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No.2記憶から末梢して下さいませ!


小さな声にナビされて、小さな森を抜けてたどり着いたのは街中みたいです。


風景は一言でいえばファンタジーの世界。

秘っそりと出てくる時に見た家も、無駄に広くて家と言うより…小さなお城みたいでした。

レンガの様な建物に石畳の道。

街の人々は昔の中世ヨーロッパのような服装で、色とりどりの髪の色や姿。

猫耳・うさ耳や鎧に剣を腰に下げた人。


「うわぁ……」


驚きながらも、私の服装は編み上げブーツに淡い紫色と白のエプロンドレス。

自分の所有物の肩掛けポーチ。

赤ずきんのような服装な私も、周囲と違和感なしです。

心はガッツリ違和感ありまくりですが。

紫ずきんになってるのは、決して私の意見ではありません。


『かみ、めだつとたいへんよ~?』


『かくして~かくして?』


ナビ(小さな声)の助言に従って、クローゼットを探した結果が、隠せるのがコレしかなくて…私の好みでも趣味でもありません。

『見た目は子供、頭脳は大人~』の、某・名探偵よりキツい状態なのは理解してますよ。

あの部屋のクローゼットに、列べられてたドレスを見た時も軽く目眩でしたが。

自分の姿ふくめて慣れない事続きに、溜め息しか出ません。


「さて…どうしよ」


『おんなのこがいじめられてる!わるいやつ、たつまきでとばす??』  


「それだと、悪い人以外も吹き飛す危険ないかな?」


『たすけちゃう?もやしちゃう??』


「生きてる人間は燃やしちゃダメです!」


『じゃ、こおらせてこわしちゃう??』


「壊す前提で氷らせるのもダメだから!」


『まっくらなばしょに、とじこめちゃう?』


「閉じ込めるにしても、真っ暗な場所によるよね?」


どうしようかと立ち止まっていると、ナビが物騒な事を言っています。

物騒な発言者が増えた事は、気にしないでおきます。

案外、順応性が高い自分に呆れます。


『でもでも、おんなのこのままなら~』


『いたくてないちゃう、かも?』


『こわくてないちゃうかも?』


『ちが、どばーっでしんじゃうよ?』


『つれていかれて、しんじゃうかも?』


「ちょっ、それ最初に言って!どこにいますか?!」


私が慌てると、ナビ達が『あのほそいろじー!』と声を揃える。

チラッと、小さなキラキラした羽根のある子が見えた気がしましたが…追求は後です。

考えるよりさきに、全力で駆け出します。

頭では"明らかに面倒事だ"と分かってても、小さな女の子が危険だと知って放置する人でなしにはなりたくありません。

厄介な性格は、姿が変わっても健在らしいです。

ちょっとだけ笑っちゃいました。


路地に入ると小さな女の子を、不衛生極まりない大人三人が囲んでいました。

さながら、子ウサギを囲む汚い野良犬です。


「殺っちまうのには惜しい上玉だな」


「だな。五、六年後だったら楽しめたのにな~」


「ひゃはー、兄貴はホントチビが好きだな…俺は若くてもツルペタは勘弁だぜ」


前言撤回します。

不衛生な野良犬から変態のゲスに降格です。

視線も言葉もゲスくて、鳥肌と虫酸が走ります。 


「変態さん達、汚い口を閉じて下さい。不愉快です」


「分かる!汚いのはツラと根性・性癖だけで勘弁しろよ、幼児性愛者。なぁ?」


突然横に現れたのは、フワフワのストロベリーブロンドの髪の柔らかなドレスを着た美人さんです。  

目が好奇心の強い猫みたいで可愛らしさが見えます…言葉を聞かなきゃ、ですが。


「おっ、美人のお姉さんが遊んでくれるらしいぞー?」


「二人とも綺麗な顔してんじゃねーか♪俺は可愛いズキンちゃんと遊びてー!」


「じゃ、俺はこっちの美人さんに相手してもらうか~!」


下卑た笑いかたをする三人に、今までのストレスをぶつけても良いですよね?

ゴミはゴミ箱へが基本です。

時代はエコだろうと、知ったことじゃありませんよ。

そう思って横を確認すると、美人さんがニヤッと怪しい笑みを浮かべます。

美人さんは、何をしても似合いますね。

美人なお姉さんは大好きです。

現在は十三歳なのでお姉さんでいいですよね?


