No.6 魔法の正しい使い方
異世界二日目。
爽やかな朝なはずなのに…私は精根尽きかけています。
起き抜けに見たのは、サラサラの青銀色の髪と濃い紫色の瞳。何気に色っぽいですね。
寝惚けた頭で、綺麗だな~なんて思ってハッとしました。
「…なぜ、ここに?」
「僕のお姫様で天使なルナを見つめて、幸せな朝を噛み締めていたんだよ」
「……理由になってませんが」
「じゃ、僕と一緒にもう一度朝の微睡みを味わおうか?今なら腕枕もつけちゃうよ?」
一緒に寝転んだまま目を細める父に、私は顔がひきつるのを止める事が出来ません。
相変わらず言葉の噛み合わなさは群を抜いているようです。
朝から甘い言葉に食傷気味。
それは恋人に言って欲しいですね。
私が固まっていると、ノックと共に入って来たティーノさんとジルさんが助けてくれました。
あ、ティーノお兄様とジルお兄様でした。
そして、さぁ着替えようとクローゼットを開けて、すぐ閉じました。
キラキラ、ビラビラ、フリフリ。
寝間着でいる訳にいかないので、気を取り直して一番地味で着やすい青いドレスを着ました。
朝からこの苦行…しんどいです。
休むと駄々をこねた父を仕事に送り出して、私はソファーの背にヘバり付きます。
色々なモノを根こそぎ削られたみたいです。
「大丈夫ですか?」
「遅くなって悪かったな。陛下に朝一で呼ばれて、父上の暴走を止められなかった」
申し訳なさそうな兄二人に、姿勢を正して顔を横に振ります。
「いえ、ティーノさ…ティーノお兄様やジルお兄様のせいじゃありませんから。それにあれを止めるのは……」
あの暴走を止められる人は、この世界にいない気がしてなりません。
素手で暴走車を止めるぐらいに危険です。
ティーカップを片手に苦笑いする二人に、私も苦笑いしてしまいます。
父の愛情過多はどうにかしたい問題ですが、無理ゲーな気もします。
「ありがとう。それで、今日からルナには魔法の師が付く事になりました」
「魔導局の長で、ティーノやカイル、レイア王子の師で優秀だから安心だぞ?」
「魔導局、ですか?」
聞き慣れない言葉に聞き返すと、ティーノお兄様が噛み砕いて話てくれます。
魔導局は名称の通り、魔導師が集まり仕事をしている場所で、魔力の高い人は身分問わずに魔力を磨き魔導師試験をパスし魔導局で仕事につく事が出来る。
主な仕事は四つ。
一、お城などの護るための結界を作る事。
二、王族や貴人の護衛
三、魔術師達の育成
四、新たな魔法及び魔方陣の製作
ここに追加として、騎士達だけでは抜刀不可な魔獣の相手をする事らしい。
そこの長はハイエルフの、性別を超越した見目麗しい方だとか。
「…ハイエルフさんですか」
精霊やドラゴンにつぐ、ハイエルフって耳のとがった生き字引の設定が多い種族さんですね。
ちょっとファンタジーな種族に、活字中毒だった私はときめいちゃいます。
昨日の私だったら、全力で拒否していたと思いますが。
一晩寝て頭がスッキリしているのと、年齢と共に身に付いた開き直りの精神で、今は落ち着いて物事を考える余裕が出来ました。
社会人スキルには、切り替えの早さは必須なんですよ。
気分は毒を食らわば皿までです。
よって出てきたのは、本来の本やゲーム好きのオタクな思考。
ファンタジーから色々な恋愛小説やゲームまでを網羅する雑食具合に、呆れられたのはいい思い出です。
考えに耽っていると、頬に人の体温を感じて驚きました。
「大丈夫ですよ。長は優しい方ですから」
「それにルナは一人じゃないぜ。ティーノとキース様とカイルも一緒だから。俺は午前はちょっと仕事だけど、午後からは一緒に過ごそうな」
「はい。一生懸命頑張ります」
私の頬に当てながら憂い顔のティーノお兄様と、心配そうなジルお兄様に営業スマイルしときます。
オタクな思考が駄々もれしてなくて良かったです。
心配させてすみません。
「では、ルナの朝食を終えたら長の所へ行きましょうね」
「まだ時間はあるから、ゆっくりいっぱい食べろよ?ルナはまだ成長期なんだから」
「…ハイ。ガンバリマス」
成長期って言われても微妙です。
中身は三十路ですから。
先程とは違う意味で、頑張らなければ十代ではないのがバレそうです。
ボロが出ないうちに、用意されていた朝食を食べてしまいましょう。
スクランブルエッグに焼きたてのパン。
サラダに温かいスープ。フレッシュジュースも美味しかった。
こちらの世界の食事は、美味しいのですが…夕食の豪華さだけは目だけでお腹いっぱいになるのはなぜでしょうか?
