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インチキ霊能師しおりの祈祷暦   作者: あかさたなは
1/7

かまきりしょうず

 鉄道沿いの片側一車線から、山手に折れた上りを三分ほど歩いた左側に、小さな雑木林がある。

土地の産土神やらを祀ったこぢんまりとした社だ。

 なかなか歴史のある神社らしいが、老朽化が酷い。二年前に地震があった時分に、取り壊す話があがったことがある。

 地元の住人が声を掛けあって、ボランティアが修復作業をすることになった。そのときに率先して声を上げたのが渡辺澪だ。

 澪ちゃんは僕の幼なじみで、それは聡明で利発な女の子だった。

小さいころは毎日のように遊んだものだが、歳を重ねるにつれ意識するようになり、だんだんと疎遠になっていた。

当時高校生だった僕は、元気で自信に溢れている彼女に、遠目から憧れていたものだ。そのころには、いわゆる高嶺の花になっていた。

 その彼女の誘いは、もちろん僕の方にも届いた。

 嬉しい反面、辛くもあった。彼女には山本昇という彼氏がいた。彼女がマネージャーを務める蹴球部の一年先輩だ。

この男の評判が余りによくない。奴と一緒にいて笑う澪ちゃんを、僕は見たくはなかった。

 振り返ると、なんとも情けない理由だが、僕があのボランティアに参加しなかったのは、そんな訳があったからだ。


 地震の規模はそれほどでもなかった。いつ倒れるかと友人と賭けていた、中村さんちの庭にある不安定な石灯籠でさえ揺れた形跡がなかった。

記憶では、この辺りは震度三あるかないかだ。

 ボランティアは予定通り集まり、中でも近隣の工務店が協力してくれたおかげで、修復は順調に進んだそうだ。

 事故があったのは、何日かめの夕方近くだと聞いた。

 石の狛犬がボランティアの男性の上に落ちてきて、彼はそのまま亡くなった。

 耳にした話によると、男性の彼女だと思われる長い黒髪の女性が、彼を抱いていつまでも泣いていたのが印象的だったらしい。

 問題は澪ちゃんだ。

 自分が声をかけたボランティアで、人が亡くなる事故があったことを、はなはだ気に病んでいたという。

 あれから僕は、澪ちゃんを見ていない。うわさでは身体を壊して入院したとか、引きこもっているとか、山本とは喧嘩して別れたとか、自殺未遂をしたとか、いろいろ沈鬱な話を聞いた。

 

 鳥居の前にたって、石柱にかかる葉の裏にぶら下がる、細かなかまきりの、いくつか連なるのを見ながら、僕はそんなことをなんとなく思い出していた。



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