魔王が恋をした本当の訳
ふと目が覚めると、僕はやはりあの捕らわれた部屋の中で一人ベットで横たわっていた。窓が一つしかない真っ白な壁に覆われている部屋。腕からは点滴をされていたであろう、絆創膏が貼られている。
「随分、眠っていたみたいだけど、
具合はどうですか?」
「ああ、頭がだいぶスッキリとしているよ」
「起きられたみたいだから、ご家族の方呼んできますね」
僕はゆっくりと起き上がると、辺りを見渡す。綺麗に畳まれた制服と靴がバックに入っている。そして、病室の引き出しを開けると勉強していたであろう教科書、筆箱、学生書が入っていた。
学生書を開くと写真こそ貼られてはいないが、僕が高校生だということが分かる。
僕は病弱な体で生まれ、小さな頃から入退院を繰り返した。中学二年の夏、僕は急に持病が悪くなり、手術をすることになった。それは長い長い闘病生活だった。机に置かれた写真立てに写っている女の子がいる。
水色のセーラーのワンピースがよく似合う
僕の大切な……えっと……誰だっけ……?
その時、病室のドアがガラリと開き、両親が入ってきた。
「ねぇ、この子は今日はこないの? いつも見舞いに来てくれてたよね?」
「あのね……」
「ごめんな……話してやれなくて」
「え?」
「もう半年前に……亡くなったのよ……」
えっ、嘘だろ。
じゃあ、一緒に来てくれていたあの記憶は
半年前だって言うのか?
しかも、亡くなったって…
あんなに元気だったじゃないか。
お願いだ。誰か嘘だといってくれ。
そうだ、何なら僕の残りの命をくれて
やったっていい。お願いだ。誰か……誰か……。
「残念ながら、何度繰り返したって亡くなってしまった者の魂は無理だろうよ」
病室の隅に先程のドラゴンが身を潜めかせ、彼に話しかける。
「我々がができるのは、物語の鍵があうまで、物語の一部となり繰り返すこと。それでも、お前が死を望むなら、今、俺に首もとを噛まれて死ぬか? 瀕死状態のお前を何度も助けてくれた両親を置いて先に死ぬか?」
両親にはドラゴンが見えていないのだろう。
死は怖くない。俺が怖いのは……。
俺はうっすらと涙を浮かべる両親にそっと声をかけた。
僕は彼女に恋引かれていた。
彼女を守りたいと
誰よりもそばにいたかった。
君と過ごした時間、
それが今、スタートラインに立った
僕の生きる糧となろうーー……。
ー春。制服姿の高校生になった僕は机に座り、
授業が始まるのを待っていた。
隣の席は未だ空席だ。
まだ見ぬ彼女は残念なことに
運悪く始業式に交通事故にあい、
もう少しの間病院にいるらしい。
僕は窓から晴れた空を見上げる。
こんな晴れた日は彼女が洗濯物を
干しているのが分かる。
僕は彼女との思い出を
一つ一つ噛み締めながら
また、再開できる日を夢見てこの世界で生きていくーー……。




