6. 身支度
「……どういうことだい」
養母はローレンスを見やるとそう言った。部屋をピリピリとした空気が包む。
「そのままの意味だよ、ばあさん。近々ブロズウェイ国との戦争が起きる。その為、15歳から30までの若者に徴兵令が下りてだな。デレクも例外じゃねぇのよ。」
淡々とそう説明するローレンス。
ここ、ラサーナ王国では昔から隣国ブロズウェイ国との小競り合いが続いていた。敵国であるブロズウェイ国といつ戦争になってもおかしくない状況だった。どちらから攻めだすかは分からないが、戦争になる事は間違いないだろう。その時の為に、王都が兵を徴兵することは別段不思議では無かった。
ローレンスの言葉を信じた老夫婦はうんと唸って考えた。出来る事ならデレクを兵隊に出したくない。だがどうする事も出来ないだろう。仕方がない事なのか。
「粗茶です。どうぞ」
台所でお茶を淹れたアリスが戻ってくると、ローレンスの前の机で湯呑茶碗にお茶を注ぐ。
「ありがとう。」
ローレンスはそれを受け取ると、少し息を吹きかけて口へと運んだ。
「まあ、デレクは身内だしな。分隊長である俺が直々に徴兵しに来たって訳だ。……旨いな」
ローレンスは兵士だった。12の時から兵の中で稽古をしており、現在38になるまでずっと兵士をしていた。デレクを孤児院に預ける時も、病弱の母親がデレクを産んですぐに亡くなり、ローレンスが男手一つで育ててきたが、兵として内戦に繰り出されることになり、王都を離れる事になったからだった。
「俺に徴兵令が出た……」
デレクは床を見ながらそう言った。
「そうだ、荷物を纏めときな。明日の朝にはここを発つ」
ローレンスは最後のお茶をぐいっと飲み干すと、立ち上がってそう言った。ずっと座っていたので体が動きたがっていた。背筋を伸ばして伸びをすると、緊張感の漂う空気の中、欠伸をした。
「急すぎないかい」
そんな様子に驚くことも無く、養母はそう言った。老眼鏡の奥では何を考えているのか曇っていて見ることが出来ない。
「時間が無いからな、悪いが従ってもらう」
「……」