No.24 続・休日の過ごし方
うつらうつら気持ちいい微睡み。
久々にどっぷり浸かるみたいに気持ちいい気分。
ポカポカ陽気は最高。
包み込まれる様な温度も最高。
「………ん?」
微睡みが急に遠のいて、ハッと目を開く。
腕枕にガッチリお腹に回る腕。
あぁ…、と思い出して恥ずかしさに悶えます。
弱音なんて吐くつもりはなかったのに。
やらかしました。
ポロッと出てしまった本音に、父様の優しい言葉は心にとけていきました。
「おはよう。よく寝ていたね~僕も気持ちよくて寝ちゃったけど」
「話の途中で寝てしまってごめんなさい」
「気にしなくていいよ~♪一緒にお昼寝も、休日の醍醐味だしね」
よしよしと頭を撫でられて、そうかも~と思いました。
日本にいた時は仕事が休みの時は家事を終わらせると、気ままに読書したり昼寝したり…時々、聖夜も一緒になってダラッとした休日を過ごした。
まだ少し離れただけなのに、懐かしくて心がちょっとだけ痛みます。
「ねぇ、ルナ。僕にルナの話聞かせて?楽しかった事、悲しかった事…なんでもいいよ?」
頭を撫でる手は優しく促してくる。
私は促されるままに、思い出を話します。
「学生の時は、毎日が騒がしくて楽しかったです」
穏やかとは程遠かったけど、友達とワイワイ・ガヤガヤとした毎日は、何より輝いていた気がします。
放課後の教室や通学路でのお喋り。
夏休みのバイトや海で花火。
秋の学校祭やテスト勉強。
冬の鍋パーティーと初詣。
大学生になると、バイト仲間も入って更に賑やかになった。
一度口に出すと、怒涛のごとく言葉が流れていく。
「友達にも恵まれました…だから毎日が楽しかったです」
思い出の中には、変わらず友達の姿があって私を支えてくれました。
蓋を開けてみれば、辛い思い出よりも楽しい思い出の方が多い気がします。
「そっか~、ルナは幸せだったんだね」
父様が嬉しそうに言いました。
そう言われて、ギュッとしていた痛みが少し消えた様に感じがしました。
頷く私に父様は、温かい腕で抱き締めながら微笑んだのが気配でわかります。
「僕はね、ルナが幸せなら良いんだ。あっちにいたルナも、今ここにいるルナも幸せでいてくれたら、僕はとっても幸せになれるんだ」
優しい日だまりにいるような言葉に、ギュッとしていた痛みが消えて、暖かい何かが流れてきます。
温かい体温も優しくて、心がほぐされていくような感じです。
「だから、話したい時には話していいんだよ?僕はいつでもウェルカム!きっとティーノ達だって、聞きたいはずだからね」
お茶目な父様の言葉に、自然と笑えるようになっていました。
「はい…また話したくなったら、話しますね。父様…ありがとうございます」
感謝の意味を込めて言います。
父様の言葉は、今までで一番嬉しかったから。
「いや、お礼を言われるまでもないよ?うーん、なんか照れちゃうな」
「だって、嬉しかったから…。だからありがとうで良いんです」
照れ臭そうにしている父様に、私は笑ってしまいます。
父様はもしかしたら、親バカを抜いたらかなり真面目な人なのかもしれません。
「うん、やっぱりルナは可愛い!さすが我が娘!」
これがなきゃ、素敵な父親なんですけどね。
少し感動したのが薄れてしまいますよ。
「初めていっぱい話したし、ちょっと喉かわかない?」
「そうですね。ちょっとだけ、喉かわきました」
「お昼寝してたから、お昼過ぎちゃったけど…軽食ぐらいなら大丈夫だよね?」
「はい、軽くなら夜に響きませし」
「じゃ、決まり~!行こう!」
即断・即決です。
父様の行動力は、何処から来るのでしょうか?
私を起き上がらせて、手を引いて部屋を出ます。
すれ違うメイドさんや執事さんは、微笑ましそうに一礼していきますが…恥ずかしいですよ!
