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続・魔王はメイドの心を誘惑する


「ふわあ~」


 青い空。塔と木に結ばれたロープに綺麗に洗濯物が並ぶ。

 爽やかな石鹸の香りとハーブのにおい。

 膝まである黒いワンピースに白いエプロンを着た女性が篭を両手でもち、あくびをしていた。


 窓からは朝食のパンが焼ける、いい香りがする。

 魔獣の子供たちはベットから飛び降りると、階段をドタバタと音を立て、走ってくる。


 それを彼女は優しい眼差しで見ていた。


 録さま、凛様とレイヴンさんがこの塔からいなくなってから、大分時間が経過しました。

 

「ナーガさん、この篭は浴室に持っていけばいいの?」


「ああ……レオパルドさん。私が持っていきます」


「女の子にこんな重いもの持たせられるわけないでしょ?」


 赤毛の元勇者。レオパルドさんはレイヴンさんがいなくなった後もこの塔を守り、よく私のお手伝いをしてくれます。


「おい! レオパルド! ナーガさんといちゃついてないで、早く朝食の準備を手伝ってくれ! 子供の数が多すぎて、上手く料理が運べな……うわ……!」


 水色の髪の元勇者。セーレさんは子供たちの面倒を見てくれるお陰で、子供たちから好かれ、邪魔されて最近は仕事が上手くいかないみたい。


「お前たちいいか!? 後で遊んでやるから、今はきちんと料理をテーブルに運んでくれ! ……え? 重いって? わかったから、自分達の使うフォークとコップを用意しなさい!」


 ナーガはその平和な日常の光景をくすくすと笑い、微笑ましく見つめていた。


「さて、私たちも朝御飯にするとしますか!」


 ナーガが手を叩くと、今日も一日が始まる。


 朝御飯をみんなで食べ、子供たちは頭のいい野獣に勉強を教わる。

 大人の魔獣たちは自分の特技を生かし、食材を調理したり、塔の整備、補強をしたり、姿を隠して密かに街へと繰り出し珍しい珍品を食材と交換してくる者もいた。


 相変わらず塔を攻めてくる愚かな勇者はいるが、レオパルドとセーレが剣術、武術を身に付け、お互いに稽古をしていることで力をつけ、勇者は二人によって成敗されていた。


 塔には平和が戻り、今日も無事に一日が終わろうとしている。

 

 しかし、彼女の胸には抜けない棘がいつまでも刺さっていた。


 首から下げたペンダントを握りしめる。


「……私の役目はいつ新しい魔王様が現れても良いよう、この塔を守ること。待っててもこないものはどうしようもないのよ。ナーガ……」


 自身を納得させるかのように何度も語りかける。

 

 ……そういえば、魔王様がやってくるのは、このような塔をも飲み込むくらい大きな紅く満ちた満月の月の夜。


 肩にブランケットをかけると、片手に蝋燭を持ち、ナーガは部屋を出た。

 少しずつ少しずつ階段を上りながら、魔王様との思い出を思い出していた。


 ……私は本物を探しているのーー……。

 

 塔の最上階に懐かしい背格好の男が立っている。

 

 あれは、まさかーー……。

 

 男はナーガの姿を見ると両手を広げ、

 慌てて走ってくる彼女を優しく抱き締めた。



「だいぶ待たせたね。


 ……ただいま」




 魔王はいつまでもメイドの心を誘惑しましたーー……とさ。

                  end

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