きっと根っからの庶民だからですね。
ティータイムを楽しむ兄達を眺めながら、兄達のイケメンぷりに溜め息です。
妹が残念な干物女で申し訳ない。
本当に残念です自分が。
やってきたしたファンタジー小説では鉄板な魔法の練習!
適性はあるか別にして、魔法がじっくり見られるのは嬉しいです。
ティーノお兄様に案内されたのは、広い庭のような場所でした。
そこにいたのは、長く薄い黄緑色の髪にちょっととがった耳の綺麗な人が無表情で佇んでいます。
確かに中性的な顔立ちは、麗人の言葉がピッタリ。
並んで話ていたのは、キースさんとカイルさん。
慣れたはずなのに、一人増えると眩しさは倍ガケになるんですね。
背景に花が見える錯覚を覚えます。
「おはようござい」
「体調は?魔力の放出力が多いな…しかし、この魔力に魔力量、属性も……」
私の挨拶をぶった切ったのは、麗しいハイエルフ様です。
真顔で何か呟いてますが、小さな声で聞こえません。
ど、どうしたら良いのでしょうか?
固まる私の肩をポンッと叩いたのは、苦笑したキースさんでした。
朝の挨拶をされて、慌てて私は頭を下げて挨拶をしました。
「長は魔法の事になると、周りが見えなくなるんだよな~ルナは特別だしな」
「こうなるのを予想して、私達が一緒にいるんですけどね」
「えぇ。長はきっとルナに興味を持つと思ってたんですよ」
「えーと、え??」
誰か説明プリーズ。
納得顔の三人に、私は意味も分からず困惑です。
情けない顔をしているだろう私に気が付いたのは、一人で呟いていたハイエルフ様。
「スフィン」
無表情の一言に、何の事か思考を巡らせて気がつきました。
頭を下げて閃いた言葉を口にします。
「ルナです。これからよろしくお願いします」
頷くのを見て一安心。
間違ってたら間抜けにしか聞こえない言葉ですから。
スフィンさんは無表情で言葉も少ないですが、怖いとかそんな事は感じない、むしろ安心感を得られる不思議な人です。
「魔法の練習をする」
「はい、頑張ります!」
ティーノお兄様達が見守る中、私の勉強の第一歩です。
気合いを入れて挑んだものの、結果は惨敗の一言。
詠唱しても魔法は発動されず不発。
何度トライしても、ダメで数時間ですが挫けそうです。
皆さんの意見をまとめた結果は
「ルナはこちらの世界に馴染みがないから、詠唱に囚われてイメージが噛み合ってないのかもしれませんね」
「うむ、魔法はイメージが大切。詠唱に囚われずにもう一度」
カイルさんとスフィンさんを信じて、十数年間のオタクな知識を駆使します。
水をギュッと圧縮して、水の球体をイメージします。
小説やゲームの中でいう『ウォーターボール』です。
頭の中で唱えると、ふわっと浮いている大人一人入れる水の玉が現れました。
やった!初の成功です!
「「「「えっ?!」」」」
喜んでいた私に届いたのは、お褒めの言葉ではなく四人の驚いた表情と声でした。
あれ?大きさがダメでしたか?
