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No.10 少女の帰還はいつ?~王子様の思い


【キースside】


ルナが忽然と姿を消してから四日。

父上の騎士達が探す中、ルナの消息が分かったのは昨日。


『彼女は精霊の国にて保護・療養中です』


現神子のオーリン殿が、困惑気味に伝えてきた。

俺達は進まない時間を、ジリジリとしたまま過ごしている。


その中で頭を埋めるのは、ルナとの出会いから今までの事だった。

ズキンから見えた白銀の髪をなびかせて、破落戸相手にしなやかに沈めている姿は、踊っているようで美しく見とれた。

瞳はアメジストがキラキラ輝いていて、すぐに誰か分かった。

ルナ・スノーヴァ。宰相の末娘にして、次期精霊王の神子。

そんな彼女と話してみると、誰に似たのか不明なくらいに遠慮深く謙虚。

優しさの溢れる子だった。

何より、人嫌いのカイルの心に入り込めたルナはスゴイ少女なのかもしれないと。

同時に、これからも付き合いは続いて行くだろうと直感がした。

それからも、ルナは毎回の様に俺達を驚かせた。

魔力測定機を、破壊・改良・再生してみたり。

魔法にしか興味を示さないスフィン殿が、ルナに臣下の誓いを口にしたり。


゛強くなりますー…、守れるようにー…゛


誰よりも、真っ直ぐな言葉と強い瞳に、俺の中で何かが動く気がした。

そして、決定的になったのは…母とは呼びたくない人が、ルナの部屋に奇襲した時だった。


『…人を、心を、何だと思っているのですか。恥を知りなさい!』


スフィン殿の風魔法で聞こえてきた会話は、俺達の心を真綿で包むような優しさの溢れる言葉で、心が満たされる感じがした。

恋愛推奨派の父の息子でも、王族であり結婚も少なからず打算や政略であっても仕方ない。

それは、公爵家の次男カイルも大公の息子であるティーノもジルも、自分自身でどこかで諦めていたのに…

小さな少女は、俺達のために王妃である人間に意見してくれた。

あぁ、なんて愛おしい子なんだろう。

優しいだけではなく、頬を腫らしながらも頬笑む少女の心は強く健気だ。

だから余計に、彼女を守ろうと思っていたのに。

その矢先にこの失態。

次こそは、何があっても丸ごと守ってみせる。


決意して顔を上げた瞬間。

小さな光の粒が集まり、大きな光になる。

俺達は目を守るために、腕で顔を庇うとすぐに光がおさまる。


『王からの伝言だ。次ぎはないと思え。次は帰さない、と』


現れたのは、漆黒の狼と丸まって浮いているルナ。


『貴方はだれですか?』


『あぁ、コイツの兄弟か。お前に名乗る筋合いもないだろ』


『ルナは生きているんだよな?!』


『当たり前だ!コイツに掛けられた死の呪いの魔道具は壊した。魔力も半分は回復したが、酔うだろうから気をつけてやれよ。じゃーな!』


ポンッと音が鳴って消えるのが早いか、ルナが落下するのが早いのか。

慌ててキャッチしたルナは、青白い顔で寝息をたてていた。

小さな体は、少し震えているが外傷はなくて安心する。

震えは魔力酔いからだろう。

魔力酔いは、軽度なら寝てればよし。

重度の場合は、癒し人に治療してもらう。

癒し人とは、魔導局の医療班で元を正せば魔導師である。

魔導局の長であったスフィン殿は、当たり前に治療が出来る。


「キース殿下、そのまま椅子に座ってくれ。ティーノは毛布を、ジルは人が来たら教えてくれ」


「はいっ!」


「了解。魔力関係は俺には向かないしな。対人間なら任せとけ」


ティーノとジルは、スフィン殿の指示に従う。

カイルはスフィン殿と話をした後、俺を座らせるとルナの周りがホワホワと温かくなる。


「魔力でルナの周りだけ温めています」


「ティーノの方が魔力もあって良いのではないか?」


ルナを抱いたままスフィン殿を見ると、左右に首を振った。


「ティーノは水と土。殿下は光。より癒しに向いているのは光で、現在でも神官は光が多い。水が癒しになると分かったのは、ここ百年前後」


「持ってきました!」


スフィン殿はルナに毛布をかけながら、呟くように言うと、額に指を置いて更に小さく呟く。

呟きが終わる頃、ルナの頬はほんのり赤く為って震えが止まる。


「後は、魔力消費による発熱だから睡眠だけで大丈夫」


「…良かった」


空いた手で頬を撫でると、ルナはスルリッとすり寄ってきた。

甘えるのが下手なルナがした、初めての仕草が可愛くて自然と頬が緩む。

ルナが無事で本当に良かった…。


「それにしても…証拠はないのですよね」


「そうでしょうね。いくら優しいルナでも、拉致しようとした相手に魔法を使わないのはおかしいです。僕なら仕留めるのに…フフッ」


「そうですね。犯人は断罪のために生かしますが、生きてるのを後悔させてやりますね」


お互い笑顔なのに、背中に真っ黒な霧を背負っているな。

コイツら二人を怒らせると、面倒な上に厄介なのは自体験でで知っている。

怒らせたのは、想像はつくし確信している。


「でも、断罪する材料がない」


「次からは俺が防御魔法を張ろう。少しは対策になる」


「ですね。次はもっと過激に成るかもしれないですから」


俺の言葉にスフィン殿とカイルが難しい表情をする。


「…ーんっ…」


しばらく重い空気が包む中、苦しいのかルナが小さな声をもらして、ギュッと小さな手が俺の服を掴む。

それだけの事で空気が緩む気がする。


「まずは、ルナを寝かせよう」


「ですね。熱が上がりますから交代で看病しましょう」


カイルの言葉に意をとなえる人はいなかった。

俺達の中でルナの存在が大きくなっていく事に気がつく。

誰にでも優しいルナ。

いつか特定の誰かに頬笑む姿を想像して、モヤモヤしたものを感じる。


ベットに寝かせながら、それが遠い未来である事を願った。

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