No.15 彼女と彼女達の違い~公爵家次男の溜め息
【カイルside】
花に囲まれて婚約者になった、ルナとキースやスフィン様とお茶会をしていて、気分も穏やかだったのに…。
一つの足音で、穏やかだった空気が瞬く間に、鬱々とした空気になる。
足音の主は、ピンク色のドレスに甘ったるい香りを漂せるヒュース伯爵家長女・リアノア。
「皆様、ごきげんよう。お茶会がありましたら、皆様とリアの仲じゃないですか!参加したいです~!」
クネクネしながら言う彼女に、軽い苛立ちを覚える。
私達が彼女とどんな仲なのか謎でしかない。
ポジティブもここまで来ると、若干気味が悪い。
ルナを見ると、諦めた顔で成り行きを観察しているようだ。
私は分かっていた事てとは言え、巻き込んで申し訳ないと思いながらルナの頭を撫でると、小さな笑みが返ってくる。
本当に控えめで、愛らしい子だ。
「俺達は愛する婚約者と茶会の真っ最中で、貴女の要望にはそえない。」
「えっ!だって…キース様もカイル様も、いつもリアに優しかったのに…」
「勘違いさせたつもりはないが、させたなら謝る。だが、今もこれからも俺達の心はルナにある」
キースの言葉に芝居さながら、涙目で私達を見る彼女は、何を勘違いしているのでしょうか?
私は優しくした記憶はないし、挨拶程度で逃げていたはずだ。
捏造甚だしいとしか言えない。
「やっぱり、ティーノ様やジルベルト様に無理にお願いされたのでしょ?宰相様にお願いされたら、断れないですよね…可哀相です!」
その一言に、ルナの空気が一変する。
優しげだった雰囲気が殺伐とした空気になり、ルナの忌諱に触れた事が分かる。
優しいルナ故の憤りは、簡単に想像できる。
「私の兄様や父は、そんな人じゃあまりません」
「まぁー、優越感?皆様に愛されていると勘違いしているの~?可哀相な子…」
哀れみの目でルナにいい放つ伯爵令嬢に、私達の機嫌は底辺になる。
特にスフィン様の背後から、黒い霧が見え始める。
「あれ~?どうしたんですか?」
更に空気が重くなったのに、伯爵令嬢は気がついてない。
黒い霧が伯爵令嬢に絡み付いているのに、見えてない本人はケロッとしている。
見ている方が気持ち悪いな。
「スフィンさん!あの、大丈夫ですよ?」
「しかし」
「大丈夫です。スフィンさんやキースさん、カイルさんが分かっていてくれているので平気です。ねぇ?」
スフィン様の手をギュッとルナが握ると、険しい顔からいつもの無表情に戻る。
伯爵令嬢よりも年下なのに、ルナはいつも周囲に気遣いを忘れない。
それが痛々しいくもあり、愛おしく思えるようになったのはいつか?
