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荒丘学園の最後

 俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。

 準決勝も主将戦までもつれ込んだがどうにか俺達のチームの勝利で終わらせ、

無事決勝進出を決めた。

 そして準決勝二戦目。

 いよいよ八笠台学園と荒丘学園の戦いだ。

 お互いの先鋒同士がマットに上がる。

「荒丘学園の先鋒、橋田道成はしだみちなり。八笠台学園の先鋒、逸見文香いつみふみか

「力で全てを制さんがごとき荒尾学園に、対する八笠台学園はどう戦うのでしょうか」

 試合が始まる。やはり道成は力で押そうとするが、

文香はそれをいなしながら戦う。

「力だけで勝とうなんて、十年早いのよ。食らいなさい。フリーズストリーム!」

 そして作られた氷の柱により文香は道成を倒す。

 続く次鋒細動道褌さいどうどうみちも、

やはり駒込栞里こまごめしおりによりいなされる。

 会場に動揺が走る、かに思われたがそうでもない。

 力任せに戦っていた荒丘学園には威圧感こそあったものの、

どこかで実力に疑問詞が付いていたのだ。

 本当に彼らは強いのか?

 彼らがここまで来れたのは力が強いのもあるだろうが、

運もあるのだろうという思いからその気持ちは生まれていた。

 たしかに小技だろうとも、

当たったら八笠台学園の生徒であっても耐えられそうにないほどだ。

 だが、いかんせん速さが足りてない。

 今までは圧倒的な力ゆえにそれが隠れていただけだが、

荒丘学園の生徒はパワーと引き換えにスピードを犠牲にしていた。

 しかもそれを補うような技量が別段あるわけでもない。

 スピードを犠牲にしても補える技量があるなら、

一撃必殺の力は末恐ろしい物となる。

 しかし彼らの技量はそこまで高くない。

 伝統に胡坐かいているような連中であればまだ通じたのだろうが、

相手は楓の居る八笠台学園だ。

 たとえベスト16で何してくるか分からない状態でも、

わりとどうにか対処できただろう。

 いまでも道秀の圧倒的なオーラは消えないが、

それでも冷静に判断できていた。

 実際に荒丘学園の中堅である浮田奈央香うきたなおかもまた、

高須賀映美たかすかえみにいなされて倒されていた。

 八笠台学園の勝ちが決まった時点で誰もが思った。

 荒丘学園の生徒の力は強い。

 だが、それだけなのだと。

 その雰囲気を払拭したいと思っているだろう荒丘学園の副将、松長久英まつながひさひで

 しかし彼も彼で、やはり菊屋聖人きくやせいとの前にいなされてしまう。

 それを見た道秀は、マットに上がった時こういう。

「くそっ、当たりさえすればこんな奴らなんかに!」

 すると、楓はこう返す。

「そんなことをいっている間は、まだ三流だよ」

「さあ、いよいよ準決勝最後の戦いです」

「力だけでここまでのし上がっていた荒丘学園。しかし世の中そう甘くはありません」

「八笠台学園の生徒達の前では、何もできず敗れ去っていってきました」

「果たして、この戦いの行方はどうなるんでしょうか」

「荒丘学園の主将、明次道秀。八笠台学園の主将、三枝楓」

「試合開始です!」

 それを聞いた道秀はこういう。

「ふざけるんじゃない。俺は、俺は……強いんだ!」

「その強さには何も伴っていない。だから所詮、その程度なんだよ」

「ウオーターカッター!」

「そんなスピードで当てれると思ったら、大違いだよ」

 そして、楓はこういう。

「最後に教えてあげるよ。僕は爆発が専売特許じゃないってことを!」

「くっ、ウオーターフレイル!」

「ブーストナックル!」

 楓は水で出来た槍から右方向に逸れつつ、

地面を滑るように加速して道秀を殴り飛ばす。

 といってもマットくらいの距離ではそう加速しないので、

制服の効果もありせいぜいアマのボクサーに殴られたくらいの痛みで済む。

 要するにそこそこ痛いことは痛いのだが、骨折とかはしないくらいの痛みだ。

「勝負あり、楓選手の勝利です!」

 それを聞いた楓は道秀にこういう。

「もっと精進してよ。その時は、性根もちゃんと直して来てほしいかな」

「くっ、いいだろう。また来てやる!」

 道秀はそう吐き捨てて去っていった。

 その後も3位決定戦があるのだったが、

荒丘学園はそこでも負けを喫した。

 俺達と戦った旗井山学園が力任せな連中に負けるなんて思えなかったので、

当然の結果であったが。

 そして決勝戦の前に、休憩が入る。

 そこに、楓がやってくる。

「勝ったよ。これで、安心して戦えるよ」

 それを聞いて真っ先に反応したのは由莉だった。

「さすがお兄ちゃんね。あの波動も、ちゃんと打ち払ったわけだし」

 確かにそうだ。

 まるであのパンチが切欠になったかのように、

道秀から感じた危ういオーラは掻き消えていた。

「威圧感だけはあったからね。実際あのパワーだと油断はできなかった」

「少しは不安だったの?」

「ああ、彼らに技量があったらとも思ったよ。けど……」

 そして楓は、俺達にこういう。

「妹の居るチームに彼らをぶつけさせはしない。その思いがあればこそ、それは力になったんだ」

 それを聞いた俺は、こう返す。

「それじゃあ、決勝でくいのないようにやりあおうぜ」

「分かっているよ。妹が居るからって、手は抜かさせないさ」


続く

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