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No.18 不思議な落しものは?


夕日が沈む前。

フィルお兄様と入れ違いに、ティーノお兄様とジルお兄様が帰ってきました。

何となくですが、表情に困惑の二文字が浮かんでいます。

ティーセットで、紅茶をいれながら聞いてみます。

話すだけで、少しは気分が変わるかも?なんておもったのですが。

ソファーに座る二人に、紅茶を出しながら当たり障りのない程度に、話を振ろうとして…口を開ことすると、ティーノお兄様が重い口を開きます。


「ルナはセーヤと言う少年を知っていますか?」


「セーヤ…もしかして、落とし物って…」


「俺とティーノでルナの話をしてたら、そのセーヤが゛ルナは知り合いかもしれない!会わてよ!゛と、聞かなくてな…」


やれやれと肩を竦めるジルお兄様に、私はなんとも言えなくなってしまいます。

もし、゛セーヤ゛が゛聖夜゛であるなら、間違いなく親友です。

なぜ、この世界に堕ちてきたのかは不明ですが…。

これは、逢わないとダメだと脳内が言っています。

聖夜なら、何をしでかすか分からないから。


「お兄様、その方に会わせて頂けないでしょうか?」


「出来ない事はないのですが…大丈夫ですか?」


「はい。きっと大丈夫だと思います。お兄様おねがいします!」


「うーん、俺達同伴ならいいんじゃないか?」


「ありがとうございます!すぐにでも逢えますか?」


「えぇ、大丈夫ですよ。彼は今、賓客室で保護されていますので」


「では、お願いします!」


私は頭を下げて言います。

もし、セーヤが゛聖夜゛なら…私のせいで巻き込まれたのかもしれません。

嫌な不安が、胸に広がっていきます。


「あぁ、そんな顔しなくても大丈夫だぜ?アイツ無駄に元気だしな」


「では、行きましょうか?」


疲れただろう兄様達に動いてもらうのは、気が引けますが…ここはお願いしてハッキリさせなくては。

私の表情が情けなかったのか、兄様達は部屋を出てからずっと手を繋いでました。

両方の手が温かくて、不安が少しだけ溶けた気がします。


賓客室をノックして入ると、懐かしい声が聞こえてきてドキッとします。

藍色の髪に銀メッシュの、数十年前に見た顔の美少年がいました。

いえ、正しくは中学生ぐらいの聖夜が。


「…聖夜、だよね?」


「あれー?ルーちっさくなってるー!」


「少しは緊張感とか危機感とか持てよ、バカ聖夜っ!」


「やっぱりルーだ!顔と目色違うけど…やっと会えた!マジで俺、あっちで変人扱いされてたんだけど…ルーの事、皆忘れてるんだよ?俺だけ覚えてるの」


「えっ……?」


ガーンと頭に衝撃を受けたように、一瞬真っ暗になります。

私は忘れられてるのですか…?

日本の友人の顔が浮かんでは消えます。

波乱だった学生時代。バイトした事。

やっぱり波乱だった大学生活。

二十七年間が、いとも簡単に消えてしまったようで…悲しいのか、悔しいのか…グルグルと感情が溢れてきそうで、追い付きません。

冷たいモヤモヤ、魔力に引きずられないように、グッと拳を握ります。


「ルナの帰省時に、あちらの人達の記憶は消滅する事が決まっていたらしいって聞いたぞ」


「消滅…ですか?ならどうして、聖夜は記憶はあるのでしょうか?」


「可能性としては…転移魔法は血を媒介するので、彼にルナの血が混じっているか…それ以外に理由があるのか…」


ティーノお兄様の説明で、ある出来事が浮かびます。

血の媒介!

聖夜は大学生の時に、事故にあって私の血を輸血をしました。

もしかして、それが理由でこの世界に、落ちたのかもしれません。

沈んでた気持ちが、更にベコベコに沈みそうです。


「血って血液だよね~?あー…じゃ、しょうがないよね。あれで、命救われたし?」


「軽っ!もう少し考えてよ!聖夜、帰れないかもしれないんだよ?」


「心残りは、画面越しの彼女だけだしな~。むしろ、ワクワクが止まらないんだけど」


「…二次元とリアルは違うからね!確かに魔法はウキウキしたし…精霊は面白いけど」


「俺、魔法使いになれるかな?リアル魔法使いになりない!あ、ちっさい小人見えてるからなれるかな?」


聖夜のテイションに押されて、沈んでいた気持ちが薄らぎます。

緩い言葉も態度も、絆されてしまいます。

聖夜と私のやり取りに、お兄様方は微妙な表情ながら頷き合います。


「ルナの友人なのでしたら、父上に頼んでうちで保護と身元保証しましょう」


「そうだな。ルナは無くしたモノが多すぎる。それぐらいの、我が儘は許されるはずだしな」


お兄様方の言葉に、本当に日本での事が消えた実感がして…鼻の奥がツンと痛くなるのを感じます。

どうして、私だったのでしょうか?

心に穴が空いたように、目が潤みます。

俯いてギュッと目を閉じていると、小さな腕に包まれました。


「やっぱ、ルーは甘えるの下手っぴだわ。昔から隠れて泣いてたもんな~」


背中をトントンとされてしまうと、涙腺が崩壊したように涙が溢れてきます。

本当は、知らない世界で心細かった。

優しい人は多くても、殺されかけるわ、知らない令嬢には睨まれるわで…慣れない事に疲れていたのかもしれません。

兄様方の痛ましい視線を感じながらも、涙は止まってくれません。


「泣けるうちは、大丈夫だよ。ルーは頑張り過ぎるから、泣いとけばいいよ」


聖夜に言われるままに、泣いてスッキリすると、恥ずかしさが込み上げてきます。


「もう大丈夫ですか?」


「まだ泣き足りないなら、今度は俺がギュッとして、背中撫でてやるはぜ?」


期待に満ちた視線を送られて、更に羞恥心に駆られます。


「大丈夫です!お見苦しい所をお見せして申し訳ありません」


きっと鼻と目は赤くなっていますが、もう涙は停まりましたし、スッキリしました。

どんなに悲しくても、今は考えるのはやめときます。


「まだ聞きたい事いっぱいあるんだけど」


「そうだね。私も話したい事いっぱいあるし」


聖夜と顔を見合わせて笑うと、キューとお腹の虫が鳴りました。


「そう言えば…夕食の時間ですね」


「夕食はこっちに運んでもらおう。今日は俺達三人の予定だったし、一人増えても変わらないだろう」


「お兄様方、ありがとうございます!」


「ありがとう、お兄様達」


「貴方の兄ではありません!」


「次は殴るぞ」


「え~、ルーの扱いと違う!俺にも優しさプリーズ!」


この後の夕食は、いつも以上に賑やかで楽しかったです。

落としモノが聖夜で、自分勝手にも良かったと思ったのは内緒です。

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