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キセキが起きるその場所へ

その絵の名前は『  』

作者: あかり

 その日は、朝からすごく天気がよかった。


 ある日と突然異世界に飛ばされてきたわたしこと、相良茉里が男だらけの旅の一行に拾われて、気が付けばもう数か月が過ぎていた。旅の一行のお母さん役のコウヤさんに頼まれた通り、洗濯物を干し終えたわたしは、一度背伸びをして体を解した後、空になった洗濯籠を抱えて移動車に戻った。 


「・・・・・あれ?」


 移動車に戻った時、その違和感に気づき首を傾げる。

 なんで誰も居ないんだろう。

 籠を定位置に戻して、わたしは周りを見回してみる。

 サンジュ父さんも二―ルくんの姿も見当たらない。いつも移動車に居るコウヤさんやバーントさんでさえ居ないのだ。

 ほんと、どこに行っちゃったんだろう?

 今移動車が止めてあるのは森の中。すごく穏やかな所で、山賊も出ないと判断したから、みんな散歩かなにかに行っちゃったのかな。

 そう思って、わたしもちょっと辺りを探索してみる事にした。


「マツリ、どこに行くんだい?」

「あ、ルイさん」


 木々の間をすり抜けようと足を進めた瞬間、そう遠くない場所から声が掛かった。もちろん声の主は、女性顔負けの美人さん(男性だけど)であるルイさんだ。

 振り返れば、いつもの暑苦しい旅装束ではなく、マントや上着を脱いだラフな格好のルイさんが立っていた。ベストを着ていない彼は、カッターシャツのボタン上二つを外して、袖は二の腕まで捲っている。非常に涼しそうである。

 外気に惜しげもなく曝け出した腕が異様に眩しいのは何故だろう。あれかな、光の反射かな。・・・あ、でも、なんで腕が光の反射をうけるんだろう。

 頭の隅で変な事を考えつつ、それでもルイさんの元へ歩いていったのは、きっと習慣なんだ。ルイさんやサンジュ父さん達、知り合いを見つけたら、すぐに彼らの傍に向かうべし。それが、この世界で生きていく術の一つと言っても過言ではない。


「ねぇ、みんなどこに行ったの?移動車に居なかったけど」

「あぁ、団長達なら近くの川の岸辺で昼寝をしているよ」

「ひ、昼寝?」

「私はマツリに呼びに来たんだ」


 そう言われて、ルイさんに連れられるがままに歩き出す。

 今思ったんだけど、本当にルイさんは髪結ばないよね。確かに風に揺られてて綺麗だし、少しは涼しいとは思うけど、やっぱり髪の短いわたしとかに比べれば暑いと思うだけどなぁ。

 でも、先日の件もあって、わたしはそれを指摘しなかった。

 光の反射で、ルイさんの長い髪が黄金に輝いて見える。なんだろう、彼の体の一部一部が光の反射を受ける造りにでもなってるんだろうかと疑うくらい、彼はいつも輝いてる。

 腹の中はあんなにどす黒くて大変なことになっているのに。


「ん?どうかした?」


 爽やかな笑顔のルイさんが後ろを振り返った。その後ろは黒く濁っている。


 ……目の錯覚かな、やっぱり。

 

 それから少し歩いて、木だらけだった視界が開けた時、初めて川があることに気がついた。 


「……」


 その岸辺の、丁度木々で日差しが遮られている所に、みんなが居た。

 ルイさんの言った通り昼寝をしているようで、彼らの周りはすごく静か。

 サンジュ父さんは大の字になっていびきをかいている。バーントさんはサンジュ父さんからそう離れていないところで自分の腕を枕にして眠っていて、日差しを遮るように顔に帽子を被せていた。その隣にはセピアが丸まっている。カインもバーントさんと同じように頭の後ろで腕枕をして仰向けに眠っていて、そのお腹を枕にするように、二―ルくんが眠っていた。コウヤさんも、横にはなっていないものの、近くの木の幹に凭れ掛かるように座ったまま腕を組んで目を閉じている。


「・・・なんか」

「ん?」


 ルイさんもさっき彼が居たと思われる木の根元に腰を落ち着けた後、わたしを見上げてきた。

 けれど、わたしの視線はみんなの方を向いたまま止まっていた。

 なんだろう。

 なんか、一つの絵を見ているような気分になっていた。

 それは、普通の日常の一コマなんだけれど、でも、すごく胸が温かくなるような光景。

 木々と、川、そして暖かで柔らかな夏の日差し。その中で、気持ち良さそうに時を共有している人々の姿。

 一つの芸術になっていると思った。

 もしも、この絵に名前をつけるとしたら、それは……。


「マツリも、おいで」


 ルイさんが手招きをしてわたしを呼んでくれた。

 それはまるで、わたしも絵の一部になってもいいよと誘ってくれている感じで。


「うん」


 喜んで返事をする。

 昼寝をしているみんなを起こさないように、わたしもルイさんの隣に向かった。そして、木に凭れ掛かっている彼の隣に横になって目を閉じる。

 すぐ近くには、コウヤさんも座っていて、いつも以上に穏やかな瞳の色でわたしを見つめてきた。顔にはなんの表情も浮かんでいないのに、その瞳に吸い込まれそうになる。

 そんなわたしの頭を撫でてくれるのは、見た目はどれだけ中世的であろうと、やっぱり男の人なんだと感じさせてくれるルイさんの大きな手。

 二人の間で昼寝の準備をしていたわたしは、気持ちの良い地面の感じと、穏やかな空気に包まれてすぐに眠くなった。

 完全に意識を持っていかれる前に思いついた、この絵の名前。

 

 

 この絵の題名は、そう、『日向ぼっこ』



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