地方大会決勝・中堅
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
先鋒のゆめに続き、次鋒である由莉も勝利を収めた。
この調子で優勝をもぎ取ってくれれば、
俺もいくらかはやりやすくなる。
無論負けるつもりはないが、
かといってプレッシャーを背負いながら楓に勝てる自信はあまりないからだ。
ともかく、戻ってきた由莉を見た穂花はこういった。
「これは幸先がいいわね。このまま決めちゃってもいいのよ」
「それはフラグよ。でも、このまま決められば大分楽なのも事実ね」
そういう幸美に対し、夏葵はこういう。
「死亡フラグ?試合なんだし死ぬことはないから、死亡フラグは折れてるも当然よ」
「この場合は敗北フラグ、とでもいうべきかしら。私にとってはどうだっていいけど」
それに対し、由莉はこう返す。
「どうでもいいんだね」
「まあ、幸美は流行を追うより、気が向いた時にアニメを見るタイプだと思うから」
するとゆめはこういう。
「ということなんだけど、実際どうなの?」
「その通りね。私はアニメは良く見るけど気に入った作品が中心だから」
「おすすめのアニメは聞かないでおくわ。マニアックなのが出そうだから」
すると、幸美がこう返す。
「それなりに知名度があるものなら、ゲーム原作のタイムトラベル物とかがおすすめね」
「ああ、ヒロインの男の娘が途中で性転換する奴?」
「どういう覚え方よ、それ」
「あれはゲームのウィキとかを見るにハッピーエンドだったから最後まで見たけど」
ゆめがいわんとしていることを理解したのか、幸美はこういう。
「あの作品を作ったのは後にあのメタゲーを作った会社だから」
「なんでエロゲーのことを知ってるの?私は検索してたまたま見ただけなのに」
すると、幸美はこう答えた。
「ヒロインの一人に……」
「なんだろう、それ以上踏み込んじゃいけない気がする」
「ゆめのいう通りね。やめておくわ」
そういう幸美に対し、俺はこういう。
「なんでそんな気がしたのか分からんが、エロゲーだし深く触れない方がいいだろう」
「そうね。そろそろ、私が出ないといけない時間だし」
そういって幸美はマットへと上がる。
そして、映美もまたマットで相対する。
「さあ、盛り上がってまいりました」
「この展開までは予想できていたかもしれませんが、それでも少しは動揺があるかもしれません」
「何しろ、初参加の玉央学園が二勝して優勝にリーチをかけようというのですから」
「一方、二勝された八笠台学園ですがこのまま終わるわけにもいきません」
「ここで優勝を決めたい玉央学園と阻止したい八笠台学園」
「この中堅戦からは目が離せません!」
「玉央学園の中堅高見澤幸美。八笠台学園の中堅、高須賀映美」
すると、映美はこういう。
「あなた、かなり冷静そうね」
「それほどでもないわ。そういうあなたはどっちかいうと冷静なんじゃないかしら」
「まあね。水のように冷たいといわれるわ」
「あなたは水で私は氷。この戦い、どう転ぶかしら」
「とりあえず、構えないとね」
映美がそういって構えると、審判がこういう。
「それでは、試合開始です!」
すると、最初に幸美がこういう。
「フリーズブレード!」
彼女は右手に氷の剣を精製する。
相手が水属性である以上、距離を取って戦うのは厳しい。
風属性以上に距離を取った戦いを得手とするのが、
水属性だからだ。
「さすがに、距離を詰められたらこっちが不利ね……」
映美はそういうと、こう叫ぶ。
「ウオーターカッター!」
映美はそういって水のカッターを放ち、
強引にでも距離を離れさせようと画策する。
「強引に距離を取ろうたって、そうはいかないわよ!」
しかし、幸美はカッターを出した映美の右手側に回る。
幸美から見たら左に回りこんだわけだ。
「さすがにそうくるわよね。でも!」
「何かしようっていうの?そう簡単にはいかないわよ」
「ウオータースプリーム!」
映美の右手から、水が拡散して放たれる。
「フリーズシールド!」
幸美は左手側に手持ちの盾を形成する。
氷で出来たそれは剣と対になるかのようであり、
その盾で拡散した水の中で幸美に向かうものは全て弾かれた。
「見た目は綺麗だけど、そのまま切りつけようっていうなら!」
映美は幸美の左側へと回りこむ。
「そう簡単にはいかないわよ。私はここで負けられないから!」
「やるわね……といいたいけど!」
幸美はそれを予測していたといわんばかりの動きで、
左手の盾を映美に向けてこう叫ぶ。
「シールドプッシャー!」
すると幸美は持っている盾でそのまま映美を攻撃する。
「っ!」
氷の盾で殴られたので、映美はひとたまりもない。
といっても制服の効果で致命傷は避けられるのだが、
やはり少しながら痛みは伴う。
それは魔道という形で戦う以上仕方ないことなので、
選手は常々覚悟していることだが。
「勝負あり!幸美選手の勝利です」
それを聞いた映美はこういう。
「盾で殴ってくるなんて、考えるわね」
「ああでもしないと勝てる気がしなかったのよ」
そういって幸美は、そのまま俺達のところへと戻ってくるのだった。
続く