出逢ってから今まで。
まだ八日程度なのに…考えて思い付いたのは、初めて会った日。
長く綺麗な白銀の髪や、落ち着いたアメジストの瞳に見いった。
美麗な顔立ちなのに、表情が豊かで人を惹き付ける。
何より当たり前に他人を思いやるあまりに、打算のないルナが心配になったり。
私にしては珍しく、最初から好印象だった。
話してみて不器用で小さなルナを、守ろうと自然に思えた。
゛一目惚れ゛
それが一番しっくりくる。
自分に一番遠いと思っていたのに。
それを、実感したのは昨日。
魔法で大きくなって綺麗な姿にみとれ、顔に熱が上がったように熱くなった。
ルナは外見だけではなく、心は誰よりも強くしなやか。
真っ直ぐなのも、時々見せるか弱さも。
すべてを守れたなら、とあの時思った。
「あの、正直におっしゃって!私の方が皆様に相応しいでしょ?」
「貴女は私達に相応しくない。私はルナがいいので」
断言してルナの隣へ移動します。
「うにゃっ?!」
軽い体を抱き上げてると、驚いたのか私の服を小さな手が握ります。
それだけで、甘やかな気持ちになれるのが不思議。
不思議ですが、不快ではなく歓喜で心がくすぐられる。
「゛私は゛じゃない。俺達の間違いだろう。カイル、ルナを独りいじめはダメだぞ」
「すみません、体が勝手に動いてしまって。愛しさ故ですよ」
キースは苦笑しながら言います。
私は思った通りに伝える。
長い付き合いなので、本気なのは伝わってるはず。
「ルナは人を惹き付ける。そして、俺達は惹き付けられた。それだけだ」
静かに紡いだスフィン様は、もう興味はないかのようにカップを傾ける。
ルナは意味が分からないらしく、可愛らしく首を傾げて小さく呟いている。
「私は普通だと思うのですが…?もしかして、知らない間に変な言動を?!」
呟いた後に、小さく震えたルナを落ち着かせるように背中を撫でると顔を上げた。
白銀に縁取られた綺麗なアメジストの瞳が、私を見つめて不安に揺れている。
キースが最初から、抱き上げていたのが分かる。
この可愛さはくすぐられる。
不器用な性格を知っているから、余計に甘えられているようで嬉しい。
これが゛好き゛なんだと、心に降り積もる感情が心地いい。
「ルナはそのままで良いんですよ」
「でも、変だったら言って下さいね?」
納得していないのか、ルナの眉が下がって困ったような表情になっている。
余計な心配はしなくていいのに。
柔らかな頬を撫でようとすると、キースの手が伸びてきて、ルナをさらっていってしまう。
「今のまま変わらないでいて欲しいと思うのは、俺達の我が儘かもしれないけどな」
キースは膝にルナを抱いたまま、額を合わせて小さく頬笑む。
「そうそう性格は変わりませんよ?でも、皆さんがそう言うなら…ちょっと安心しました」
つられた様に頬笑むルナに、場が一気に和やかな空気になる。
それを打ち砕いたのは、まだいたらしい伯爵令嬢だ。
「どうして、ですか!お父様は、リアなら殿下もカイル様も振り向いてくれるって、おっしゃってたのに…私ではダメですか?」
ポジティブここに極めたり。
今の会話を聞いていて、今の台詞はどうして言えるのか。
毎回ながら、言葉を理解出来ていないとしか思えない。
「ルナ以外はいらない。自室に帰るといい」
「酷いです!リアはずーと、キース殿下をお慕いしていましたのに!!こんな容姿しかないお子様に…」
「帰れ。ルナを愚弄するのは許さない。大公の姫であるルナに、伯爵ごときが勝てるとでも?」
スフィン様の最終通告。
涙目でルナを睨む伯爵令嬢は、ぐっと言葉に詰まる。
「伯爵令嬢・リアノア。第二王子の名において命じる。この場の出入り、もちろん、ルナとの接触も禁止する」
「そうだな。ルナを傷つける輩は必要ない」
キースの命令にスフィン様の援護射撃が入る。
二人とも相当頭にきているらしい。
まぁ、私ももちろん同感だ。
「さぁ、お帰りなさい。ここは、貴女ごときが来る場所ではありません」
私が言うないなや、彼女はキースの膝にいるルナを睨むと捨て台詞を吐く。
「まだ負けたなんて認めないからっ!」
ポジティブシンキングは、まだ折れていないようだ。
去り際もルナに殺気を込めて睨んでいった。
私達は一気に、溜め息吐き出す。
「えーと…お疲れ様です?」
「ルナもお疲れ様。頑張って偉かった」
キースが頭を撫でると、ルナは照れたように笑いながら言う。
「私は何もしてませんよ?」
私達はルナの疑問系の言葉を聞くと、一気に心が晴れる。
打算も計算もないルナは、希少な人間だと思う。
そんなルナの婚約者になれたのは、偶然の奇跡。
奇跡が消えてしまわないように言っておこう。
「ルナ、愛してますよ」
「なっ!?」
赤面するルナを見て、この上ない幸せをを感じた。
可愛い私の婚約者は、照れたままに俯いた。




