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No.17 お勉強の時間です


婚約してから数日。

色々と慣れない事続きで、若干魂が飛びかけています。

でも、飛ばす訳にはいきません。

先日からお勉強が始まったからです。

先生は、礼儀作法はカイルさんに、語学はキースさん、歴史と魔術はスフィンさんに教えて頂いてます。

忙しい皆さんは大丈夫か心配したのですが…『ルナと一緒にいたいから』で、通ったとか。

通った事に驚きますけど、キースさんいわく王様は二つ返事で了承したとか。

その分の皆さんのお仕事は、父と王様が上手く割り振るとか。

甘やかされている事は分かっていますが、今は甘えさせて頂きます。

初めて父に、好感を持ったというのは秘密しておきましょう。

兄様達には、ここ二日会っていません。

数名の魔導師と騎士が、ここ数日留守にしているようです。

昨夜、二人だけの夕食の席で父が『 珍しい落とし物があったんだよ』と言っていました。

今日は帰宅するだろうと言っていたので、精一杯労りたいと思います。

午後からは、ユーリとフィルさんが訪問があるとか。

こちらも勉強なみに、気が抜けませんね。

フィルさんとちゃんと話せるか不安しかないですけど。


ふぅ、と溜め息を吐き出すのと同時に、覗き込むような視線を感じます。


「大丈夫か?」


「あ、はい。大丈夫ですよ。ただ、午後からがちょっと…」


言葉を濁してしまいます。

あの人と仲良く出来る気がしません。

あの時の言葉は、まだ心に刺さってジクジクしていますから。


「フィルは不器用ですからね…言葉をそのまま受け取らない方がいいですよ?」


よしよし、と頭を撫でてくれたのはカイルさんです。

宥められながらも、うーんと考え込んでしまいます。

あの発言は許せません。でも、もう少し話を聞いていれば…もしかしたら違ったのかもしれません。


「フィルさんは、お二人から見てどんな人ですか?」


私は顔を上げて二人を見ます。

外見はどうあれ、中身は三十路です。

歩み寄りが必要なら、それなりの情報を手にして色々と考えなくてはいけません。


「先ほども言ったように、不器用な子ですよ?」


「つい思ってる事と違う事を言って、地味に凹むような可愛いヤツだな」


「つい、ですか?」


「あぁ。自己嫌悪におちいって、自室でベコベコに凹んで、ユーリ嬢にからかわれるとか」


「ユーリはそこが、たまらなく愛おしいといってましたけどね」


フィルさんは、もしかしてツンデレなんでしょうか?

強気になったと思ったら、自分の発言で凹む…ちょっと分かりにくいですが…ツンデレな気がしてきました。

ギャルゲーのツンデレ少女みたいな?


