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No.5 テンプレお嬢様の来訪

王様の執務室を後にした私達は、キースさんの案内で、これから暮らす部屋に案内されたした。

ティーノさんとジルさんも一緒です。

父は同行しようとして、王様に仕事があると止められて拗ねていました。


室内はシンプルでありながら、統一感のある木目調の家具類が納められた上品な室内でした。


「必要な物があれば、随時用意しますから」


「いえいえ。私には過ぎた部屋です!」


「地味です。もう少し室内を女の子らしくしましょう」


「スミレ色を入れたら可愛いルナに合うと思う」


ティーノさんとジルさんは、言うやいなやティーノさんが行動します。

何か呟くと小さな光が至るところに表れては、消えていきます。

消えた後にびっくりですよ。

シンプルだった室内に、可愛らしいカーテンや猫足のテーブルと椅子。

棚は白くなりクマの人形が鎮座しています。

クッションなどはレーツ付き。

白とスミレ色の乙女部屋の完成です。


「では、私からはコレで」


カイルさんが何か唱えると、小さな光が集まって光が霧散すると綺麗な花瓶と色とりどりの花たち。

花瓶に飾られた花が可愛いです。

私はというと、乙女部屋と魔法のどちらに反応するのが正解なんですかね?

正確には、人形遊びより鬼ごっこ、恋ばなより本やゲームの干物な私に、普通の女の子の反応がイマイチ分かりません。


「あ、ありがとうございます?」


「どういたしまして。喜んで頂けて良かったです」


お礼を言いながらあたふたしているちに、満足そうに微笑んだカイルさんはティーカップを傾けながら話します。

ティーノさんも笑顔で頷きます。

美形は絵になりますね。

今更ですが背景に薔薇や百合の花が見えるのは、十数年間読み漁ったマンガや小説の影響でしょうか。

干物女ですが二次元のイケメンと美人が大好きです。

あ、異世界クオリティーか。

段々色々な事に慣れてきつつある自分が悲しいです。

私の常識は何処へ行ったのでしょうか?


「それでこれからの事ですが」


言い終わる前に、ドンッとけたたましい音と共に強い香水の女性が入ってした。

この世界にノックはないのでしょうか?

強い香水を漂わせて微笑む女性。


「皆様、ごきげんよう。お茶会でしたら、この公爵家長女・チェルシーがご招待いたしましたのに!」


デコルテの開いた深紅のドレスの女性は、お嬢様みたいです。

香水と化粧の混ざった匂いが臭かろうと、肉食系であろうと服装と態度からしてお嬢様ですね。

残念ながら悪役系のだけれど。

キースさんやティーノさん達を見ると、重い空気が流れてきます。

氷河期到来です。

彼女が王様の言っていた、狩人だと見て間違いないようですね。

獲物はもちろん、この部屋にいる私以外の面々。


「もちろん、スノーヴァ様達もアイスロン様もご招待いたしますわ!是非、今からでも!」


「遠慮する。そもそも、ここは王族の住まう場所。ルナは父上の従兄弟だから当然として、なぜお前がここにいる」


ご機嫌のお嬢様とは対照的に、キースさんの声は剣を帯びています。

初めて聞くキースさんの不機嫌な声です。


「では、なぜこの薄汚いネズミが入り込んでいますの?このネズミは幼少期に家が嫌で飛び出して、挙げ句に遊び飽きてのこのこ帰ってきたと、ネズミ以下ですわね!」


キッと私を睨み付けます。

どうやらロックオンされたみたいです。

私も真顔でお嬢様を見返します。

睨まれた程度で怯えたりする程可愛い性格なんてしていません。むしろ、やり場のない怒りが沸いてきます。

またです。あの冷たい何かに引きづられそうなのを、グッと拳を握って耐えます。

この不快感はなんでしょうか。

耐えていると肩に優しい温度を感じました。


「ちょっとゴミを片付けたいので、ここは僕達に任せて安全な場所に避難して下さいね」


爽やかな笑顔のティーノさんは、私を抱っこするとキースさんとカイルさんの間に座らさせました。

ジルさんはいつの間にか、お嬢様の目の前で絶対零度の視線です。

ティーノさんも後に続いて、笑顔のままお嬢様に向き合ってます。


「誰がネズミだと?俺達のお姫様をお前にどうこう言われる筋合いはない。悪いのは目か頭か耳か?」


「そうですね。馬鹿な噂話を真に受けて。この子の事を何も知らないのに騒がれては…耳障りですので、その口を縫ってさしあげましょうか?それとも、役に立たない耳を切ってしまいましょうか?」