父様、逃げないので離してください。
切実なる願いは儚いですね。
サロンのような場所に着くまで、手は繋いだままでした。
「ここはね、僕の二番目にお気に入り。庭も見えるし、日射しも入るから読書したり、軽食なんか食べたりするんだよ」
父様が正面に座ると、音もなく現れるシビーさんにかなりビックリします。
「軽食になさいますか?ティータイムになさいますか?」
「軽く摘まめる物がいいな。もちろん、デザートも」
「了解致しました。しばしお待ちください」
当たり前みたいに会話していますが、呼ぶまでもなく現れるシビーさんは何者なんでしょうか。
ベテラン執事にもなると、それは当たり前なのでしょうか?
驚いてマジマジと見ていると、シビーさんは柔らかく微笑みます。
「ゆっくりお休みになれましたか?」
「は、はい。気がついたら寝てしまっていて…」
「それは、良うございました。休日はゆっくり過ごされるのが、よろしいですから」
老執事さんはハイスペック。
なぜ、お昼寝したと知っているのでしょうか?
覗かれていた?
いえ、そんな目で真面目そうな老執事さんを見てはいけませんよね。
きっと、父様の普段の行動からの推理ですよね!
精神衛生上そう思う事にします。
知らない方がいい事ってありますからね!
そんな私の葛藤とは裏腹に、着々と軽食の準備が整います。
「さぁ、食べようか。シビー、ルナにはアイスティーを。僕はいつもので」
「かしこまりました」
シビーさんが用意してくれたのは、アイスティーのストレートと甘いアイスミルクティー。
父様は見かけによらず、甘党のようです。
「ルナもミルクとハチミツ入れる?」
「ミルクだけ頂きます。父様は甘党なんですね」
「うん。甘い物は頭を使うときに、必要なエネルギー源に也るんだよ」
「旦那様は、幼少期の頃から根っからの甘党ですよ」
父様が笑いながら言うと、シビーさんから遠慮のないツッコミが入ります。
「シビー…ダディの威厳がなくなるから、少しお口を閉じようか?」
「威厳は無理かと…まずは暴走する態度を改めて頂きたいです。家人は毎日ハラハラしております」
「そんなに?!最近はヤンチャしてないからね!ルナの前では格好いいダディでいたいのに…」
「あの、多分…格好いいですよ!ちょっと変ですけど」
「変なの?!僕って変なの!?」
「変人・奇人でございますね。最近のルナ様に対する行動を考えてみて下さいませ」
フォロー不可能です。
出会いから今まで…誰が考えても軽くドン引きです。
でも、今日は少しだけ父様が近くに感じました。
「ルナ、ダディを嫌いにならないでね!」
真剣な顔で見つめる父様に、私は笑ってしまいます。
憎めない人とは、父様みたいな人の事を言うのかもしれませんね。
「嫌いになりませんよ?父様は私の父様ですから」
「あー、どうしよう!抱き締めてギュッとしたいっ!ダディはルナが大好きだぞっ!」
「旦那様、暑苦しいです。無駄に騒がないようにしてくださいませ」
シビーさんが、パシッと父様の頭を叩きます。
執事さん、それでいいんですか?!
主人と執事と言うよりは、駄々っ子と嗜める親の構図です。
「この後はどう致しますか?」
「んー…、読書の続きしようか?」
「そうですね。あの本は気になりますし、父様がよろしければ…読めたら嬉しいです」
「じゃ、今度はここで続き読もうか?」
私は即頷く。
腕枕の羞恥プレイは遠慮したいです。
今更ですが十三歳で添い寝は、恥ずかしさで軽く瀕死になれます。
父様はシビーさんに、部屋から本を持ってくる様に頼んで、パクパクとサンドイッチなどを摘まみます。
私もチビチビと摘まみながら、色々な話をしました。
父様は楽しそうに話を聞いて、時々父様やお兄様達の話もしてくれました。
父様と初めて過ごした休日。
父様がとっても近くに感じて、嬉しいのとくすぐったさに包まれました。
こんな休日も、たまには悪くないと思いました。