「よし、決まり!遠慮なくサクッと殺っていいみたいだぞ?」


「みたいですね。遠慮なんて必要ありませんし、生理的に無理です」


「いいねー♪じゃ、そっち頼むな親友ー!」


「そちらも気を付けて下さい」


上機嫌な美人さんは、宣言通りに相手に向かって走り出しました。

私も言葉通りに、発散すべく行動します。

中段で構えてみぞおちへ。

痛みに沈んだ時、顎を蹴りあげてその勢いで回し蹴り。

外見で侮ると痛い目にあいますよ?

私の基本は、道場に通う友達に教えてもらって、ほぼ実戦で鍛えられました。

絡まれ慣れた実績は伊達じゃないです。

地面に倒れたのを見てひと安心。


「わー!お姉様はユーリちゃんと同じくらい強いのね~!」


振り変えると、赤毛がフワフワの女の子がニコニコ笑顔で立っていました。

ピンクのフリルドレスが似合う愛らしい子。

ささくれ立った心が癒されます。

可愛いは正義です!


「痛い所とかない?ケガとか大丈夫?」


「うん!お姉様がきてくれたから!あーっ!!」


笑顔が固まるのと同時に背後に気配を感じて反射的に避けると、右腕がチリッと熱くなって舌打ちします。


「クククッ、相手は残ってるん」


「そこで何してるんだッ!」


路地の入り口からの怒鳴り声に、今度は変態のゲスが舌打ちをして起きてた一人が逃げ出しました。

沈んでる二人を残して。

やっぱり、ゲスはゲスらしい行動しかしないようです。

何気に感心していると、駆け寄ってきた二人組は誰かに指示しています。


「縛って牢に入れておくように。手が空き次第、私が直々にゆっくりお話しを聞きますから。クスッ、楽しみですね?」


「カイルの宝物に手出すなんて本物のバカだな~?あ、自害しないように持ち物確認及び、監視よろしくな」


またしても、異世界クォリティーですよ。

穏やかな口調で小さな笑いを浮かべてる人は、肩より少し長い赤毛に赤みが強い暁色の瞳。縁なし眼鏡と整った目鼻立ちは、理知的に見えます。

背景が真っ黒に見えたのは、見間違いないですよね?


肩を竦めている人は、淡い綺麗な金髪に空のような青の瞳が印象的で、華やかな顔立ちに自信と男の色気を漂わせてます。

腰に剣を下げていて、騎士様だったら女子は黄色い悲鳴を挙げそうです。

私は、顔がひきつるくらいドン引きですが。

異世界クォリティーに着いていけません。

これがデフォルトなら、奥深い森に引きこもります。


「ん?」


「へっ?」


金髪の方と目があってしまいました。

ドン引きしてるのがバレたのかと思って、間抜けな声しか出ません。


「…君は……」


「ユーリちゃん・お兄様・オージ、お姉様がケガしちゃいました!」


「ホントだ。もう少しシメとけば良かった!親友、大丈夫か?」


「ハハハ……ダイジョウブ、デス」


片言になったのは、優しさでスルーしてください。

私は何時から親友になったのでしょうか?

無邪気な少女と可憐な美人さんに、爆弾を投下された気がしてなりません。

"ユーリちゃん"と"お兄様"までなら、愛想笑いも出来ましたが…"オージ"は『王子』で無いことを、祈りますね!

此処にきて変なフラグはノーサンキューです。

折れるものは、バキバキに折ってしまいたいです。


「大変です!今すぐ屋敷に来て下さい。手当てしなくては…女の子にケガをさせたままでは…」


「いえ、全然大丈夫です!かすり傷ですから、お気持ちだけ頂きます!」


「では、馬車に戻りましょう。私達といれば危険はないので安心してくださいね?」


私の意見はスルーですか?!

今が危険だと思えるのは、私の思い違いですか?

美形の片腕に乗る形で公衆を歩くんですか?!

色々と言いたいのに、有無を言わせないカイルさんの真っ黒な笑顔に貝になりました。

小心者と言われようと怖いものは怖いです。


馬車まで運ばれる間に、メンタルが根こそぎ削られたのは言うまでもありません。

マイナスゲージ到達しました。

誰か助けて下さいませ!

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