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天からの使い  作者: 蟻咲
第一章
3/8

3. 産まれたての命


 産まれたばかりの私は、背中に小さな羽の生えた赤子だった。天使であるが故であろう。頭には天使の輪は無いが、人々を導き、救い、神様にその功績が認められると天使から大天使になるらしい。私のまだ小さな天使の羽は、服で隠せるので今はどうとでもないが、それを見た私の実の母親は恐れ、気味悪がり、私を1歳に満たない頃に孤児院に預けた。


 孤児院では私は赤子だったので言葉は話せなかったが、何が起きているのかは理解していた。精神年齢は高校生なので、話すことが出来たらその違いに驚かれるだろう。私は、孤児院の親切な人達によって2歳まで育てられた。すくすくと成長した私は、ある日、とある子供を授からなかった老夫婦に引き取られる事になった。


「よろしくね、アリスちゃん」


 アリス。それが私の新しい名前だった。西洋の名前だが、言葉は日本語で理解できる言葉だった。異世界なのだから前の世界とは差があるだろうと覚悟していたが、そんなに差が無くて良かった。


 老夫婦はそう言って頬に皺を作って柔らかく微笑み、私に手を差し伸べてくれた。私はその皺皺の大きな手に自分の小さな手の平を重ねた。


「よろしくおねがいします」


 そう言って上目遣いに見ると、嬉しそうな老夫婦の笑顔があった。暖かく受け入れられた私は、後ろでじっと様子を伺っていた年上の少年の方を伺った。


「よろしくね」


「……おう」


 焦げ茶色の髪に茶色の瞳の少年は、私が声を掛けると軽く頷いた。まだ目線は合わせてくれてはいないが、これから家族になるんだ。自然に仲良くなっていくだろう。


 少年の名前はデレクと言った。デレクも孤児で、4歳の頃に老夫婦に引き取られたそうだ。私の5歳年上で、今は7歳。私に対して最初は他人行儀だったが、だんだん打ち解けてくるにつれて家族として認められてきたように思う。


 デレクは大人しく、老夫婦に対して忠実で、無口だが意思表示はちゃんとやる、優しい子だった。かと言って女々しいなどということも無く、男の子らしく剣を振るったり、アウトドアで活動する事が好きだった。


 デレクも老夫婦も、私の背中の羽を見て、驚いたように目を見開いていたが、きっと神様からの授かりものね、と受け入れてくれた。私はデレクと老夫婦の前でだけありのままの自分をさらけ出す事が出来た。


 それから私達は老夫婦の作る織物を売ったお金と、デレクが外で弓を使って仕留めてきた鳥などの小動物を売ったお金で細々と生活していった。学校のない世界なので、私も将来は老夫婦に教わったこの織物を作る技で細々と生きて行くんだろう。そう思っていた。だが私が5歳になったある日のことだった。


「おばあさん、具合悪いの?」


 突然、養母が体調を崩し、熱病に襲われた。高熱だった。


 養母はベッドに横になり、養父に掛けてもらった毛布を首元まで掛けながら、胸を苦しそうに上下させ、私の方へ頭を傾けた。


「ごめんね……」


 違う。謝る必要なんて何もない。私はそう思いながら養母傍らに座り、手を強く握った。


 隣町まで町医者を呼びに行った養父は、まだ帰って来ない。外は大雨だった。風も囂々と吹き荒れる中、なけなしのお金を持って外へと飛び出して行った。だが、この大雨だ。町医者も来るに来られ無いだろうと予測できる。それでも養母には薬が必要だった。


 デレクも後ろの壁に背を持たれながら心配そうに様子を伺っていた。お互い無言で、何かいい案は無いだろうか、と語っていた。


 日が傾き始め、お互い何か食事をとろうかと考え始めていた。その時だった。


 養母の手を握る私の手が発光したのだ。オレンジ色に輝き始め、暖かい熱を持ち、暗い室内に灯る。尊いと感じるその光が発行し始めると、何やら癒しの力が働いたのだ。


 突然吹き荒れていた嵐が止み、養母が起き上がった。熱は下がっていた。薬も何もなしに、ただ手が発光した直後に病気が治ったのだ。


「大丈夫か!? ばあちゃん」


 デレクは起き上がった養母に駆け寄ると、その顔色を見て安堵した。そして驚いたように私を振り返った。


 私の手は普通の状態に戻っていた。驚いたことにこの現象は、私が天使である事と関係していた。天使の力の一部だったのだ。その事が分かると、養母は私の元へ来て言った。


「アリスちゃんのお陰で良くなったのね、ありがとう」


 元気な笑顔だった。デレクも私も嬉しさのあまり彼女に抱き着いた。養母はあらあらと戸惑ったようだけれど、私達を抱きしめ返した。デレクは無言で顔をうずめていた。私の目には涙が滲んでいた。


 町医者を連れてきた養父が帰ってくると、元気になった養母を見て泣いて喜んでいた。私も嬉しかった。町医者になけなしの貯金全てを渡してしまったけれど、それでも私達は元気になった養母の姿を見て歓喜していた。


 この出来事があってからというもの、私は怪我や病気を治せる、癒しのアリスとして村中に名が広まった。小さな村だから噂が広まるのは早かった。村中からお金の無い病人や怪我人がやってきた。私が養母にやったように癒しの力でそれを治すと、ありがとう、ありがとうと感謝された。隣町からも、病気を治してほしいと病人や怪我人が押し寄せてきた。私はお金を受け取れなかった為、無料でその怪我や病気を完治させ、はたまた有名人になった。


 そこで困ったのが町医者だった。医者は現状全く足りておらず、そのほとんどが首都である王都にいた。王都から離れているこんな土地では医者は殆ど居なかった。その為、法外な金額を要求する質の悪い医者も珍しくなかった。


 勿論、自分の損得関係なしに苦しんでいる人がこれで少し減ったと喜んでくれる医者もいた。私の噂が流れてからと言う物、患者を取られては生活が出来ないと困った一部の医者は、私の噂を揉み消す為、こんな噂を作った。


__癒しのアリスなんて存在しない


__占術師の類で治った気になるだけの、紛い物だ


__医療なしに病気や怪我の完治なんて在り得ない


 日に日に、私の元へ訪れる人が減っていった。元々、辺鄙な土地の村外れにある目立たない小屋に住んでいたので、家が分からずに訪れる事が出来ないと言うのもあった。


 そうして私はまた、織物作りや家事を手伝うだけの生活に戻って行った。


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