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天からの使い  作者: 蟻咲
第一章
5/8

5. 戦争


「嘘だろ……?」


 デレクはショックを受けた様子でそう言った。無理も無い。見知らぬ他人が、実の親だと家に押しかけてきたのだ。


「俺は孤児だ」


 デレクは2歳で孤児院に入り、4歳でカーター夫妻こと老夫婦に引き取られた。デレクには2歳より前の記憶が無かった。親の記憶が無かったのだ。


「あんたが俺の父親……な訳が無い」


 デレクは自分に言い聞かせるように言葉にした。だが、有り得る話ではあったのだ。デレクは内心半信半疑だった。


「デレク……」


 アリスはどうしていいか分からずにデレクの名を呼んだ。デレクの不安そうな瞳が揺れ、アリスを移す。


「驚いたな。本当に覚えてないのか」


 ローレンスは本当に驚いた様子だった。


「だから言ったじゃろ、今更だって」


 老夫婦はローレンスの方を見向きもせずにそう言った。織物を作る手だけが正確に動かされていく。


「あんた達が俺の話をしないで育てたのは何となく分かっていたが、忘れちまうとはなぁ。2歳だぜ? 俺が手放したの」


「手放した? 捨てたんじゃろ」


 養父はさも当然であるかのようにそう言った。


「おいおい……愛する我が子だぜ? 誰が捨てるかよ」


「…………」


 愛する、の部分を強調して至って真面目にそう言うローレンスに養父は黙った。


「それにしても大きくなったなぁ。今いくつだ?」


「あんたに関係ない」


 デレクは間髪入れずにそう言った。


「見たところ16、7か。……17だな。おい、嬢ちゃん! 酒持ってきてくれ!」


「えっ……」


 いきなり用事を頼まれたアリスは驚いた様子だった。困った様子で養母の方へ視線を移す。


「この家には無いよ、ローレンス」


 老夫婦は飲酒をしない質だった。事実、この家には酒などと言った贅沢品は置いていなかった。


「チッ、どんな家にも酒ぐらいあるだろうがよ」


 ローレンスは舌打ちすると、不機嫌そうにそう言った。


「アリスちゃん、お茶持ってきてくれるかい」


 養母は手元からアリスに優しい視線を向けると、そう言った。


「はい、おばあさん」


 アリスはそう言って立ち上がり、スカートを叩いて皺を伸ばすと台所へと向かって行った。


「お前の妹か? 聞き分けの良い子だな」


「よく働く私の娘だよ」


 デレクとは話をさせたくないとでも言いたげに、話を振られたデレクを遮り養母がそう言った。ローレンスはこの場において鼻つまみ者だった。


「カーター夫妻は慈善家だねぇ。身寄りの無い子を二人も預かって。……二人だよな?」


 ローレンスは確認するように養母に問いかける。


「二人だよ」


「……ローレンス」


「なんだ? 爺さん」


 先程までずっとだんまりを決め込んでいた養父が口を開いた。ローレンスは養父へ視線を移す。


「そろそろ要件を言ったらどうだ」


 ずっと気になっていた事だった。ここに来てからと言う物、ずっと他愛も無い話ばかり。何をしに来たのか。養父はそれがずっと気になっていた。


「おお!そうだ。忘れるところだった。俺はデレクに用があってきたんだ」


「……?」


 デレクはローレンスへ視線を移した。ローレンスはデレクを自分の隣に座らせると、向き直って真剣な表情を見せた。


「デレク、俺と一緒に王都に来い」


「……なんで」


 眉をひそめてそう言うデレクに、ローレンスは真っ直ぐにデレクを見据えると、口を開いた。


「お前をラサーナ王国の新兵として我が軍に入隊させる」




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