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No.22 魔法とハイエルフさん


無事に帰宅してお茶をした時、こっそりスフィンさんにお願いしました。


『魔法で魔石や銀の加工がしたいので、教えて頂けませんか?』


スフィンさんは、目を細めて頷いてくれたので一安心して三日後。

キースさんとカイルさんが、外せない用事があると午前は留守です。

聖夜とお兄様方は、保護の手続きがあるためにいません。

結果、私は思う存分に加工の練習が出来る訳です。

テーブルに並べられているのは、真っさらの魔石と銀の塊です。


「まずは魔石魔力を流し込む事から。用途によって色は変わる…火なら赤、水なら青」


「分かりました。とりあえず…試しにやってみますね?」


頷いて魔石を手にします。

思い浮かべたのは…火です。

高温の青白い火を浮かべて、ギュッと魔石を握ります。

フワッと体から何かが抜けるような感じがすると、久しぶりに小さな精霊達がクルクルと乱舞しています。


『これ、あついよ~』


『まるこげにできちゃうよ~♪』


『いま、つかっちゃう?』


『おへやなくなるよ~♪』


「ちょっと待って!今は使いませんよ」


過激な精霊ことナビは、赤い髪から火の精霊だと分かりました。

慌てて止めると、ちょっとブーイングにあいました。


「ん、魔力を込めるのは大丈夫。殿下に渡す魔石を作ってもいいかも」


早々にスフィンさんの許可が降りました。

逆に心配になってスフィンさんを見ると、少しだけ口角をあげて言います。


「測定機作り直したルナに、あまり最初から心配はしてない。魔石に魔力を込めるより、測定機作り直す方が大変」


だから大丈夫と、肩を叩いてくれます。

それならば…期待に応えたいです!

私が作りたいてと考えていたのは、解毒や異物無効化の効果のあるモノです。

いつだか、キースさんやカイルさんが媚薬や毒物も日常茶飯だと言っていたので。

少しでも役に立つモノがいいと思って…日本でオタクだった知識を生かして考えた末に決めたのが、オンラインゲームでレアアイテムのイシスの腕輪。

魔法の女神のアイテムは、プレイヤーなら誰しも手にしたいと躍起になるモノ。


違う魔石を持って同じく想像する。

さきほどと同じように、ギュッと握るって頭の中でイメージを固めます。

大きさは腕輪にはめられる大きさを考える。

フワッと体から抜ける感じがして、魔石が熱を持ちました。

パキッ、と小さな音と共に、手を開いて見ると…何個かに砕けた魔石。


「…失敗ですね。どうしてでしょうか?」


「魔力を込めすぎたのかも。もう少し込める魔力を減らして」


「魔力量の問題ですか…では、もう一度試してみます!」


「付属させるモノによって、送り込む魔力量も質も違う。それを念頭におけば、きっと成功する」


先程より加減して魔力を慎重に送る。

流れる魔力は緩やかに、魔石に流れていく。

イメージを更に頭に固めて。

握っている魔石が熱を強く帯だした段階で、魔力の注入をやめて一息です。


「割れてはいませんけど…効果はどうでしょうか?」


スフィンさんに差し出すと、まじまじと眺めた後に少し首を傾けます。


「解毒は分かるが…他のは?」


「異物無効化です。毒だけだとキースはんの悩みは解決しない気がして…だから、体に必要のないモノの無効化を付けてみました」


魔石は無色透明から淡い紫色に輝いています。

スフィンさんは、また魔石を探るように見つめると小さく頷きました。


「これ、一つだと殿下の体では効き目が薄いかもしれない」


「ブレスレットの石は、三つぐらいにしようと思うのですが…足りませんか?」


「いや、足りる。これほど上質な魔石にするのには、魔力の調整も大変。ゆっくりやろう」


「はい。ちょっとだけコツが掴めた気がします」


新しい魔石を握りながら頬笑みます。

上手く出来ると嬉しいですね。

同じ手順で三つ目を完成させると、スフィンさんから待ったがかかりました。


「銀の加工は、少し休んでから。魔力が少し乱れてる」


「え、乱れてますか?」


「大丈夫、ほんの少しだけ。ただ、続けるのは、経験ないと不安だから」


ふっと目を細めるスフィンさんに、私は安堵の溜め息を吐き出します。

確かに、少しだけ体が重くなった気がします。

ソファーに座って体を休めようとしていると、目の前にアイスティーが置かれます。


「エルフの里のお茶。魔力の調整に役立つから」


「ありがとうございます。綺麗な色ですね」


「里にしかない花をお茶にする。冷たい方が口当たりがいい」


薄い水色のアイスティーは、飲むと心がほぐれるような味わいです。

日本で言うなら緑茶みたいな。

懐かしいような味を楽しんでいると、ボソッと小さな声が聞こえました。


「殿下が羨ましい…」


「えーと…どうしました?」


「ルナの魔道具貰えるから…」


スフィンさんの顔を見ると、どうやら少し拗ねているみたいです。

綺麗な人が拗ねると、可愛く見えるんです。

スフィンさんは、私の手を取ると指に唇をつけて呟きます。


「魔力はその人の分身。だから…妬ける」


スフィンさんの行動にしどろもどろになってしまいますが、頑張って伝えます。


「あの…勉強を教えて頂いてるお礼に、もらって頂けますか?」


「え…」


呆けた顔をしたスフィンさんを見れて、ちょっとだけ得した気がします。

あまり表情の動きがないスフィンさんなので余計に。


「これから作るので、まだ何も決まってませんけど…」


「勿論!ルナならすぐに慣れて作れる」


「はい。頑張りますね!」


「ルナなら大丈夫」


コップを傾けながら頬笑みます。

スフィンさんが目を細めます。

今日は色々なスフィンさんが、見られた気がします。

顔を見合わせて笑い合います。

優しくしてくれた人達に、少しでもお返し出来たら良いのに…。


その後は、銀の加工を教えてもらって無事にイシスの腕輪にそっくりなブレスレットが完成しました。

蔓を描いた銀の中心部から均一に並ぶ、紫色の魔石が綺麗に光っています。


上手く出来た事に一安心。

お兄様達やスフィンさん、カイルさんの分は、あえて魔石を加工しないネックレスを作りました。

鎖と魔石だけのシンプルな作りです。

スフィンさんからのお墨付きですよ。


皆さんはどんな顔するでしょうか?

少しでも喜んでくれたら嬉しいです。


こうして、スフィンさんとの過ごす午前は過ぎて行きました。

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