7. 宿命
朝、アリスが目覚めると既にデレクとローレンスはいなかった。村を発っていた。デレクの部屋を見ると必要な物だけ持って行ってしまったように思う。持ち主のいない部屋は空っぽだった。ベッドサイドの机には書置きが残してあった。
“俺はあの人と一緒に王都へ行く。アリスは自由に生きてくれ。いつまでもお前の兄、デレクより”
「デレク……」
アリスはその書置きを読んで泣きたくなる気持ちをグッと堪え、懐へと仕舞った。
アリスはリビングに出て朝食のスープを食べると、老夫婦に向かって言った。
「おじいさん、おばあさん。お話があります」
かしこまって言うアリスに老夫婦は向き直った。
「実は、私は人間では無いのです」
開口一番の言葉に老夫婦は驚いた様子だったが、大人しく耳を貸してくれた。
それからアリスは話した。前世で交通事故に合って死んだ記憶がある事。その後神様にお願いして別世界に生き返らせて頂いた事。天使として人々を導く宿命を背負っているという事。
アリスの話を黙って聞き、頷いていた老夫婦は案外あっさりと受け入れてくれた。アリスが天使であるという事を受け入れてくれたのだ。神様からの授かりものだと。そしていままで通り、何も変わらずに愛してくれていると言った。
「それで私は人々を導き、救わなければなりません。それが私の宿命なのです」
「そうか……。アリスちゃんは旅に出るんだね」
養父は言った。アリスは黙って頷いた。
「私達は止めないよ」
養母が続けて言った。その顔には笑みを浮かべていた。
「私はアリスちゃんが5歳で人々の傷を癒し、8歳で弓を扱って小動物を獲て来たのを見てきた。アリスちゃんなら出来る。きっと生きていける」
養母がアリスの手を握る。養父もその小さな手に自身の手をそっと添えた。
「世界を見て回っておいで」
「寂しくなったら帰ってくるんだよ」
「おじいさん……おばあさん……」
二人の心のなんと暖かな事か。アリスはその顔を涙でぐちゃぐちゃにしながらも、上を見上げて言った。ああ、暖かい。
「私、行ってくる!」