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No.32 神子の資質


パチッと目を覚ますと、見慣れた部屋の天井にホッと安堵します。


「起きましたか?」


「おはよう、ルナ」


起き抜けに見えたのは、ティーノお兄様とジルお兄様でした。

横には、 まだ眠ったままのキリルさん。


「彼女はまだ寝ているよ」


「看ててくれていたのですか?」


「心配だったからな!」


「ありがとうございます!」


私はありったけの気持ちでお礼を言うと、柔らかく頭を撫でられます。


「気にしなくていい。俺たちが気になってただけだしな」


「そうです。それに、心配している人がまだいますから着替えて会ってあげて下さい」


ティーノお兄様が悪戯っぽく言って出て行ったので、私は着替える事にして淡いピンク色のワンピースに着替えました。

Aラインの可愛らしいワンピースは、ちょっと恥ずかしいですが…きっとキースさんやカイルさんは誉めてくれるはず。

スフィンさんは、相変わらずな気がしますが。


私が寝室を出ると、やはり三人が揃っていました。


「おはようございます」


例外がいらっしゃいました。

オーリンさんもご一緒です。

私は首を傾げると、オーリンさんは苦笑して手招きします。

私は導かれたまま、席につくとオーリンさんは小さな水晶を出しました。


「ここに、この様に手を置いて下さい」


ふわっと花びらが散る様に、光の粒が乱舞します。

綺麗な光景に見とれます。


「次はルナさんの番です。手を置いてみてください」


「置くだけで良いのですか?」


「はい。大丈夫、危害はありませんから」


頬笑むオーリンさんに、私は逆らいきれずに手を置きます。

花びらの乱舞と光の粒が、辺り1面を埋め尽くします。


「やはりですか…」


呟くような言葉に、私は訳も分からずに答えを待ちます。


「おめでとうございます。ルナさんは神子として、開花したようです」


「えっ?」


驚いたのは私。

今の今まで忘れていたのに。

お兄様達は驚いた風でもなくて、落ち着いて聞いてます。


「核を止めたと聞いた時から、もしかしらと思っていたんです」


「えっ、でも…私は無我夢中で」


「開花の理由は、人それそれですから。ワタクシは悪戯で目覚めましたし」


「悪戯ですか…?」


全然オーリンさんの悪戯している所が思い浮かびません。

無我夢中で開花って…。

神子だとか考えて行動した訳じゃないのに。


「そもそもルナさんは、開花途中だったんです」


「そうなんですか?」


「聞いてませんでしたか?」


「聞いた様な気もします。でもすっかり忘れてました…」


「色々ありましたからね。無理もありません」


確かに色々ありました。

二度も拐われるなんて、どんだけ間抜けなんでしょうか?

不可抗力にしても、自分自身情けないです。


「それで、ルナさんにはこれから本格的に神子の勉強をしてもらいます」


「勉強ですか?」


「この世界を好きになってもらって、次のステップは精霊王との対話になります」


「エメルさんとの対話ですか?何かあれば呼べとは言われてますけど…」


「では、今の状態で呼べますか?気を集中して呼び掛けてください」


やってみて下さいと、オーリンさんがすすめます。

私は半信半疑で、気を集中させて呼び掛けてみます。

サワサワとカーテンが揺れて、フッと気が遠くなります。

視界が揺れた気がして、目をこすると違う風景にいました。

花が咲き乱れる中庭。噴水が涼やかな音をたてています。


「遅い!呼ぶのが遅すぎるぞ」


「本気でハゲるかと思ったぞ、この馬鹿娘が!」


「すみません。でも、一応やれる事はしていたんですよ?」


優雅にティータイムしていたらしい二人に、私は驚きながらも謝ります。

地べたに座った私は、急にフワフワと浮かび上がって可愛らしい椅子に着席。


「我を呼べば、すぐに地に葬ったものを」


苦々しく吐き捨てるエメルさんに、私は苦笑します。

良かった…呼べばガチで、ニードは死亡フラグ。

間違いたく違う結果になっていました。


「ダメですよ、生き恥さらす方があのタイプはキツいんですから!」


プライドの高いヤツは、恥をさらす方がダメージ大きく抉れます。

誘拐された側からしたら、抉られてしまえ!と思う訳で。


「まぁ、あの程度の香など我には訳もないがな」


「そうなんですか?」


「臭くて鼻が曲がりそうだけどな。あの程度なら俺達ぐらいになると、動けねぇ事はないな」


「知りませんでした。精霊避けとしか聞かなかったので…てっきり」


「お前が魔力暴走させた時は、本気で世界の崩壊が思い浮かんだぜ」


「世界の崩壊なんてしませんよ?!」


私の魔力程度で、世界の崩壊が起こるなんて思えません。

ぶんぶんと、顔を振れば呆れ顔のシルヴァーさんの顔とかち合います。


「コイツ、本気で分かってねー!」


「ルナの魔力なら、全開で使えば世界すら手に出来る」


「えっ?」


「だーかーら!それだけ、魔力の純度も高いし、魔力量もハンパないんだって」


純度?