「面倒だから首と胴体切り離すか?」


「ダメですよジル。ルナの部屋が汚れてしまいます。やるなら別の場所でしなくては」


クスッと笑うティーノさんも、視線だけで人を殺してしまいそうなジルさんの雰囲気に、ドン引きです。

麗しい人は怒らせてはいけません。

いえ、心配性気味な兄達をでしょうか。

本気で怖いです。

空気が冷たくなって体を小さくすると、大きな手に肩を抱かれてしまいました。


「二人ならあの程度の相手に、遅れはとらないから平気だ」


「えぇ。本当に目障りなゴミですから。消えてしまえばいいのに」


いつもより色気垂れ流しのキースさんと、手を撫でながらキラキラ笑顔のカイルさん。

こちらも激怒している模様です。

色気と笑顔の比率は、怒るとグンッと上がるみたいです。

このスキンシップ過多の状態も…何気にお嬢様を煽っている気がします。

顔を見て確信犯なのは分かりました。

体を冷たくする何かが消えた代わりに、背中に冷や汗が流れています。


「ティーノ、ジル。掃除を終えたら空気の入れ換えも頼む。鼻が麻痺する」


「馬鹿ですね。私の時といい、今回はティーノとジルの爆弾を自ら踏むなんて…頭は飾りなんですかね」


「馬鹿なんだろうな~」


「馬鹿ですね。攻撃魔法を撃ちつけられても文句は言えませんよ」


頭上で交わされる会話を聞いていたのか、お嬢様の形相は大変な事になっています。

顔は赤くなって目は完璧怒りに染まっていますね。

この場にいる面々より劣るにしても、一応美人枠に入れそうなのに残念です。


「皆様は騙されているのですわ!」


「黙れ。スノーヴァ家の者として命令ずる。失せろ」


「二度とこの部屋、及びこの住居一帯に汚い足で踏み入らないで下さい。もし踏み入れば…家ごと消え失せて頂きますから」


顎でドアを示すジルさんと、笑顔で威圧するティーノさん。

戦慄いていたお嬢様は、意外に切り替えが早いらしくやはり私を睨みつけます。

視線だけでミンチ肉になれそうです。


「今に貴女の化けの皮を剥いでさしあげますわ!私から奪うなんて絶対に許さないですわ!」


言葉を捨て台詞に部屋を出ていきました。

奪うもなにも、そもそも皆さんは嫌がってましたよ?

思い込みが激しいのは、恋する乙女の特権にしても…色々と拗らせてる感がスゴいです。

あれに追いかけ回されていては、精神的にお疲れでしょう。


「あの、えーと…お疲れ様です?」


ご迷惑を掛ける身としては、少しでも何か出来たら良いのですが。

非常に疲労を感じさせる皆さんに、同情を禁じ得ません。

私なら森に引きこもると思います。


その後は、お茶会を再開してゆっくりこちらの世界の話を聞きました。

聞いたはいいものの変なフラグが乱建ちしそうで、ドキドキしたのは小心者故です。

その反面に私の帰還を嬉しそうな皆さんを見て、ちょっとだけ嬉しかったのは秘密です。

私が帰還した後に日本で私がどうなったのか…聞いてみても返ってきた言葉は曖昧でイマイチ分かりませんでした。

帰れないにしろ、友達や同僚に何も伝えられなかったのは申し訳ないです。

謝罪する皆さんに、私は気にしないで下さいと言って、一旦モヤモヤした疑問に蓋をする事にしました。


夕食は王様と父が合流して、和やかに時間は過ぎていきました。

そこで私は王様と父に、一つのお願いをしました。

歴史やマナー。常識などの座学の講師と、魔法の講師をお願いしました。


「信頼のおける最高の教師を用意するから、安心して待っててくれるか?」


「はい、王様ありがとうございます!」


王様は早々に手配すると、快諾してくださいました。

私は頷いてお礼を言います。

分からない事を少しずつ潰していかなければなりません。

これから生活するために必要ですから。

無知は良いこともありますが、諸刃の剣になる事の方が断然多いのです。

魔法は知識として知っておいた方が、無難かなぐらいですが。

勉強は嫌いではないし、活字中毒の私に字が読めないのは由々しき事態です。

そのためにも、頑張りたいと思います。


食事会が終わると、お酒を楽しむ王様と父を残して自室へ向かいます。

父の突き刺さる視線は、無視する事にします。

お風呂に入って寝室に入ると、ティーノさんとジルさんが簡素な軽装で待っていました。


「眠るまで一緒にいても良いですか?」


「少し話をしたら帰るから…」


「ティーノさんもジルさんも、私なら一人で大丈夫ですよ?」


「ティーノお兄様、ですよ?」


「ジル兄様でも良いぞ?」


「いえ、慣れないと言いますか…えーと、今更な気が…」


幻覚なのかお二人に耳と尻尾がシュンと垂れている気がして、NOとは言えなくなりました。

本気で居たたまれないです。

美形は得ですね。


「………ティーノお兄様とジルお兄様、でいいですか?」


白百合が咲き誇らんばかりの笑顔に、多少の恥ずかしさは呑み込みました。

お城に来てからキースさんやカイルさを交えて話をしているうちに、二人とも自然と話せる様になってきました。

キースさんとカイルさんに感謝です。

ベットに入った後に少し話をして、眠気に耐えられなくなった私はそのまま夢の住人になりました。

夢に落ちる寸前、両頬に温かい体温を感じて自然と頬が緩みました。



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