No.14 デートは作戦風味
起き抜けに父に奇襲をかけられて、朝から疲労困憊。
兄二人はお仕事らしくて、不在で大変でした。
そんな中、父の命令であのお屋敷から侍女二人が、私の部屋にいらっしゃいました。
一人はスタイル抜群の美女でミリーさん。
もう一人は、赤銅色の髪が可愛らしい美少女のニーナさん。
「婚約者様方に負けないように、綺麗にしましょうね」
「大丈夫ですよ~。うちのお嬢様が一番素敵です!」
ワキワキとするお二人と、私の温度差は激しいみたいです。
後ずさってみたものの、すぐに捕まりました。
すぐに寝巻きのワンピースを脱がされて、あれよあれよというまにオイルマッサージと、ボリュームは抑え気味ではあるものの、淡い紫のグラデーションヒラヒラドレス。
髪を丁寧に編み込まれて、最終的には一本の三つ編み、ドレス生地と同じリボンを着けたら完成。
化粧はしなくていいらしいです。
一安心ですよ。あのまま、続けられたら口から魂が飛んで部屋に引きこもりますよ。
「お嬢様、完璧です~!」
「これからも、誠心誠意御使い致しますね」
「アリガトウゴザイマス…えっ、御使い致します?」
後半に聞き捨てならない言葉を聞いて、顔を引きつらせます。
ミリーさんは綺麗に一礼します。
「えぇ、私達はルナ様の専属侍女です。何なりとお申し付け下さいませ」
「えーと、それは父が決めたんですね…」
「はい、安心して下さい。私達は着替えや必要な時以外は、別室で待機していますから!」
「わ、分かりました。では、今から少し休んで下さいね」
一礼して退室する二人を見て、やっとソファーに沈み混みはます。
本当はごろ寝してしまいたいのですが、せっかく綺麗にしてくれたのに、申し訳ないので諦めます。
目を閉じてフッと、帰宅後に起きてすぐに枕の下に置いた物を思い出した。
何となく気になって、寝室に入って枕の下に手を入れます。
冷たい感触のそれは、濁った赤黒い魔石。
色からして禍々しいですね。
でも、精霊の王様が私に持たせた意味があるのかもしれません。
今はさっぱり分かりませんが。
『やっほ~♪どーしたの?』
『うわー、それ゛じょーか゛されてないね~きもちわるーい!』
手のひらに乗せていると、久々にお役立ちナビ・精霊の登場です。
嫌そうに首を振りながら教えてくれます。
「じょーかって、綺麗にする浄化?」
『そーだよ!きれいにしないと、またわるいもの、あつめちゃうから』
『ルーならできる。きれいになーれ!ってまほうかければ、おっけー♪』
「そうなんだ…?じゃ、やってみるね?」
うんうんと頷いている精霊達を見ながら、深呼吸して赤黒い魔石に、私の魔力を巡らせる。
染み抜きのようなイメージです。
中から綺麗になるように意識しながら。
『やったー♪』
『すごーい!きれいになってくー!』
徐々に赤黒い色から、澄んだ赤に色を変えていく。
全部が澄んだ赤になった時、コンコンッとノックの音で振り返ります。
「おはようございます、ルナ。今度は何をしているのですか?」
「水と風がはしゃいでいる。…それか」
「ん?赤色の魔石は珍しくないだろう?」
顔を出したのは、カイルさん・スフィンさん・キースさん。
そう、婚約者様方です。
あの話の後に、カイルさんのお父さんからは、数分で゛是非とも゛とのお返事と、ドレス一式が送られてきました。
スフィンさんは、里の長に報告すると花束と、魔石のネックレスが送られてきました。
あまりのスムーズな対応に、引いているとスフィンさんが教えてくれました。
「神子の伴侶に選ばれるのは、誉れであり誇りである。何より自分で選んだ伴侶と縁を結べる事は、神よりの祝福」
あぁ…と、納得したようなしないような、何とも言えない微妙な感じがしました。
何はともあれ、私の婚約者が三人になったのは変わらない事実です。
神様は私に、何をさせたいのか問いただしたい気持ちでいっぱいです。
「ルナ、もとは血の色だったか?」
「血の色って、まさか…死の呪いの」
