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No.3 救世主は少女~第二王子の側近の溜め息

【カイルside】


屋敷に着いて直ぐ、私は彼女とキース達を広間に残して自室に急いだ。

大公の宰相様に連絡を取るために。


街で妹を助けてた人物を見て驚いた。

年頃の女の子だとは思えない、舞うような動きに的確な攻撃。

身にまとう綺麗な魔力は、溢れ出て放出し動きと一緒にキラキラ輝いていた。

細い体に白い肌。ピンク色の頬、チェリーピンク色の唇。大きな瞳は澄んだアメジスト。長い髪と睫毛は淡い白銀色。

透明感のある彼女の姿に、キースと一緒に一瞬言葉を忘れて見いってしまった程。


この王国で銀色をまとい紫の宝石を持つのは…大公の宰相様であるスノーヴァ家の人間だけなのを思い出す。

スノーヴァ様は、前王の弟王で先祖の精霊の血が濃く出たと言われている。

途方もなく長生きする精霊の血は、今だに宰相様の年齢を不明にさせていた。

初代の女王様が、白銀色とアメジストの紫を持つ高位精霊で神子様だった事は有名な話。

彼女はまさに高位精霊と言われても、違和感がないくらい可憐な女の子だった。


手紙を書きながら、数日前に出来すぎて不器用な友人が上機嫌だった事を思い出す。


『やっと妹の帰還命令がでたんです。…僕達の事は忘れてしまっているんですが…でも、一緒に暮らせるのは嬉しいです』


女性がいたら即倒しそうな笑顔を浮かべて、後半は初めて見る切なさを滲ませていた表情を見せた。

ティーノの素直な邪気や企みのない表情を見たのは、出逢ってから十二年で初めての事で驚いた。

正直、誰だよお前!と、口から出かけたのを飲み込んだの記憶に新しい。


「…にしても、ティーノとジルはあの精霊さんに何をしたんでしょうね…」


馬車での会話を思い出して溜め息をつく。

ユーリとリリーの弾丸トーク中。 

自己紹介を終えた合間に、ユーリの核心をつく質問に彼女は困って言葉を探すような反応をした。


『ルナの家はどこ~?もしかして、森の向こう側の屋敷の大公の令嬢とか?!』


『じゃー、ジルお兄様とティーノお兄様ときょうだいなの~?』


『…………強制連行されて、あげく驚きと混乱とギャップとその他色々堪えられなかったチキンな一般人?……だと思います』


『その顔で一般人って言ったら、即座に暗殺依頼するヤツ殺到しそうだし…うん、私の気に入ったルナに手を出したヤツは潰そうな!』


『おっ、ユーリは魔術出来るから安心だな!で、もしもの時は、さっきみたいに手加減しないで殺り返せ!じゃなきゃ、家族や周りに頼れよ』


『わたしも、おてつだいするよ!』


『……ハハハ、自力デ頑張リマス!』


『ご親切にお気遣いありがとうございます。全力で回避しますね』


ルナはユーリとキースの言葉に、引きった笑顔で言いながらも最後は頭を下げて微笑んでいた。

ルナは年齢より思考は驚くほど大人で礼儀正しく謙虚。 

でも嘘は言えないお人好しで、甘えるのが下手なのは…育った環境か性格だからか?


「両方、ですかね?…聞いてはいましたが切ないですね…」


まだユーリと変わらない年齢で、生まれながらに苦労を背負わざる負えなかった女の子。

神に愛される子とは、世界に愛される事……故に人に愛され、過ぎた感情で人に疎まれ時に殺意に変わる。

本人の預かり知らない所で。


「情愛と憎悪は紙一重、なんて誰が言い始めたのやら…」


もし兄妹が神子に選ばれてしまったら、運命を嘆き悲しむだろう。

大き過ぎる愛や力より、大切な一人の小さな愛で人は幸せになれるのだから。


書いた手紙を魔方陣に乗せて発動させる。

手紙が送られた事を確認して、小さく息をつくとノックなしに人が入ってくる。

この行動をするのは、キースか従姉妹のユーリのどちらかしかいない。


「どうした?お前が愁い顔なんて珍しいな…明日は嵐か雪か?」


「失礼ですね?私だって他人を心配して、愁い顔の一つや二つしますよ」


私が嫌な顔をすると、キースは吹き出して笑い出す。


「またまた!お前の中では、家族・友人・その他のカテゴリーしかない狭いヤツだろ?」


「何を言いたいのですか?」


体を折って笑うキースに、図星すぎて若干イラッとして睨みます。

公爵家の次男で魔力が強かった私は、キースやティーノ、ジルと出逢うまで人間を嫌悪していた。

感情や野望を隠して、媚びへつらう人間にうんざりしていたから。

今考えても、可愛くない偏屈な五歳児だと思う。

キース達に出逢ってから、良くも悪くも目まぐるしく世界が変わった。

勉強が嫌で逃げたキースを捜し、時には巻き込まれて街へお忍びに付き合わされる。

誘拐された事や暗殺未遂は日常茶飯。

王子でいながら人を疑わず自由なキースは、能天気に何時も笑っていた。

振り回される度に、心が動き絆された気すらする。

私が変わる切っ掛をくれた人物で、口では言わないが感謝している。

今では信頼できる親友であり大切な主だ。


「貴方だって、年下でか弱い女の子を心配になるでしょ?ルナはまだ十三才で親の庇護にいる年齢ですよ?」


「うーん、不安定に見えて心配にはるな。………あっ、出逢った時のお前に似てるんだ!」


「…はぁ?!」


キースの発言に驚いたのは言うまでもない。

人を嫌悪して一線を引き斜めに見ていた私と、自らの危険も厭わずに他人を助けるルナ。 

似てるどころか対極と言っても大袈裟ではない。

相変わらず思考が飛んでるキースの発言に、疑問しか浮かばない。


「何となくだが、人と距離を取るとか…頼るのを良しとしないで自分で頑張ろうとする所とか?その癖人を助けるちゃうとか…変な所で不器用なんだろうな」


指折り数えて肩を竦めるキース。

本能的に人を見抜いくキースだから、間違いないのだろう、が。

考えれば考えるほどに、一人で頑張ろうとするルナを放置出来なくなってくる。


「…放っておけませんね…」


「もちろん。ルナとは長い付き合いになる予感がするし、放っといたら無自覚で危険に飛び込みそうだしな~?」


「そうですね…。キースが言うならそうなんでしょうね…」


「間違いないと思う。なんでか分かんらないが、放っておいてはダメな気がするんだよな~」


不思議だと言いながら、嬉しそうに破顔するキースに私は苦笑する。

キースの予感は百発百中で、外れたためしがない。

結果として、私達の縁は長く続くということだ。

一年前から周囲が騒がしくなってる私達との縁が、ルナにとって良いのか悪いのか……。

どちらにしても、出逢ってしまった事は変えられないなら、不器用で優しいルナを持ちうる力で助けてあげたい。

自分らしくないが、それが一番しっくりくる答えだった。



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