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魔王の体内に眠る者の正体

 

 割れた窓から女性の悲鳴が聞こえる。

 嫌な予感がする。まさか。いや。

 そんなはずはない。

 彼女には僕の黒のローブを渡した。

 ある程度の力しかない勇者はローブに触れれば、重度の火傷を追うだろう。しかし、僕の霧を抜けて、窓を割っただと……。


 魔王は焦っていた。

 塔の入り口のドアを開ける。するとそこには中央の階段で、ナーガの首をつかみ上げ首を閉めている者がいた。


 白いブラウスに濃い茶色のパンツ。背中に背丈よりも長い大きな剣を背負い、その軽々とした軽装に剣士かと思う。しかしそのような軽装で一人、様々なトラップを越えてきた力の証拠でもある。すると彼の勇者としての力は計り知れない。


「来たな、魔王」


 焼け野原のような焦げ茶色の髪の毛。こちらを見つめる瞳は不気味なほどに、紅く光っている。


「ナーガを離せ」


 黒い炎が魔王の体から溢れだす。勇者に少しずつ歩み寄ると、下に引かれた赤い絨毯は燃え、焼け焦げた墨の靴跡が残る。


 勇者はナーガを自身の胸に抱き抱えると、背中の剣を鞘から抜き、ナーガの頬にあてる。

 

 魔王はその場に立ち止まった。

 ナーガはどうやら気を失ってしまっていた。


「……」



 勇者は剣をナーガの心臓に突き刺すフリをした。



「……魔王は、僕だ」


 勇者はナーガを抱いたまま、魔王にじりじりと近づく。ナーガの心臓に向けていた剣を魔王の頭に突き出すと、刃を勢いよく魔王の背中を十字に斬りつけた。


 あまりの体を貫く衝撃にその場に倒れ込む。

 床に倒れた魔王と、体からポタポタと水道の蛇口をひねった水のように流れ出す血を確認した勇者は、ナーガを解放する。

 勇者は舌舐めずりをして、倒れた魔王のそばに行くと、頭をつかみ、傷の痛みを耐えている魔王を不気味な笑みで見つめていた。

 魔王の着ていたブラウスを引き裂き、露になった身体に滴る血を見て、男は興奮する。


「……これが魔王の血」


 魔王の顔は真っ青だった。気絶するほどの痛みにじっと耐える。幾度となく剣で切りつけられるが、確実な一手は与えられない。朧気だった魔王の瞳が開き、彼は「覚醒」する。


 勇者の顔面を片手で押さえつけ、行為を阻止すると、口に無理矢理手を突っ込む。勇者は悲痛な声をあげたが、容赦なく喉を突き破ったーー……。



 ことが済んだのちに魔王は自分の手のひらを見つめると、軽く開いたり、閉じたりを繰り返した。痛め付けられた背中から流れる血は段々と止まり。パックリと開いていた傷口からは新たな細胞が再生を始めていた。


 魔王は首や肩を回して、自分の感覚を取り戻す。深呼吸をしたのちに、うろたえている勇者に伝えたーー……。



 十字に斬られた背中の傷はすっかり元の姿に戻る。それを見て青ざめた勇者は自棄になり剣を振り回す。傷が塞がったとはいえ、血液が不足している中、魔王の動きは鈍かった。避けきれなかった刃が顔や腕、腹をも複数ヵ所斬りつける。


「……!」



 僕は彼女を傷つけるつもりはなかったんだ。


 勇者の呻き声に目を覚ましたナーガが

 地獄の光景を目撃してしまった。


 それは争いもなく今まで平和に仲間たちと

 暮らしていた彼女の瞳に焼き付いた。


 だから、僕は我慢できなかった。


「お願いだ……命だけは許してくれ」


 勇者は目の前にいる悪魔に命乞いをする。


 ……それに僕はすごくお腹が空いている。

 貧血で倒れそうだ。













 満足した僕は何かの気配を感じ

 塔の外へと出る。

 僕が弱っている間に霧の力が弱まり

 この中に勇者が数匹紛れたらしい。


 僕は門番から弓矢を奪うと

 そこら辺に落ちていた小枝で

 悪さをしている勇者に放つ。


 指から離れた小枝は

 凶器に姿を変えると

 次々と勇者の心臓に刺さった。


 僕は意図も簡単にまた人を。




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