私は正解なので頷きます。
手のひらに乗っている魔石を、三人が真剣な顔で見ています。
「みたいです。精霊の王様が持たせてくれたみたいなのですが…」
「意味が分からない、と」
「はい、お茶目な方だったので…何かしらありそうなんですけどサッパリで」
私が言うと一瞬周りがキョトンした後に、三人は小さく笑います。
「えーと、あの…変な事言いましたか?」
「いや、ルナは面白いな~って思ってな」
「その辺りは、お茶でもしながらお話しましょう?」
カイルさんに誘われて、予定もないのではいと返事をします。
魔石はスフィンさんが見せて欲しいと言うので、断る理由もないので渡しました。
そして、何故か部屋の外へ。
四人で王族専用の裏庭で、仲良くお茶会です。
なぜ、ここなのか?と聞きかけて、海老で鯛を釣る事を思い出しました。
メイドさん達が用意をする最中も、チラチラと視線を感じます。
なるほど…父が侍女を用意したのを分かった気がしますね。
父にちょっとだけ感謝します。
キラキライケメンが三人揃うと、威力がすごいです。
メイドさんの視線も、うっとり三人を見た後に私を見て小さな溜め息を吐き出します。
残念感が隠せてないですかね?
心で戦々恐々としていると、サッとカイルさんはメイドさんからポットを受け取って、私達のカップに注いでくれます。
「さぁ、貴女方は下がってください。後は、私がやりますから」
「いえ、でも…」
「俺達は婚約者との時間を大切にしたい。下がるように」
「は、はいっ!」
キースさんが言うと、サァーと顔を青ざめたメイドさんは一礼するのも忘れて去っていきます。
「教育がなってませんね。メイドとしても、淑女としてもマイナスです」
「そうだな…父上に相談してみるか…」
まぁ、確かに社会人としては、仕事でミスればお叱りを受けるのは当たり前です。
でも、少しでも憧れの人の側にいたい気持ちは分かります。
助けになるかは分かりませんが、ちょっとだけ口をはさまして下さいね。
「マナー講座や新人講習とかはないのですか?」
「マナーこうざ、とは?」
カイルさんが、興味津々で食いついてきます。
私は日本であった新人教育の一貫や、マンモス校の時に習ったマナー講座などを話します。
「基本的には、マナー講座は礼儀作法中心で、新人講習は仕事の正しい対応の仕方など引き継ぎですね」
「一応、メイドになったら一連の流れは学ぶのですがね…」
「学ぶ事に個人差があったりしてませんか?マニュアルを作って、一定の水準まで学べた人をお客様の対応に回す方がトラブルも未然に防げますよ?」
特に対人関係は、マニュアルがあった方が若い子は覚えやすものです。
私も初めてファミレスでバイトした時は、マニュアルに助けられました。
私がそう言うと、キースさんもカイルさんも顔を見合わせて頷きます。
「父上に進言してみよう。その案は、国を更に良くするかもしれない」
「あの、国を、ですかっ?!一般的な考えですよ?」
そんな大それた事は言ってませんよ?
日本で一般的な社会人なら、知っている事ですから!
ギョッとする私に、スフィンさんは目を細める。
その表情は反則です。綺麗すぎて直視出来ませんよ。
カイルさんもキースさんも、微笑みが優し過ぎてくすぐったいです。
「ルナの世界は面白い。考え一つで色々な事が大きく変わる」
「そうですね。メイドだけではなく、学ぶのはどの職業もおなじですから」
「あぁ、騎士だろうが俺や魔導師だろうと変わらないしな。決まった水準を決めたら、救える命もあるだろうし」
「そうですね。レベル一の騎士に、無茶ぶりは出来ないですしね」
無茶ぶりすれば、それはただの嫌がらせか、行き過ぎれば犯罪です。
カップに口を付けながら私が呟くと、パタパタと軽い足音が聞こえてきます。
「今、キース殿下はご婚約者様とお茶会の最中ですので!」
慌てたメイドの声に、デジャブを感じるのは気のせいですか?
軽い頭痛を感じながら、私は諦めに似た気持ちで空を見上げました。




