No.28 愛おしい少女は?~臣下の嘆き
【スフィンside】
月が顔を出し夜もふける時刻。
ルナの部屋には、俺の他にキース殿下にカイル、ティーノとジルが集まっていた。
漂う空気は重苦しく、誰も言葉を口にしようとはしない。
あの時側にいられたら…セーヤが傷を負って倒れていたと報告があった時。
俺達は陛下に呼び出されていて、ルナに正式に騎士を付けようかと相談されていた。
それを退けても俺達で守れるだろうと思ってたのに…。
今回も守れなかった。
後悔の渦に巻き込まれてしまいそうになる。
「まだ、皆起きていたの?」
顔を出したのは宰相のクレメス殿。
疲れた顔で俺達を見て、苦笑を浮かべる。
「寝られるわけない…」
「まだルナの居場所も分からないのに…それに、目が冴えてしまってて」
あのホールにいた俺達は、責任を感じずにはいられない。
キースもカイルも俯いてしまう。
俺も壁に寄りかかったまま、ルナの魔力を探すのに集中する。
目をつぶり集中してみても、ルナの魔力は感じる事すら出来ずに、疲れだけが蓄積されていく。
「きっとあの子なら大丈夫だよ。だから少し休みないよ」
気休めじゃない確信を持った声に、俺達はクレメス殿を見る。
「なぜ、そう言い切れる」
八つ当たりでしかないと思いながらも、声は低く苛立ちを隠せない自分がいる。
クレメス殿は、真っ向から受け止めながら笑う。
「ルナだから。あの子はすぐに諦めたり、折れたりする子じゃないから。僕とダリアの自慢の娘だからね」
清々しいまでの親バカだ。
でも、そう言われてしまえば…ルナなら一人でも頑張っていそうな気がする。
諦めの悪さも、たくましさも知っている。
俺達がうじうじ悩んでてどうするんだ。
「クレメス殿、騎士の件だが…ルナが帰って来る前に、選抜をしときたい」
「そうだな。俺は父上の方に頼んでみるか」
「えぇ。私の方でも探しておきましょう」
捜索は陛下の指揮で、騎士や魔導師があたっている。
それなら、俺達がやらなくてはならない事。
同じ轍を踏まない。未然に防ぐ準備をしなくてはダメだ。
「そうだね。本格的に決めるのは、ルナの意見を聞いてからになるけど」
「騎士ならツテあるから、俺の方からも探すぜ」
「人数はそれなりにいた方がいいですよね?選りすぐりの人選にしたいので」
「それで構わない。三度目があってたまるか」
俺が吐き捨てる様に呟くと、クレメス殿は小さく笑う。
「…なんだ?」
「いや、変わったな~って思って」
能天気そうな声に、不機嫌さ全開で睨み付ける。
なぜ、この男は笑っていられるのか。
「皆がいい方に変わったよね。ティーノとジルはいい兄になったし、殿下やカイルも過保護だけど素直に感情を出すし、スフィン殿はルナ限定だけど、関心を持つようになったよね」
良いことだと、うんうん頷いているクレメス殿は、状況に反して嬉しそうだ。
俺がルナに関心を持つのは当たり前だ。
初めて臣下になりたくて、自ら臣下の誓いを口にした。
一番近くにいたくて、婚約者の話の時も負けじと行動に移した。
誰よりも近くにいたくて、頼りにされたくて。
大切なのも優しくしたいのも、俺からしたら必然で。
行方が分からなくなった時も、怪我をしているセーヤを叩き起こしたい衝動にかられていた。
きっと、ティーノやジルがいなかったら…実際していたかもしれない。
俺達を怒鳴ってもいい二人が、落ち着いて見えていたから、俺も自分を保っていられた。
「そんなルナだから、僕達が諦めなきゃ大丈夫だよ」
「そう、だな。俺達が諦めたら、いざと言う時に動けなくなるしな」
「私は諦めが悪いので、諦める気なんて最初からありませんよ」
キース殿下とカイルが顔を上げる。
その瞳には、鬱々とした闇はなくふっ切れた様に見える。
俺も一度めをつぶり、悪い思考を振り払うと、精霊を呼んでルナの魔力を探してもらうよう伝える。
精霊は得意気に頷くと、キラキラの光を撒き散らして飛び出して行った。
「これから陛下とルナの騎士について話すけど…一緒に来るかい?」
どうする?と首を傾げるクレメス殿に、俺達はすぐに頚を縦に振る。
「行く。大切な主の騎士だならな」
「俺も行こう。父上に相談したい事もたるし」
「では、私も。少しは役に立てるはずですから」
「分かったよ。ティーノとジルはどうする?」
髪をかきあげながら確認するクレメス殿。
そう言うと、二人はルナのベットで寝ているセーヤを見る。
「僕はセーヤが起きるまでここにいます」
「そうだな。いざ帰ってきてコイツが寝込んでたら、ルナは悲しむだろうしな」
「そうだね。じゃ、僕達はいくね」
二人がベットの近くに座るのを見て、俺達は部屋を出る。
今すべき事をするために。
ルナは今頃どうしているだろうか?
生きていてくれるだけでいい。
そんな当たり前のことを考えながら、俺は足を進めた。




