No.33 親友の帰還~俺の親友は神子
【聖夜side】
息が切れるのも構わずに聖堂に急ぐ。
ルーが目を覚まして消えたと聞いた時。
またルーのいない時間を過ごすのかと、焦りとやるせなさに押し潰されてしまいそうになった。
ルーが地球からいなくなった時は、周りはルーの事はスッパリ忘れているし、 俺だけが覚えている違和感。
その違和感は、だんだん切なさと恋しさに変わった。
恋愛感情はなくても、姉弟の様に過ごしてきた人がいなくなって…塞ぎ混む事が増えた時に、こちらの世界に呼ばれて正直に嬉しかった。
あのままいたら、灰人になっていたかもしれないから。
そして、ルーと再会した後。
またルナと離されてしまう。
殴られたのと同時に、ルーが視界から消え失せていた。
気を失う前に叫んだのは、名前だったかなんだったのか覚えてない。
それから四日間。
ルーの消息は絶たれて、怪我と発熱にうなされた。
やっと昨日ベットから抜け出せて、ルーの帰宅を教えてもらった。
昨日会えなかったのは、ルーが疲労困憊だったから。
今日の朝一で会う予定だったのに。
お城にしては小さな聖堂の扉を、パーンッと開ける。
「ルーッ!」
「聖夜、ただいま」
変わらない笑顔で迎えてくれるルーに、そのまま抱き付く。
「なんでいないのさ!どっか行くときは言うのが常識でしょ!」
「その常識はどこから仕入れてきたの?」
クスクス笑うルーに、俺は構わずに言葉を並べる。
「常識なの!もう一人は嫌だからね!こっちで可愛いお嫁さん探すんだから、ルーは勝手にいなくなっちゃダメ!」
「ちゃんと帰ってくるから、安心していいよ」
「絶対?本当に本当?」
「うん。絶対!」
「約束だからね!」
「約束するよ。だから心配しないで」
やっと安心したのと同時に、ルーを横から拐われる。
「私達の婚約者に何をしているのですか?」
拐ったのはカイルさん。
機嫌が悪いらしく、軽く俺を睨む。
妬かなくてもいいのに、嫉妬心丸出しでいるみたい。
「ルナ体調はどうだ?」
「大丈夫ですよ。キースさん達はなんで此処へ?」
「オーリンが行くと言うから、帰宅は此処だと知っている」
キースさんとスフィンさんは、ルーを見て言う。
ルーはカイルさんに抱き締められたまま、そうですかと笑う。
「でも、急にいなくなるのは前例が少ないな」
「そうなんですか?」
「初代はフリーパス。ルナと一緒だったと文献に書いてあった」
「初代は女王だったんですよ?」
「女王がですか?!」
驚くルーにカイルさんが、丁寧な説明が続く。
「神子とは精霊王とこの世界を繋ぐ役目があります」
女王はその役目が出来たからって女王になった。
人間の世界は、精霊王の助言がなくては今までの厄や災害、人害で滅んでいたかもしれない。
その精霊王と人間のパイプ役が神子。
精霊王が選出し加護を付けるシステムらしく、厳密な条件はないらしい。
それは、精霊の性質にある気まぐれからくると予想されている。
「私はそのフリーパスのままで良いんでしょうか?」
「えぇ。精霊王が許可したのですから」
「そんなモノですか?」
「そんなモノですよ。二代目が試行錯誤しなきゃ、今頃は精霊王に振り回されていますよ」
「振り回されるんですか?」
「此方側から何も出来ないし、精霊王も気まぐれですからね。呼び出しも気まぐれなんですよ」
納得するルーを、今度はキースさんが抱き上げる。
「まぁ、難しい話は後にして朝食まだだろ?」
コツンッと額と額をくつけて、頬笑む様は王子様そのもの。
いや、リアル王子様なのは知っているよ。
ゲームならありきたりだけど、リアルにやる勇気に乾杯。
それで考えると魔法使いはスフィンさんで、騎士は双子のお兄さん。
カイルさんはまんま王子様の側近。
じゃ、俺は?
魔法使い希望なんだけど、まだまだ修行中のヒヨッコ。
「聖夜、何ニヤニヤしてるの?」
「ちょっと二次元に飛んでた」
あえて遠まわしに言ってみる。
それだけで、ルーは分かると知っているから。
呆れ顔のルーを抱き上げたまま、キースさんはズンズン歩いていく。
俺も後に続きながら、まだ頬が緩んでいる。
オーリンさんは、優雅に一礼して見送ってくれる。
「聖夜、少しは危機感持ってよ!」
「ルーにだけは言われたくない」
ルーはうっ、と詰まって言葉を飲み込む。
その会話を聞いていたキースさんが、真剣な顔で言う。
「次なんてないからな。そのために準備をしたんだから」
「えぇ、準備万端です」
カイルさんの言葉に、ルーと俺は首を傾げる。
この四日間で何があったのか?
怪我をしていて、寝ていた俺は知らなくて当然だけど。
この後に待ち受けるバードスケジュールも知ることなく俺とルーは同じく首を傾げていた。