あ、小さくすれば良いのか。
それならと、大きな水の玉を三つに分けてギュッーと縮めます。
イメージは、土から土団子を作るように圧縮していきます。
大人一人分だった大きさが、三個とも半分になります。
「お、おい!」
慌てたキースさんの声に首を傾げていると、パンッと小さな音で圧縮した水の玉が消えます。
「庭を全壊させるつもりか。無詠唱も重複魔法も知られては危険」
「重複魔法?無詠唱?でも、スフィンさんも無詠唱ですよね?」
むむむと眉を寄せた私に、ティーノお兄様とカイルさんが説明してくれました。
無詠唱が出来るのは、現在スフィンさんを含む二人だけ。
重複魔法にいたってはスフィンさんだけ。
それだけなら、ハハハ…ですんだのかもしれません。
私を更に驚かせたのは、私が六属性持ちだというチートな設定。
「六属性持ちはいなかった。五属性は現神子がいる」
「ルナは光・闇・水・火・風・土の稀にみる属性の持ち主で、魔力も長や現神子様以上だと考えられるな」
スフィンさんとキースさんの補足に、軽く目眩を覚えました。
そんなチート設定断じていらないです!
着々と死亡フラグが近づいている気がします。
神様、何を考えているのですか?!
頭を抱える私に、スフィンさんは方針を切り替えると言いました。
「実践練習の前に、魔力数値の確認と座学からにする」
「数値確認、ですか?」
「今のままでは危険。自身で力を理解しないとダメだ。魔法は簡単に人を殺せてしまうから」
「…はい。ごめんなさい」
スフィンさんの言葉は、私の浮き足だっていた私の背筋を冷たくしました。
反省しなくてはなりません。
小説やゲームにしかなかった魔法に、浮かれて大切な事を考えてませんでした。
ここでは、魔法と剣の世界で死は当たり前にあります。それが抜け落ちてました。
俯いた私の頭が、急に左右にクラクラ揺れます。
「ルナは悪くない。俺が最初に言うべきだった。だから、悪くない」
頭上にある手はスフィンさんのでした。
左右に揺れたのは、撫でてくれたみたいです。
ちょっと力加減は間違えていますが、優しい手。
顔を上げると、無表情なはずなのに瞳の中は感情が不安そうに揺れてます。
やっぱり、スフィンさんは優しい人ですね。
「ありがとうございます。でも、私がもう少し考えてれば…でも、大丈夫です。同じ事は繰り返しません」
「うん、ルナなら大丈夫。もし、何かあっても俺が守る」
「はい。私も自分の事ですかちゃんと頑張りたいです」
私が笑えばスフィンさんは、安心したように目を細めます。
おぉ、少しの変化でこの威力は…すごいですハイエルフ様。
恐るべき顔面偏差値の高さ。
キースさん達と違う麗しさが、だだ漏れです。
私が見とれていると、スフィンさんは私の手を繋ぎ歩き出しました。
「えーと、どこへ?」
「執務室。結界も張ってあるし安全」
「スフィンさんの執務室ですか?」
「そう、俺の執務室は許された者しか入れない。貴重な資料が多いから」
「私がお邪魔しても丈夫なんでしょうか?」
「ルナなら大丈夫。悪いことはしないから」
そのまま部屋に着くまで、手は繋がれたまま連れて行かれました。
兄達はというと、黙って成行を見て驚いた顔をした後に、慌てて追って来てくれました。
何をそんなに驚いたのか…私は全く分かりませんでした。
石畳の廊下を歩いて数分でたどり着いたのは、飾りの少ない黒の扉でした。
扉をくぐった部屋は、壁に本がびっしりの簡素な部屋。
大きな机に積み上げられた本と紙。
インクの香りが漂っています。
その手前には、黒の質素な応接用だろうテーブルとソファー。
「座って待ってて」
「はい、分かりました」
案内されるままに、ソファーに座っると兄達も慣れたように腰を下ろします。
「スフィン殿、ルナに測定魔道具を使うのか?」
「あぁ。測りきれるかは分からない」
「分からない、とは?」
宝石箱のような物に入っていたのは、占い師が使うような大きさの透明な玉が紅い布の上にあります。
宝石のようにキラキラ輝いて綺麗です。
キースさんの言葉から察すると、これが魔力の測定する魔道具って事ですね。
「この石に手を置いて、体に魔力を巡らせるようにする」
「魔力を巡らせる?」
「えぇ、例えるなら体に血が巡っているような感じです。体全体に馴染ませるとも言いますね。僕たちの練習も最初はそれでした」
「数値だけでなく、属性の分からない人もこれの光の色で分かるんですよ。私やキースもコレのお世話になりましたし」
「あれ?私の場合は……?」
「長は精霊視力の持ち主で、精霊術士でもあるんです。だからルナの周りにいる精霊を見て分かったと思います。私は感知しか出来ませんけど…」
スフィンさんの説明に、ティーノお兄様とカイルさんが補足を入れます。
精霊は置いておいて、私は目をつぶって体の中にある魔力を探します。
体に温かいモノを感じて、それを体全体に馴染ませるように巡らせる。
私の周りに粉雪のような粒が、吸いよされるように集まりました。
手をそっと、綺麗な玉に伸ばします。
一瞬キラッと光ったかと思うと、大きな光が辺りを包み込みました。
「「「「…………。」」」」
「えーっ!?」
そして、目にしたのは……綺麗な球体ではなく光る粉の粒の山。
玉が粉で粉が玉?