魔力量?

分からない単語が出てきます。

私は差し出されたお茶に口をつけながら、首を傾げます。


「聞いてないか?」


「純度の話は聞いてません」


「アイツは何をしてるんだよ!一番肝心な事じゃねーか!」


「仕方ないでしょう。まだ此方に来て日が浅いのですから、まずは此方を好きになって頂かないと」


急に現れたオーリンさんに、シルヴァーさんは毛を逆立てます。


「暴走させたらどーすんだよ!」


「させないために、最低限の助言はしてきましたよ」


「我に説明させようという魂胆か?」


「たまに、仕事してもいいでしょ?」


「仕方ないな。純度とは魔力そのものの力。元素みたいなものだ」


かって知ったるオーリンさんは、椅子に座りながら補足します。


「ルナさんの純度は、ワタクシより遥かに上の次元で、精霊王に近いです」


「だから、暴走させたら世界崩壊の危機なわけ」


「じゃ、魔力量もですか?」


「そうですね。遥かに私のうえです」


聴いていません。

確かに、魔力は多いと聞いていましたが、そこまでだとは聞いていません。

オーリンさんがスゴイのは、聞いていましたがそれ以上とは聞いていません。


「おや、あちらでも心配している様ですね」


「そうであろうな。急に消え失せるんだから」


「ワタクシは宣言したつもりなんですがね…困った方々ですね」


やれやれと肩を竦めるオーリンさんは、お茶を飲み干して手を差し出します。


「では、戻りましょうか?」


「はい。お茶ありがとうございました」


「また来るといい。歓迎しよう」


「はい、また絶対来ますね」


そのまま、手を握られるとユラッと揺れて見慣れない門の前に移動していました。

綺麗な建造物の様な門は、オーリンさんを確認したように開きます。


「ルナさんの様に、フリーパスで精霊王と対話に成功するのは珍しいのですよ?よっぽど、気に入られているか純度が高くないと、この門からの出入りになります」


「そうなんですか?!」


「えぇ、ワタクシなんて最初は『何しに来た』と言われましたから」


精霊王様の独断ですか?

どうなんだろう…独断と偏見に思えてしまうのは、気のせいでしょうか?

顔に出てしまったのか、オーリンさんは笑います。


「精霊王は案外人間嫌いなんですよ?」


「あー…何となく分かります」


人間は愚かだと言った時の顔と、声の響きを思い出されます。


「貴女は特別なのかもしれません」


「そうでしょうか?」


「えぇ、きっといい神子になれますよ。その証拠に、精霊王自らもてなしてました」


手を繋いだまま門をくぐると、小さな教会みたいな場所に出ます。


「神子は精霊王と人間を繋ぐ役目が一番の仕事です。精霊王は時に色々な助言を人間に与えてくれます。それを繋ぎ伝えるのが役目なんです」


「繋ぎ伝える、ですか?」


「そうです。ワタクシ達は唯一、精霊王と対話出来るのですから。神子は代々入れ替りますが、死ぬまで神子は神子なんですよ」


「では、オーリンさんの前の神子様は?」


「ワタクシが開花すると、フラッと旅に出てしまわれました。今も時より手紙と意味不明なおみあげが届きますよ」


「自由なんですね…」


なんて、自由で元気なんでしょうか。

もしかして、オーリンさんも旅に出てしまうのかと思って見ていると、大丈夫ですと頬笑みます。


「ワタクシは、結構気に入っているのですよ?あのひねくれ精霊王もシルヴァーも。なので、元気な間は居座るつもりです。自由対話に制限があっても、一緒に門を潜る事は可能ですから」


悪戯っ子の様な表情を浮かべるオーリンさんの、意外な一面に驚きつつも笑いが込み上げてくる。

顔を見合わせて笑っていると、外が騒がしくなってくる。


「お迎えの様ですね」


「はい。みたいですね」


そう答えながらもおかしくて、私とオーリンさんは少しの間笑いあった。




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