No.13 婚約者が出来るようです
私は自分の中で警報が鳴るなか、なすすべなく愛想笑いしています。
今すぐ逃げてしまいたいです!
「ルナに提案があるのだが」
「……はい?」
「ディオー、まさかっ!」
父は険しい顔で王様はあの笑顔のまま、まさかの爆弾を投下してきました。
「ルナ、俺の息子の婚約者になってくれないか?」
「へっ?」
「あぁ、そうゆう事ですか。では、調度良いので私も是非、婚約者に立候補します。ルナは複数婚姻者に該当しますよね?」
「そうだな。我が息子だけでは、女心の面で心配だしな…よし、許るそう」
「待て!ルナは餌ではないぞ!婚約も結婚も許さん」
「餌にはせん。仕掛けせんしな。だが相手が勝手に翻弄さるのは知らん。それに、息子に可愛いく優しい子と幸せになって欲しい親心があるのだよ」
テンポよく会話が続きますが、私は頭がついていきません。
どんな話の流れで、婚約者うんぬんの話になったのでしょうか?
最初は王妃様の話でしたよね?
「では、俺も入れてもらおう。魔力的にも二人では不安」
「いいな、牽制にもなっていいだろう」
「良くない!僕のお姫様は、婚約も結婚もしない」
「そうです!ルナは帰還したばかりで、僕達家族と過ごす時間が必要なんです!」
「しかし、このままでもルナに危険は付きまとうぞ?」
「そ、それは……」
王様に押され気味になる父。
いつもの押しの強さは何処へ?
灰になりそうな父と兄達を見て、話の流れが危うい事をヒシヒシと感じます。
そんな私の肩を、キースさんが抱きます。
「ルナの全てを守る。だから、隣で安心して笑っててくれ」
「へっ?!」
チュッと額にキスを落とします。
あたふたする私の前に、カイルさんが膝をついて右手の薬指にキスします。
「私はルナに心を。ルナだけに変わらぬ愛を」
「あ、あのっ!」
スフィンさんは背中に立って、私の耳に囁きます。
「ルナに俺の全てを。男としても臣下としても」
うっとりするぐらいの、甘い声に頷きかけてブルブルと顔を振ります。
ヤバいです。
このまま行くと、十三歳にして麗しい人に囲まれた逆ハーレム完成です。
でも、正面切って『嫌だ』と言えないのは、日本で育ったからでしょうか。
相手が嫌いじゃないから余計に。
どう切り返そうかと悩んでいると、不意に頬に綺麗な手。
「悩むほど私達が嫌いですか?」
「嫌いとかではなくて……」
手の主は憂い顔のカイルさん。
私は左右に顔を振ります。
嫌いじゃないから、困っているんですよ!
「それなら一緒にいよう。不安は俺達が消してやる」
「大丈夫。ルナは愛されるためには生まれてきた存在。愛される事を躊躇う必要はない」
スフィンさんが頭を優しく撫でてくれます。
逃げ道は八方塞がり。
願いを込めて家族を見ます。
「全く知らぬ男よりは……」
「だろ?叔父上はキースとカイルは産まれてすぐに、スフィン殿とも知らぬ仲ではなかろう」
「…キースの腕なら、ルナを任せても…」
「確かに、百歩譲ってカイルとスフィン様なら……」
「よし、問題がないなら決定してしまおう!」
「えっ、本気ですか?!」
私の意思はスルーですか?
この世界の人は、スルー機能が標準装備されているのでしょうか?!
婚約者候補に囲まれたまま、一応頑張ってみます。
私だけでなく、皆さんの将来に関わってきますから。
「これ以上になると…身分を考えると相手は俺しかいないぞ?」
「えっ?!」
「それは許さん!何が悲しくてお前に゛父゛と呼ばれなければならない!なによりズルいだろ!」
ツッコムところ、そこ?
十三歳と三十代半ばでは、軽く犯罪臭がプンプンしますよ。
王様にロリコン説が出てしまいます。
王妃様に続き、危うい噂が流れてしまいますよ!
国民が引きますよ、ドン引きです。
「陛下…、年齢差を考えて下さい」
「父上、親子ほど離れていては臣下は賛成しないぞ」
「ルナは側室にはさせない。王妃を片付けてから出直せ」
三人のダメ出しに、王様は何が面白いのかニヤニヤしてます。
「ルナ、そう言われているが?俺と三人、どちらを選ぶ?」
そう来るか!
選択しに゛婚約なし゛が含まれていません。
二択しかないの?
しかも、二択のうち一つが王様の側室って。
なかなかハード過ぎますよ。
顔に笑顔すら張り付けるのが無理になって、非常に情けない顔になってしまいます。
そして、考えを巡らせてフッと何かが引っかかります。
王妃様の話からの急な婚約話。
゛餌にはさせない゛と、父が言った事。
゛相手が勝手に翻弄されるのは知らん゛と、王様が言った事。
点と点を繋いでいくと、嫌な予感しかしない答えが導き出されます。
海老で鯛を釣る。
海老は私達で鯛は王妃様達。
小さな戦力で大きな相手を釣る。
効率的にも安全性も考えての事だと思います。
視線を王様に向けると、想像が正しいのか、王様は良くできましたとばかりに微笑みます。
「歓迎するぞ。今からでも父上と可愛く呼んでくれ」
王様の言葉を最後に、私に婚約者が三人出来たみたいです。
波乱の前触れと思うのは、私だけでしょうか?
乾いた笑いを浮かべながら、そっと溜め息をつきました。