なぞなぞではありません。球体が粉になってしまいました。
考え込む寸前、小さな影がチラチラ現れます。
『やっとみてくれた~』
『こまってるの~?』
「…まぁ、そうですね。綺麗な球体が粉になってしまって…」
『うーん、と。こなをギューてかためてみる~?』
『そうそう。ひかりとやみでつつんで、ギューってして』
『みずとかぜでみがくの~』
『つちとひで、つよくするの!』
昨日ぶりのナビは、羽根を持った可愛い小人さん…精霊ですね。
色とりどりの服と髪のナビ達の言葉を聞いて、少し考えて魔力を抑えるのを意識しながら、言われた通りに山の粉に魔法を行使します。
イメージするのは、占い師の水晶と魔力を六段階で識別する機能。
属性は色で、その濃淡で魔力を六段階に識別。
機能の識別のイメージは、サーモグラフィー。ただ詳しく知らないので、そんな感じぐらいの適当具合。
そこは神ならぬ、精霊頼みです。
魔力で包むように意識します。ふわふわの粉雪が集り、玉の粉と混ざり合います。
「なっ!?」
「…これは」
「「えっ!?」」
混ざりあった粉は、一回り小さな球体になって紅い布の上に収まりました。
手で触れてみると、強烈な六色が代わる代わる部屋の色を変えます。
出来映えは上々で一安心です。
ですが謝罪は必要です。抑えたにしろ勝手に魔法を使ってしまいました。
私は座ったまま深々と頭を下げます。
ふっと、真横に気配を感じます。
「本当にごめんなさい!」
「うん、大丈夫。ルナはちゃんと魔力のコントロール出来てた。魔道具も前以上のモノになったし…精霊達も喜んでる」
「驚きました。魔道具を直した事もですが…精霊も見えて会話も出来るのですね?」
「…多分。カイルさん達に出逢うちょっと前から」
よしよしと、スフィンさんに頭をを撫でられながら、カイルさんの質問に私は頷きます。
精霊というよりお役立ちナビに見えるのは秘密です。
「実に羨ましい…!俺は見たいのに感知すら出来ないのに」
「えっ、そうなんですか??」
「僕もです。何となくもしかしたら?ぐらいですから。現在精霊視力の持ち主は極わずかですからね」
キースさんが眉を寄せると、ティーノお兄様も笑いながら頷きます。
そんなキースさんの周りには、金色の髪の小さな子達が集まっていて、ティーノお兄様の周りは、水色の髪の子と茶色の髪の子が肩やら頭に乗っかっています。
微笑ましい光景のはずなのに、砂糖に群がる蟻…いえ、精霊ですけどね!
慣れたらこの微妙な心境は、消えてくれるのでしょうか?