「一人で対面が怖いなら、俺達が一緒にいようか?」


「そうですね。フィルは未来の義兄ですし、挨拶もしなくてはいけませんから」


「時間は大丈夫ですか?勉強だけでも時間を割いて頂いているのに…」


「大丈夫ですよ。ルナと親睦を深めるのが、今の私達の仕事らしいので。陛下から言われてますから」


「一番にルナを考えろ、と父上とクレメス殿にいわれているしな。スフィン殿は、今は引き継ぎでいないが…午後からは顔を出すと言っていたからな」


「ありがとうございます」


お礼を言って、改めて教科書に視線を向けます。

まだ多少は不安はありますが、一人ではないと分り心は幾分か晴れました。

ツンデレな兄に会うのは、不安ですが切り変えて勉強に意識を向けます。

こうして、午前の勉強は終わりました。


キュルルルルーッと鳴き声が聞こえるなか、食後のティータイムの途中に来客の知らせが届きました。

入室の許可を出すと、現れたのはダークグレーの服に身を包んだフィルさんと、艶やかなワインレットのドレスのユーリが、部屋に入るなり優雅に一礼します。

あ、忘れがちですが…キースさんは王子様でしたね。


「二人とも楽にしてくれ。私的な訪問なんだから」


「そうですよ。フィルにいたっては、私達の義兄になるんですから」


カイルさんの発言に、眉を寄せるフィルさん。

間違ってはいないけど、納得はしてないみたいです。

険しい顔のまま、私に小さな箱を押し付けます。


「お詫びらしいよ。ルナが帰って来ないと分かった時の、凹みようったら!見てて面白かったわ!」


「うるさいっ!仕方ないだろ、家出のままお城に住んで話せなかったんだから!」


「愛すべき馬鹿よね~!」


「ユーリ、馬鹿って…」


キャハハと笑うユーリに、憤慨しているフィルさん。

うん、今確信しました。

フィルさんは、ツンデレのようです。

箱を手にしたまま固まる私の手から、カイルさんは箱を手早く開けて、用意されていた皿にケーキを乗せてくれます。


「ルナ。このケーキは有名なケーキで、並ばないと買えないものですよ」


「なぁ、フィルは不器用だが悪いヤツじゃないだろ?」


「不器用なのはルナを一緒だな」


スフィンさんは、目を細めて小さく微笑します。

その言葉に頬を染めるのは、話題の主のフィルさん。


「俺が食べたかったから、買ってきただけだぞ!断じてルナのためじゃないからな!」


もろツンデレ発言です。

本物のツンデレは、始めての遭遇です。

ちょっと感動すらしてますよ。


「では、せっかくなので頂きますね」


「本当に素直じゃないのが、また面白いよね~」


ニマニマしてるユーリを、睨むフィルさん。

ケーキは甘さ控えめのオーソドックスなショートケーキです。

口に入れた瞬間、ニヤケてしまいます。


「フィルさん、美味しいです!」


日本と変わらない味に会えて嬉しさの、あまり、フィルさんに言われてジクジクしていた言葉が溶けて行く気がします。


「フィルさん…じゃなくて、俺は兄だぞ!」


「もしかして、ティーノやジルがお兄様呼びされてるのから、自分もって事じゃないですか?」


「無理にとは言ってない!ただ、俺もルナの兄であることには変わらないから…」


もごもごと呟くフィルさんは、何度も言いますが本当にリアルツンデレですね。

なんだか、前に言われた言葉も本心ではないのかも?と思えてきました。


「兄と呼ばれる前に、言わなくてはならない事があるのではないか?」


追い込みのダークホース・スフィンさんがいました。

内容は誰にも話していないので、知ってるとなると…ティーノお兄様かジルお兄様が話してしまったのかもしれません。


「分かってる!色々…八つ当たりして悪かった!あれは本心じゃないって言うか…本当に悪かった!」


「ルナに忘れられたのに、ショック受けて八つ当たりしたらしいよ~?転移魔法の弊害なのに、ルナに当たられてもね~?」


真剣に謝るフィルさんと、茶化しながら説明するユーリの組み合わせは、空気を明るくしてくれる作用があるみたいです。

なんだか、言葉だけにこだわっているのは馬鹿みたいに思えてきました。


「記憶は少しだけあるんですよ。多分ですけど、地球に行く直前の記憶が…まだティーノお兄様もジルお兄様も、今の私より幼くて…悲しげでした」


抱き締めてくれたティーノお兄様の体温。

頭をちょっと乱暴に撫でてくれたジルお兄様の手。

泣き腫らした顔のフィルさん。

青紫色の瞳を悲しみに染めていた父。

この世界に来る前にほんの少しですが、蓋をされていた記憶はよみがえりました。


「覚えてたんだ……」


「本当に少しだけ、です。だから、まだ家族とか正直分かりません」


俯き気味に言って考えてしまいます。

家族を知らない期間が長すぎました。

日本では、三十路になってもお一人様を謳歌してましたから。

今更、家族だと言われても…正直ピンッときません。

だから…距離感が掴めなくて困ったりします。


「ルナは考え過ぎかもな。家族は一緒に過ごしていくうちに、形になっていくもんだぞ?」


「そうですよ。今ではティーノもジルもお兄様って呼んでいるんですから。慣れですよ」


「そんなアバウトな…」


「まずは形から入ってみたらどうだ?呼び方だけでも、少し違ってくるかもしれない」


「……フィルお兄様、ですか?」


キースさん、カイルさん、スフィンさんに背中を押されて、いっぱいいっぱいになりながら呼んでみます。

間が空いたのは、改めて呼んだ羞恥心のせいです。

そして、赤面して顔を両手で隠してしまっているフィルお兄様。

この反応は乙女ですよ!

新たな一面発見です。ちょっと可愛く見えてしまいました。


「なぁ、可愛いだろ?」


「はい、なんか…私より乙女ですよ」


「ルナも私達にとっては、立派な可愛いレディーですよ?」


「ちょっと照れ屋で甘えるのが下手な、愛しい婚約者だぞ?」


私達の会話に便乗して、カイルさんとキースさんが頭を撫でたり、手を握ったりして戦線します。


「カイルとキース王子が、変なの捕まえなくて安心したよ。ルナとは出会いからして特殊だったけど、カイルもキース王子も良いヤツだから安心」


「あ、そっか…じゃ、ユーリ嬢は義姉になるのか!」


「まだ、分からないだろ!ルナの婚約の話は出たばかりなんだから!」


「ルナに拒否されない限り、変わらない事実ですよ?あ、焼きもちですか?」


「違わないけど違う!」


「違うのか違わないのか、 面倒だからはっきりしろ」


「むむむ、兄が妹を心配して何が悪い!何より、兄の前でベタベタしすぎだ!」


「それを世の中では、嫉妬と言う義兄さん」


やっぱりサラッと追い討ちをかけるのは、スフィンさん。

゛義兄゛と言う言葉に撃沈するフィルさんが、ちょっと可哀想になってしまいます。


「まだ義兄じゃないっ!」


「ルナが十六歳になって、成人の儀が終わったら…披露宴をしましょうね」


「あと三年ですね。皆さんは本当に私で良いのですか?」


「 もちろん。ルナ以外は考えてないぞ」


「俺もルナ以外はどうでもいい。三年なんて、あっという間だからな」


私の婚約者さんは、優しくて気が長いようですね。

嬉しいような恥ずかしいような…不思議な感じです。


「ルナを泣かせたら、すぐに婚約破棄ささせるからな!」


「泣かせませんよ。愛しい婚約者ですから」


あくまで納得していないフィルお兄様は、吠えるように言います。

カイルさんは、笑いながら頷きます。

フィルお兄様より、カイルさん達の方が上手ですね。

終始賑やかに時間は過ぎていました。


「いつでも、帰ってきていいからな!」


帰り際に力説していたフィルお兄様は、思っていた人と全然違いました。

不器用でツンデレの、本当は優しい人でした。

見送りの際に、ぎこちなく頭を撫でたフィルお兄様。

会う前の不安は、なくなって心が温かくなりました。



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