魔王は試される
一方キッチンでは新しい魔王を祝福しようと沢山の料理が作られていた。
大きなお皿に色とりどりの野菜が扇状に盛られる。海老や葉物を生春巻きの皮で包んだ生春巻き。大きな海老が丸々一匹、貝や蟹などの海鮮食材のスープの中に添えらたシーフードスープ。
続々と出来上がった料理がキッチンから広間に運ばれる。
美味しそうな香りに誘われ、野獣たちが席に着く。魔王は一番前の席に座り、慣れた手つきでグラスにそそがれた果実酒を口に含む。
「新しい魔王様の誕生に祝福を」
魔獣たちは両手で手を叩き、魔王に称賛の拍手を送る。
ナーガは料理を運ぶ役目が終わると、軽く会釈をし、部屋から出ようとしていた。
「ナーガ、そこで何をしているの?」
「え……?」
魔王は手招きをして、隣の席の椅子を引く。
「君の席は、僕の隣だよ」
ナーガは顔を赤くして遠慮した。
「?」
魔王様は微笑むとナーガの手を取る。
「それとも、僕のお膝の上に来る?」
魔王はくすっと意地悪そうに微笑む。
「私は別の仕事がありますので!」
ナーガは断固としてその誘惑を拒否した。
「……残念」
手を離す。
魔王はナーガの動向を見つめていた。……と、その一瞬の隙を見て、何か光るものが顔目掛けて飛び出した。
それは魔王の鼻の前をかする。
「悪いね、ナーガ。僕は君を巻き込んでしまったようだ」
「魔王様……!?」
魔王は離したナーガの手を引っ張り、自分の胸元に強く抱き寄せる。二人を取り囲む様に無数のナイフが彼らの身動きを封じている。フードを被った男が仁王立ちで眼の前に立ち、残りのナイフを投げた。
「一歩でも動くと、お前を囲むナイフの刃が一瞬にして体を貫くぞ。魔王! お前の体に流れる血は本物なのか拝見しようか」