地方大会決勝・次鋒
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
決勝戦でも先鋒のゆめは勝利したので、
俺はさすが演劇部だなと感心していた。
ともかく、戻ってきたゆめに俺はこういう。
「やったな、ゆめ。とりあえず先鋒戦は制したし、この調子でいって欲しいな」
すると、夏葵がこういってくる。
「あのさ、真彦」
「どうしたんだ?」
「前は遮られちゃったけど、テンプレについていいたいの」
「先鋒戦が終わった後っていったもんな。で、あの時何ていおうとしたんだ?」
「見る人のウケが重要だっていってたけど、ウケるからこそテンプレなのよ」
すると、夏葵はこういう。
「王道っていうのは面白いから王道になったわけだし」
「勧善懲悪の物語か。娯楽が多様化し、陳腐な印象も受ける奴が居るのも事実だ」
「しかし娯楽が今ほど発達していなかった世の中じゃ、その痛快さはウケがよかったんだろう」
そういう俺に対し、夏葵はこう返す。
「あなたとしてはどうなの?」
「前にもいった気がするが、いい奴が誰も報われないような救いのない物語は好きじゃない」
「だから、そういう単純な勧善懲悪の物語を見れば元気がわいてくるんだ」
そこに、由莉が入ってきてこういう。
「私もわかるわ。悪を征し世界を救う勇者の物語って、単純だけどスカッとするよね」
「私はそういうお約束が好きってわけじゃないけど、そういうのは好みだと思うから」
幸美は冷静な彼女らしい返しをした。
それを聞いた穂花はこういった。
「私は幸美の意見も分かるけど、正直どうでもいいかなって」
「アニメとかには興味ないの?」
そういって穂花に問いを投げかけたのはゆめだった。
「私は暇な時は町を散策するタイプだから、そういうのに興味はないかな」
「意外とアウトドア派なんだな」
「山とかにはいかないから、真彦のいうようにアウトドア派ともいえないかな」
すると、夏葵がこういう。
「定義によるわね。割と外に出るんだし微妙なラインかもしれないわ」
「それはどうでもいいだろ。ぼさっとしてないでそろそろ次鋒が出ないと」
それを聞いた由莉はこう返す。
「そうね、それじゃあ行くわよ!」
そういって由莉はマットへ上がる。
「さあ、決勝戦から凄まじい勝負を見せてくれます」
「この決勝戦はまさにどちらが勝っても可笑しくない、優勝争いに相応しい戦いといえるでしょう」
「玉央学園には初参加初優勝が、八笠台学園には祈願の優勝がかかっています」
団体戦は個人戦と違い時間もかかるので、
全国に進出できるのは優勝者のみである。
俺は全国大会に興味が無いものの、できうるなら優勝したいのだけは事実だ。
故に全国大会に興味が無いという理由で降りる、なんてことはしないのである。
「さあ、次は次鋒同士の対決となります」
「玉央学園の次鋒三枝由莉。八笠台学園の次鋒、駒込栞里」
それを聞いた栞里はこういう。
「あなたが楓の妹さんなのね。楓が女装したらそんな感じになるのかしら?」
「お兄ちゃんは女装しないっていってたわよ」
「確かに、無理やり女装させようとする人は返り討ちに合ってるからね。寮だから寝込みを狙えないわけだし」
「もしかしてなんだけどさ。あなたは、お兄ちゃんを女装させたいの?」
「別に、そんなことは考えていないわ。そういう人が居るってだけの話よ」
「ならいいわ。お兄ちゃんを女装させたいとかいったら逆上してたかもしれないけど」
「そういうのは正直にいうのね。人前だからいきなりぶん殴りはしないと思ったけど」
「とにかく、構えるよ。あんま長話するのも良くないから」
それを聞いた審判はこういう。
「それでは、試合開始です!」
合図と共に、二人は合間見える。
「バーニングフィスト!」
栞里の拳に覆われた炎が、楓を襲う。
「ウインドストリーム!」
楓の掌から放たれた突発的な風が炎を消すが、
それにより風は勢いが衰えてしまう。
「さすがに不測の事態は予測してるのね。でも!」
栞里はこういうと、楓に近づいてくる。
「そうはいかないよ。ウインドハーケン!」
切り裂くような風が栞里に向かう。
「牽制してくるなんて……結構冷静なのね」
「炎属性が相手なら、あまり近づかせたくはないからね」
「だけど、近づかせてもらうよ。じゃないと、勝てないからさ。バーニングフィスト!」
栞里はそういうと、由莉から見て右方向に拳に纏った炎を放つ。
「左に旋回させて、近づくっていうのね」
「分かっていたなら、どうして近づけさせたの?」
「近づかせたくはないってのも事実だったけど、近づいてもやりようはあったのよ」
由莉はそういって、栞里に近づきつつこう叫ぶ。
「ウインドスラッシャー!」
由莉の右手に剣のような風流が生まれ、その剣は栞里を切り裂く。
「それが狙いだったなんて……」
栞里がそういうと、審判はこういう。
「勝負あり!由莉選手の勝利です!」
すると栞里はこういう。
「由莉が油断を誘うなんて、あまり考えなかったわ」
「搦め手を使わなきゃ、勝てる気がしなかったからね」
由莉はそういって、俺達のところへと戻ってくるのだった。
続く