煙が魔王の体を蝕んでいた。
「魔王……俺の勝ちだ。この塔、この血、全てを俺が貰うことしよう……!」
「……どうかな?」
魔王は先程飲んでいた果実酒を、瓶のまま口に運び、胃に直接流し込むようにゴクゴクと飲み干す。一本、二本、空になった瓶がテーブルに置かれる。三本目を飲み干すと、魔王は目を閉じ口を固く締めた。
今までに見たことがない黒い炎が魔王を覆う。
「なんだ、この圧迫間……苦しい……魔王何をした……!?」
酒で増幅された魔力が溢れてくる。
「お前は、この俺の中で消滅するのだ」
弱った敵はもがき苦しみ、体内から出ようとしていた。
しかし、出口は閉ざされ、逃げる所がない。
飲み干した瓶に口をあて、シャドウを瓶の中に流し込む。
コルクできつく瓶の蓋を閉める。
「……さぁて、今夜は瓶の中に閉じ込められた勇者を見ながら、一晩中宴でもしようか……」
魔獣たちは目の前に現れた魔王が本物だと再確認し、その場に方膝を立て深く頭を下げた。
「魔王様、我々は生涯貴方様をお慕え申し上げましょう」