「…あの、スフィンさんは見えてますよね?」
「あぁ、ワラワラとキース殿下やティーノに集まっているヤツか?」
「なに?!集まっているのか?」
「何時も連れているだろ」
「見えてないんだよ!……死ぬ前に一度は見たい!」
何を今更とばかりのスフィンさんに、キースさんは真剣に残念がってます。
色気垂れ流しですが、キースさんがちょっと可愛く見えました。
身体は子供ですが、中身は三十路の私に分けてほしい素直さです。
まぁ、十代の頃も可愛いさは皆無でしたけどね。どちらかと言えば、男前と貶されているのか、誉められているのか分からない評価でした。
つらつら思考に浸って拗ねていると、スフィンさんは対面に座って口を開きます。
「魔力の巡回・コントロールは出来ているから…一般的に使われてる魔法と禁忌魔術について勉強する」
「はい、お願いします」
無表情のスフィンさんですが、目が真剣なのが分かります。
私は姿勢を正して背筋を伸ばします。
「では、まずは魔術士や魔導士がしてはいけない事から」
私が頷くとスフィンは、古の禁忌魔術などを教えてくれました。
サクッとまとめるなら、人は生き返らせる事、魔石を人体に埋めるなどの人体実験は禁忌とされている。
昔、はぐれの魔導師が自身の魔力を増幅させるために、研究や実験し多くの犠牲が出たために、禁忌魔術と言われるようになり禁止となったらしい。
被害者は罪人、それが足りなくなると孤児や獣人など拐い使ったとか。
だから魔導局は、魔力は種族問わずに困った者を助けるためにある力でり、無闇に命を奪ってはならない。
規律を破ると即極刑コース。
聞いてみと当たり前の事過ぎて、感想としては『そうでしょーね!』としか思えません。
そんなくだらない理由で、尊い命を奪うなんて愚かの一言につきます。
命は両親から初めてもらうプレゼントです。だからくだらない理由で奪うなんて、許されないし許せないです。
私は大嫌いです。命は誰しも等しく輝く宝物なのに。
ついつい眉を寄せてしまいます。
間違いなく不機嫌な顔をしていますね。
「今は陛下や宰相様がしっかり監視しているので、表だって研究などを口にする馬鹿はいないですよ」
「まぁー、マシにはなったけどな。ただゼロには出来ないのが悔しいよな」
「これからですよ。僕等が諦めなければ変わりますよ」
「変わります、じゃダメです。変えなきゃ…命をなんだと思ってるかね。種族も身分も関係なく、命は等しい価値に違いはありません」
私は無意識に宣言します。
周りが息を呑むのを無視して、私は思考のふちに落ちます。
綺麗事なのは分かってますよ。
身分とかで重要性が変わってくるのも。
でも思い出したのは、昨日の昼間にティータイムに聞いた話です。
ドラゴンやエルフなどの他種族の神子は、世界を維持させる存在。
そして、数百年事に現れる人族の神子は発展させる存在。
私は人族の精霊王の神子です。
昨日はイマイチ分からずに耳から流れて行きましたが、今少しだけ何を求められているのかがぼんやりとした形を見せてます。
この王国は世界の中心部の位置あり、右には人族以外のドラゴン族と獣人族の国。左にの山はエルフが、魔族は独自の結界を張り、無闇に命を襲わない事を条件にインフェリアの国とも協定結んでるとか。
どの種族にしろ、共存を選ぶ。数千年前の紛争は多くのモノを奪い、どの種族も絶滅寸前
そんな時、インフェリアの女王宣言した。
『私の国が平和の架け橋になり、皆に安穏な世界に導こう』と。
目蓋を閉じて、そのぼんやりとした形を追います。
発展とは何か?過去は変えられません。では、これからの未来は?
不意に日本で過ごした日々が浮かびます。
犯罪はあるものの、毎日を友達と笑い合う日常。
ケンカしたり笑ったり泣いたり怒ったり。心配したりされたり。
バカな事をして呆れられたり。
理不尽な事も多々ありますが、それは死には簡単に直結するモノは少なかったし、容易く他人に奪われるモノでもなかった日本での生活。
それは、そんなに特別な事なのでしょうな?
答えは否です。綺麗事だとか理想論だと言われようが、私の答えは変わりません。
大切な人の灯火が簡単に奪われてしまう世界なんて、あってたまりますか。
理想だて綺麗事だって、貫き通せば少しでも爪痕を残せるはずです。いえ、残してやりますよ。三十路の底力舐めるな、です。
初めてリアルにこの世界で生きる意思が持てた気がします。
目を開いてスフィンさんを見ます。
「スフィンさん、私は強くなりたい、強くなくてはならない。守られるのではなく守れる人になりたいし、なります」
後半は自分自身に言い聞かせます。
まだノープランですが。
でも足掻いてもがいてみせますよ。
私が産まれた意味も、大人になった三十歳で帰還した意味も…きっとこのためだったのかもしれません。
逆境に負けない図太さと根性、対人関係の処世術。どれも、日本で身につけたものです。
そう思うと、ストンッと心のパーツが揃った様に心が凪いでいきます。
なんだか嬉しくて、知らず知らず微笑みを浮かべました。