1. 転生前の現代にて
体内にいた
薄明りの元、血管が浮き上がった赤い体内だ
私はこのまま産まれる__
冬。辺りはまだ薄暗く、張り詰めた静寂と突き刺すような寒さが場を支配していた。ハラハラと小さな白い無数の影が舞い降り、地面に解けるように吸い込まれていく。ぼんやりと灯った街灯の下、十字路の交差点の前で、数センチの雪が降り積もった点滅した青い信号機を見て私は立ち止まった。
「寒いなぁ……」
独り言。白く色を付けた吐息と共に何となく漏れ出した言葉が静寂の中に消えて行った。唇は震え、歯はがちがちと音を鳴らす。
「今日は行きたくなかったなぁ」
冬休みだと言うのに、高校の定期テストで赤点を取ったせいで休校中の学校に一週間行かなければならない私は、朝早くから支度をして家を出てきた。今日で3日目だ。昨日は午前中だけで終わり、早く帰ってこれたので午後は楽しく友人と一緒にカラオケで遊び、堪能できたが、今日は数学。数学の教師は厳しいのだ。午後も勉強させられるかもしれない。そう考えると、気が重くなった。
時折ライトを照らしながらザーっと通過する車を見ながら私は赤に変わった信号をぼーっと見つめながら、青に変わるのを待っていた。そうだ。早く終わったら友人を誘って、今日も出掛けよう。最近開店したばかりのパンケーキ屋さんに行こうか。私はそう考え、少し気を持ち直すと、青に変わった信号を見て足を前に運んだ。
横断歩道を歩いていると、ふと、右手に持っていた鞄の中身を確認したくなった。筆箱を忘れたかもしれないのだ。歩みを止め、鞄の中身を確認した。良かった、ちゃんと入っている。
視線を前方に戻し、足を再び前に運んだ私は、右から急にトラックが物凄い速度で迫っている事に気が付かなかった。
一瞬だった。視界の端に灰色の壁が見えた。バンと音を立てて私は空中に投げ飛ばされた。すべてがゆっくりと遅く見えた。キキーっと私を引き飛ばしたトラックが急ブレーキをかけて止まる。衝撃と、風だけを感じていた。
痛みを感じたのは地面に擦り付ける様に体を落とした随分後だった。私は全身がうだるように熱く何も考えられなかった。横たわり、血が目に入って霞む視界の目の前に散らばった自分の脳髄が映っていた。ああ、私死ぬんだ。直感でそう感じた。畜生。私……私は、死にたくない。体に覆いかぶさる死の感覚を頭では否定したくても、体は動かない。生きたいと、初めて心から願った。
急いで下りてきたトラックの運転手が私に何か言っている。だけど音は耳に届かなかった。耳鳴りが響き、視界が黒く歪む。もう何も見えない。死が私を噛み砕いて呑みこんだのを感じた。